Seven days ※未完
お題:スポーツの時計 制限時間:1時間 文字数:1985字
降って湧いた一週間の長期休暇をどのように潰すかは俺にとって何ら楽しみもなく、他人から与えられた大きな課題でしかなかった。
しんと静まり返った部屋でBGM代わりにスイッチを入れたテレビのニュース番組を見ながら、トーストをかじる。昨日は某かのスポーツ大会が開かれていたそうで、自国から出場した若い選手が大活躍して勝利をおさめたらしく、コメンテーターたちは絶賛のコメントを寄せている。
同期の一人が選手のファンだった気がする。メッセージでも送ろうと携帯電話を探して、ああそういえば職場に置いてきたんだった、と思い出して肩をすくめる。気を紛らわせるためにぬるいカフェオレをすすればミルクが少なめだったのか、コーヒーの苦味が舌をついた。
働きすぎだ、休めと仕事仲間たちからは何度も言われてきた。俺はちょっと特殊な業務についていて、しかも俺の業務を代われるような人間の数は限られているため、休暇の取得が難しいことは彼らも熟知している。むしろ休みの予定でも電話一本で呼び出されることもざらなのだから、家に帰るよりは事務所に寝泊まりしていたほうが面倒が少なくていい。
そんな風に思って半年ほどは事務所の三人掛けソファがもっぱら俺の定位置であり巣となっていたが、これまた半年ぶりに出張から帰ってきた上司が俺の顔を見るなり暇を出した。上司曰く、いかにも不健康そうな見目だから一週間でリフレッシュしてこい、と。同僚たちは大笑いしながら俺の荷物を適当に鞄へ詰め込んで腕に押し付け、事務所から俺を追い出した。あっという間もない出来事で、どさくさ紛れに携帯電話まで剥奪されてしまい、いざとなったらそっちが困るだろうと言ったものの、彼らは扉を開けるつもりはないようだった。致し方なく俺は鞄一つを提げて、まだ日の明るいうちに帰宅した。
帰り道の途中でスーパーに寄って数日分の食料品を買い込む。自炊はしないので出来合いの惣菜が中心になる。仕事が立て込むと食事や睡眠はどうしても後回しになりがちで、見かねた同僚の一人が俺の健康を俺以上によく気にかけてくれるようになった。メディアで大々的に紹介されているような有名店で美味い差し入れを買ってきたり、仮眠の時間や場所を作ってくれたり、近くのコインランドリーへ行ったり。同僚も決して暇ではないのだが、俺より遥かによく気が付くしスケジューリングが上手なようで、細々とした身の回りの世話をしてくれた。
久方ぶりに帰ってきた家は床にうっすらと埃が積もっていたし、カーテンと窓を閉じているせいで空気は暗く淀んでいた。
掃除と洗濯をしている間にあっさりと日は沈み、久方ぶりに湯船に湯を張って肩までゆっくりと浸かり、晩ごはんを食べてしまうと、途端にすることがなくなった。家で寛ぐという習慣が欠けているので娯楽になるようなものはテレビと携帯電話以外になく、早々に飽きてしまったたテレビを消し、就寝には少し早いがベッドに入って目を閉じた。マットレスはソファよりも柔らかい感触で、翌日寝坊してしまう辺り、それなりに疲れていたのかもしれない。いや、俺を起こしてくれる携帯電話のアラームや同僚がいないだけか。
そんなこんなで今日は記念すべき、と称していいのか分からないが、休暇一日目だった。寝坊はしたが体に染み付いた感覚に従って、俺は着替えると財布と鍵だけを持って家を出た。家には固定電話がないく携帯電話も手元にない今となっては、家で大人しく待機しているよりも外をぶらついていたほうが都合はいいだろう。
腹は満たされているし、事務所の辺りをうろつけばまた仲間たちに追い払われるだろうと判断して、俺は事務所とは反対方向にある公立公園へふらふらと向かう。市でも二番目か三番目に挙げられる大きさの公園であり、休日になれば他市から遊びにくる人も多いが、今は平日の午前中ともあって犬の散歩やジョギングをしている人がちらほらと見えるだけだ。
整備された散歩コースを何とはなしに歩いていると向こうから見知った顔が現れた。普段は黒いジャージを着ている彼は今日も変わらず黒いジャージに身を包み、俺を見てあからさまにぎょっとしつつも、こちらに歩み寄ってくる。
「エーカーさん、何してるんすか…。休みなんでしょ」
「家にいても暇だから散歩」
「それ、リラックスになってます?どうせ視察がてらの散歩じゃないんすか?」
すっかりこちらの思惑はバレていて、彼ははあと呆れた息をついた。
「やっぱ想像してた通りだなあ」
「というと?」
「いや、昨日エーカーさんが帰った後にみんなで話してたんすよ。エーカーさんって無趣味だから家に帰ったら何するんでしょうねって。ベックは部屋でだらだらしてる、キャリーは一日中テレビを見てる、ロアは事務所に来るって言ってました」
「ちなみに君は?」
「俺は部屋の掃除です」




