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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
240/250

調査へ ※未完

お題:明日の紳士 制限時間:1時間 文字数:1856字


「青葉くんいる?」


上司の声が聞こえて向き合っていたパソコンの画面から顔を上げる。雑然としたオフィスは珍しく多くの人員が出払っていて、室内には俺と斜め向かいで仕事をしている同僚のみっちゃんしかいない。

声が聞こえてきた入り口を見やれば、にこにこしている髭面の上司。その隣には見知らぬイケメンがいた。


「はい」


ぱっとデスクを離れて上司の元へ向かうと「紹介するよ」と上司は隣の男を指した。


「新山くん。この前言ってた新しいパートナーだ」

「新山です。話は深町さんから聞いています。よろしくお願いします」


第一印象としては真面目で緊張しいな人。


「青葉です。よろしくお願いします」


一礼した彼の顔は間近で見ても端正だった。目はくりくりとしていて、すっとしている鼻筋、きめ細かい肌に薄い唇。背は俺と同じぐらいだけど体重は俺よりも軽そうだ。見た目は二十代。スーツ姿の職員が圧倒的大部分を占めているこの職場で、新参者の彼はTシャツにカーディガンを羽織り、サルエルパンツとスニーカーを履いている。この場に面食いな部下たちがいたらさぞ盛り上がっただろう。

上司が「早速で悪いんだけど」と切り出す。


「今から二人で調査に行ってきてくれる?」

「ずいぶん急ですね」

「うん。さっき日比谷さんから連絡が来てね。場所はA地区25番地。詳しいことは現場で聞いてくれる?日比谷さんがいるはずだから」


「わかりました」という声が新山さんとハモる。それから上司は「総務課に用事があるから」と言って部屋を出ていく。

新山さんにはちょっとだけ待っていてもらい、俺はデスクにとって引き返し、パソコンの電源を落とす。いつでも調査に出られるよう準備しているリュックを引っ掴んで、斜め向かいで猛然と作業しているみっちゃんに声をかける。


「みっちゃん、調査行ってくるから後は頼んだ」

「へーい。いってらー」


パソコンの画面から少しも目を離さないみっちゃんの適当な返事を聞き、ドアの前でぽつんと待っていた新山さんの元へ戻る。

「お待たせしました。行きましょう」と声をかければ「はい」とやや固い声が返ってくる。俺たちは同い年だと聞いているが、初対面ではなかなか緊張も溶けないのかもしれない。


「新山さんって免許持ってますか?」


エレベーターが上がってくるのを待つ間に話しかける。「持ってますよ」という答えが返ってきて俺はほっとした。


「じゃあ、悪いんですけど社用車を運転してもらえませんか?俺、免許持ってなくて」


「わかりました」とまたもや固い声で返ってきたが「しかし」と遠慮がちに言葉が続く。


「俺、A地区に行ったことがないので道がわかりません」

「道は案内しますよ。ここら辺の地図は頭に入ってますから」


「よろしくお願いします」と答えた彼が安堵してみせた表情に、一目惚れする人も多いかもしれないと呑気なことを思ったら、ちょうどエレベーターが到着した。






鞄を持っていない新山さんの格好からして手ぶらなのかと思ったが、サルエルパンツのポケットに最低限の貴重品ぐらいは入っているようだ。

社用車の前で車の鍵を渡した時に、「連絡先を交換しておきましょう」と言い出した彼はポケットから青いストラップのついた携帯電話を取り出した。俺と彼の携帯端末に互いの電話番号が登録されてから、新山さんは運転席に、俺は助手席に乗る。

本部からA地区までは車でも三十分ほどかかる。これから調査でバディを組む相手とは出来るだけ打ち解けておきたくて、運転の邪魔にはならない程度に話を振りたかった。

大きな通りを道なりにしばらく進めばいい頃合いになり、さて何を端緒にしたものか、と考えていたら先に口を開いたのは新山さんだった。


「青葉さんはこの仕事、長いんですか?」

「そうですね。配属されて五年が経ちました」

「俺、現地調査は初めてなので足を引っ張るかもしれませんが…」

「ああ、いや、気にしないでください」


調査課にやって来る人間は様々で、調査とは全く関係のない部署から配属される人もいれば、外部の組織から引き抜かれてきた人もいる。そもそも調査課のような特殊な仕事を以前にもしていた人の方が少数派だ。


「というか、新山さん」

「何ですか?」

「俺と新山さんは同い年らしいので、敬語はやめませんか?俺、堅苦しいのが苦手で」

「そう、だな。わかった」


敬語はなくなったがまだどこかぎこちない。


「緊張してる?」

「ああ、うん。」


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