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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
239/250

イレギュラー ※未完

お題:運命のあそこ 制限時間:1時間 文字数:1590字


目を覚ますとまだ薄暗い室内には雨の音だけが満ち満ちていた。掛け布団を抱えるように横向きで寝ていたようで、露になった右肩からキャミソールの肩紐がずれ落ちている。掛け布団から出ている背中はすっかり冷たくなっていて、寒いなあと他人事のように思う。

何をするでもなくぼんやりしていても雨音は耳に入ってきて、鼓膜を震わせ続けるその音が耳小骨やうずまき管を震わせ、脳に揺さぶりをかける。そうして昨夜のことをゆるゆると思い出し、些か気分を落ち込ませながら私は体を起こした。

枕元に置いている目覚まし時計は暗闇の中でも見えるように文字盤や針には蛍光塗料が使われている。起きるにしては存外早い。

乱れたキャミソールを整えて立ち上がり、喉の渇きを覚えて冷蔵庫に向かう。中からペットボトルのお茶を取り出し、キャップを捻る。


「あのー…」


ボトルに口をつけようとしたら、声をかけられたので動きを止めた。

首を動かして声の方を見ると、そこには昨夜出会った女の子がきちんと正座をしていた。私のご機嫌でも伺うように上目遣いで恐る恐るこちらを見ているから居心地が悪い。

私が起きた時から、いや、正確には布団の上で瞼を開いたその時から視界の隅に彼女はいたけれど、置物のようにじっとしていたので特別には気にかけなかった。というか、昨日の出来事を思い出してしまった時点で彼女のことは頭から消去してしまいたかった。まあ、目の前にいる時点で不可能だけど。


「何?」


尋ねてからペットボトルに口をつけて一気にお茶を流し込む。ごくごくと喉が鳴り、半分ほど飲み干して蓋を閉めると彼女は意を決したように口を開いた。


「昨日は、その、ごめんなさい」


彼女が顔を伏せるとセミロングの髪が肩からぱらぱらと落ちた。染めてからずいぶんと日が経っているらしい茶髪は、茶色が剥げて疎らになり黒色が目立ちはじめているせいで、暗闇と同化しつつある。

捨てられた子犬みたいだと思ってしまってため息をついたら、彼女はさらにしゅんと小さくなったように見えた。


「いや、こっちこそごめん。昨日のやり方はなかったわ」


彼女は一体いつから正座していたのか、ちゃんと眠れたのか、聞きたいことが色々沸いてきたけど口にするのは躊躇われた。

私が謝ると彼女はゆっくりと頭を上げた。


「怒ってない、んですか?」

「あなたには怒ってない。むしろ、緊急時とは言え殴って止めるのは良くなかった」


もう一度「ごめん」と謝ると彼女は首をぶんぶんと振った。

私は冷蔵庫からもう一本新しいペットボトルのお茶を取り出す。


「とりあえず、喉渇いたでしょ」


ボトルを差し出すと彼女はぱちぱちと瞬きした後で、「ありがとうございます」と微笑み、私の手から受け取った。

さて、朝食の準備でもしようかと台所に向かおうとしたらバシャッと水の跳ねる音がした。見ると、彼女が力加減を間違えたらしく、ペットボトルは無惨に凹み、頭から上半身がびしょ濡れになっていた。

しばらく彼女と無言のまま目を合わせる。


「あー、とりあえず、それ飲んだらシャワー浴びようか」

「ご、ごめんなさい」

「いいって。私がうっかりしてた」


昨夜の光景を見ていたというのに、私は彼女が怪力であり力を調整するのが下手くそなことをすっかり忘れていた。


昨夜十時過ぎ、繁華街のとある交差点。男女が乱闘している、その中にはイレギュラーがいるようだ、との知らせをもらって駆けつけたところ、なかなか酷い有り様になっていた。

男三人に対し女一人。どう考えても女が不利な状況だが、イレギュラーは女の方だった。私が到着した時にはイレギュラーが一頻り暴れた後らしく、男たちは戦意喪失して怯えきっていた。それでも暴走状態のイレギュラーには男たちの姿など目に入らず、なおも暴行を続けていた。

暴走状態のイレギュラーを止めるには


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