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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
228/250

追跡 ※未完

お題:つらい接吻 制限時間:1時間 文字数:1733字


二時間歩きづめでなくたって、夜も八時を過ぎていれば、いいかげん腹は減ってくるし休憩を挟みたくなる。左手首の腕時計をちらと見てから、隣を歩くクヨウの顔を見る。

ねぐらを出た時の饒舌はどこへやら、疲れからか次第に口を開かなくなっていったクヨウは足を重たそうに引きずり、ぼんやりとした目で先を見ている。


「どこか適当な店に入ろう。さすがに疲れた」


話しかければ、クヨウは黒い瞳を俺に向けることなく「そうだね」と同意した。

俺たちが黙々と歩いてきた街灯の乏しい路地の先にようやくネオンサインの輝いている賑々しい通りが見えてきた。実際に通りへ出てみると通行人は少ないものの、飲食店は何軒かあるし明かりも灯っている。

一番手近なファストフード店はガラス張りになっていて、外からでも店内が混雑していないことは見てとれた。先に二人分の席を確保し、交代でカウンターへ注文を取りにいく。俺はチーズバーガーとフライドチキンとドリンクのセットを頼んだが、クヨウはドリンクとSサイズのポテトとアップルパイを頼んでいた。


「それで足りるのか?」

「むしろ、よくそんだけ食おうと思えるよな」


クヨウは元から食が細いタイプだったが、疲れで食欲もないらしい。ハンバーガーにかぶりつく俺と違って、クヨウは親指と人差し指でポテト一本ずつ摘まんで、いっそ焦れったくなるほどのんびりのんびり食べている。

クヨウは俺より遥かに燃費のいい体で、一食抜いてもけろりとしているし、今だって一応は食べ物を口にしているから大丈夫なんだろうとは思う。それでもガリガリな体と優れない顔色はそれなりに心配の種だ。

パティに絡むソースとマヨネーズがちょっと濃いなと思いつつ、向かいに座っているクヨウの疲れきっている顔をぼんやりと見ていたら「ポテト食う?」とポテトの容器をこちらに向けられた。首を振ったら、クヨウはドリンクのストローに口をつけて、ずずっと音を立てて飲んだ。

俺がハンバーガーとチキンを食べ終え、クヨウがアップルパイを食べ終えたところで、これからの予定を話し合う。


「女王サマの反応は?」


ポテトを口にくわえたままのクヨウに尋ねられ、俺はパーカーのポケットに入れていた端末を取り出してスイッチをオンにする。画面いっぱいに地図が現れ、その上に落とされている赤い点は数十分前に確認した時から微動だにしていない。


「依然として動きはないな」

「向こうも休憩中?」

「まさか。こんな場所で?」


赤い点はとあるあぜ道のど真ん中にあり、その周辺にはどこまでも田園が広がっている。明かりはないものの、警戒心の高い女王が見通しのいい場所でぼけっと何十分も座っているはずがない。当然ながら端末の地図が狂っているなんて万に一つもなく、クヨウも「だよねー」と肩をすくめる。


「何かを待ってるのかな」

「援軍か?通信機器は持っていないはずだし、どこかで連絡を取っていた形跡もないが」


女王が逃げ出す前に荷物を投げ捨てたのは俺たち自身が目にしている。それまで女王を守っていたお仲間の命を刈り取ったのは、俺たちの仲間だ。仲間たちと連絡を絶ってから早二時間が経っているものの、彼らは現在も女王を孤立させるべく立ち回っているに違いない。俺たちに便りがないのは何よりも良い知らせだ。

クヨウはドリンクのカップを持ってゆらゆらと揺らし、中にひしめいている小さな氷たちをじゃらじゃらと鳴らす。


「未だにわかんないよねえ、あの人の思考回路。田んぼの真ん中でじっとしてるなんて、いっそ宇宙と交信してますって言われたほうが説得力あるよ」

「やめろ。ただでさえ人間離れしているのに、頭までイカれたら洒落にならん」

「元々バグってるでしょ、あの人。今さら頭のネジが一本飛んだって何も変わんないよ」


けらけらと笑うクヨウに強く否定はできない。

計画段階では女王を数十人で追いつめるはずだったし、途中まではうまくいっていた。女王の追っ手が今や俺たち二人になってしまったのは、女王の奇妙でしかし決して的を外さない行動に俺たちが翻弄させられてしまったからだ。


「神様にお祈りを捧げるタイプでもないし。あれだな、珍しい虫を見つけて追いかけてたって」


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