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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
244/250

組み立てる ※未完

お題:暑い父 制限時間:1時間 文字数:1596字


都心部を離れると途端に街の明かりが乏しくなるものだけれど、俺たちが車を走らせているところに至っては街灯なんて一つも見当たらない。車のヘッドライトだけが闇夜を切り裂いて、俺たちの前方を照らしてくれている。

左手に適当な空き地を見つけて、運転していた彼に教えると休憩がてら車を停めることになった。エンジン音がやむと、しんと車内が静まりかえる。ライトが消えると辺りは真っ暗だ。

小一時間、運転を続けていた彼が「ふう」と息をついてシートベルトを外す。


「ちっさい頃に住んでたって言ったけど、65区には大して愛情がないんだよね」

「…愛情?」

「何、その顔」


いや、彼が愛情だなんて彼らしくもない言葉を使うものだから驚いてしまっただけだった。お前は感情が表情に出ない、と言われる俺でも今回は驚きが表れたらしい。彼はちょっと不服そうに見える。

ともあれ、このペースだとまた話が長くなりそうだなと感じたので「何でもないよ。続けて」と促す。彼が冗長に話したがる時は決まって緊張か警戒の状態にあるからだ。ストレスはこまめに発散するべき。状況的にそれが芳しくなくとも。…たぶん。

彼はさして気分を害したわけでもないようで、「愛情って言葉の選択が悪かったかな…」と考えながら車を降りる。俺も彼にワンテンポ遅れて車から降りた。

空き地の周りには、耕作が放棄されて荒れ放題になっている田んぼがあった。というか、元田んぼの草地しかなかった。そこかしこでスズムシやらコオロギらしき鳴き声が聞こえる。

見上げると、空には半月が浮かんでいてたくさんの星が散らばっていた。


「『愛着がないの?』『自分が住んでいた家に帰れないことが悲しくないの?』ってよく聞かれるんだけど、俺は返答に困る。そりゃあ、俺だってあの家で楽しく過ごした日が一日でもあれば悲しんだだろうさ。友だちと遊んだことがあれば寂しくもなるだろうさ。でも、残念ながらそうじゃない」

「覚えてないんだっけ」

「うん。人から聞いた話しか知らない」


彼は車の後方にまわってトランクルームを開けると積んでいた荷物を下ろした。

彼がかつて住んでいた65区に関する記憶を彼は持っていない。五歳まではその土地にいたらしいので、朧気でも建物なり人なりを覚えていて良さそうだけれど、記憶が丸ごとなくなっている。無くさざるを得なかったと言い換えてもいい。

彼の故郷である65区は侵食され、彼の両親は亡くなり、彼は両親の所属していた組織に引き取られ、65区を離れた。それからずっと色んな土地を転々としてきて、最近俺たちに捕まった。

おしゃべりな彼であっても小さい頃の自分については語りたがらない。俺も無理に聞きだすつもりはない。この数年に関してはぽつぽつと話すようになった彼の歩いてきた人生なんて、第三者から聞いた話を参考にして推測するしかないけれど、まあ、積極的に話したいような内容でないことは確かだ。

彼は車から下ろしたボストンバッグを地面に置くとチャックを開けた。明かりもないのによくもまあ手探りで目的のものを取り出そうとするもんだな、と思って見ていたら「手伝えよ」と怒られた。

ポケットに入れていた携帯端末を取り出してライトを点けると「うわ、眩し」と彼が咄嗟に手をかざす。ライトをバッグの中に向けると、彼はバッグの中でばらばらになった部品を組み立て始める。手伝えと言われても構造を知らない俺には手を貸せない。


「聞いた話でも、俺の家族はどうやらあんまり良い家庭を築けていなかったみたいなんだよね。両親の思い出話とかを聞いてまわった頃もあったけど、胸糞悪くなるだけだからやめた。あの人たちを根っからの悪人、と言うのはさすがに言い過ぎかもしれないけれど、どっちみちもう引き返せないところにはいた」


彼は喋りながらでも手は休めないので、順調に目的のものが組み立てられていく。


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