number ※未完
お題:どす黒い正義 制限時間:1時間 文字数:1897字
「俺たちが生き残る手段を常に考えるべきだ。戦況は確実に悪化しているし、劣勢に追い込まれているのも事実。俺はやつらに味方すると決めたが、共倒れはごめんだ。大願成就を諦めたつもりはさらさらない」
そう応えた二十八番は銀色のよく磨かれたナイフで、メープルシロップのたっぷりとかけられたホットケーキを切り分ける。一口サイズに切ったホットケーキを、皿に溜まったシロップに満遍なく浸し、すっかりひたひたになったそれを大きな口で一息に食べる。ごくりと飲み込んだ二十八番は同じ作業を繰り返す。
甘いもの好きだと聞いていたが、二十八番の場合は度を越していた。現に二十八番のぱくついているメープルシロップましましなホットケーキは既に四皿目だ。一皿目のホットケーキは生クリームたっぷり、二皿目はキャラメルソース、三皿目はチョコレートソース。一緒に頼んでいるドリンクがイチゴミルク、ミルクココア、そして今飲んでいるのはマンゴーラッシー。
コーヒーしか飲んでいない俺が胸焼けしそうだというのに、当の本人は一皿目から全くペースを落とさずに食べている。そもそも待ち合わせがホットケーキ専門店だった時点で嫌な予感はしていたが。
二口目を飲み込んだ二十八番はホットケーキにばかり向けていた視線を俺へと向ける。その瞳が内包している薄暗さと重々しさはおよそファンシーに飾られたこの店に似つかわしくない。
「西の砦は七十四番と七十五番のおかげで小康状態を保っているらしいけど、援軍が見込めない以上、そのうち突破される。あれはいくら有能なナンバーが指揮したって無駄だ。防衛拠点としては明らかに不十分。二人が砦を捨てれば一気に押し入られる」
俺が三十五番から聞いていた話とずいぶん違う。
長らくナンバー不在でも持ちこたえていた西の砦がいよいよ突破される可能性があるという伝令からの知らせを受けて、中央に集まっていたナンバー持ちが対策を講じた。その結果、たまたま任務のなかった七十四番と七十五番が駆り出され、二人の後を追う形で援軍を送る手筈になった。
「百一番は二人の後に部隊を送るって言ってたんじゃなかったのか?」
ホットケーキを頬張って唇の端からシロップを垂らしている二十八番はきょとんとした後、げらげらと笑った。食べている最中に笑うものだからホットケーキが気管に入りかけて、ごほごほとひどく噎せる。胸を何度か叩いて呼吸を落ち着けた二十八番はマンゴーラッシーのストローを加えて音を立てながら一気に飲む。
「それ、三十五番が適当言ったに決まってんだろ。だいたい七十四番が送られた時点でその場所は投棄されるのが前提だ。そうじゃなきゃ、あいつは死神だなんて疎まれてない」
「それは、そうかもしれないけど。破棄することが目的ならわざわざナンバー持ちを二人も送り出す必要があるか?」
「わかってねえよな、お前は」
二十八番は両手に持っていたナイフとフォークを皿の上に置いた。暑さ一センチはあるホットケーキ三段重ねメープルシロップ特盛りは既に半分ほど二十八番の胃の中におさまっている。
「そもそもこの忙しくて猫の手も借りたい時期に七十四番と七十五番がどうして西の砦に行けたと思ってる?今の俺とお前も情報交換のために無理くり時間を捻出しているわけだろ。用がなければナンバー持ちが持ち場を離れてうろうろする自由はないし、当然理由がなければ好ましくは思われないだろ」
「七十五番は前回の任務でやらかして謹慎中だったよな。七十四番は…そう言えばあいつ、北から帰ってきてから今まで何してたんだ?」
二十八番に言われて思い出そうとしてみたが、七十五番はともかく、七十四番の動向はさっぱりわからなかった。
七十五番の謹慎はナンバー持ちの間でも大きな噂になっていたから知らないはずがなかった。割り当てられた任務を遂行したまでは良かったが、少々気にくわない事態に陥って堪忍袋の緒が切れやすい七十五番はついめちゃくちゃをやったらしい。被害が甚大だったので罰として中央の目が届く範囲内での謹慎をくらった。
それに対して、七十四番と言えば死神のあだ名よろしく、任務を忠実にこなしていたはずだ。話題にならなければ仕事を真面目にしている証というのも釈然としないが、最後に聞いた任務は北の雑魚狩りだったような。
首を捻った俺に、二十八番は皿の上に置いていたナイフを手に取るとその切っ先を俺に向けた。店内の照明を反射したナイフはきらりと光る。
「これは秘密だったが、あのくそ真面目な七十四番も北の任務でやらかしたんだよ。中央にいた連中にとっては頭が痛くなるよ」




