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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
223/250

静なるアクアマリン ※未完

お題:ダイナミックな息子 制限時間:30分 文字数:1012字


その日も彼は談話室の端に置かれている一人がけソファの上で窮屈そうに膝を抱え、真剣な眼差しで文庫本を読んでいた。私が彼を認識する時は決まって、談話室のあのソファの上でせせこましく読書している姿だ。同じ建物で暮らしているはずなのに不思議と、彼がご飯を食べていたり廊下を歩いていたり、ましてや住人の誰かと笑顔で話す様など見た覚えがない。


彼は何着かのよれたジャージは着回していた。どれも細身の彼より少しサイズが大きく、ぶかぶかな袖を肘の辺りまでまくりあげ、日焼けしていない細っこい腕が目につく。長時間同じ姿勢でじっとしていると時折痺れるのか、もぞもぞと足の爪先を動かすけれど、姿勢を変えようとはしないで。瞳は開かれているページから離れない。ソファの前にあるローテーブルには彼が読み終わった、或いはこれから読むつもりらしい本が何冊も積み重ねられている。ジャンルは恋愛、ミステリー、歴史、エッセイ、SFなど何でもござれ。


彼とは話したことがない。それどころか、目さえまともに合った覚えもない。

私は彼のあだ名がアクアだと知っているけれど、はたして彼は私の名前を知っているのか、そもそも私の存在に気付いているのかさえ定かではない。


私は一日に一度は談話室を通るし、そうなれば必ずあのソファの上に彼がいることも認識する。彼も人間であるのでいつかソファを離れているはずだが、残念ながら私がここに来てから一週間経ってもまだあのソファが空席になっているところを見たことがない。話しかけにくいオーラがあって、自己紹介できていないのは彼だけだったし、さっさと終えるべきなのだが、どうにも気が進まなかった。時折ページをめくらなければ置物とどう違うのか。


マフラーを編んでいるアリスに彼について聞くと、彼女は編み針の先から視線を逸らさずに言う。


「アクアのあれはいつものことでしょ。結構じゃない。むしろアクアが本を放り出して外を駆けずり回りでもしたら、病院に連れていくべきね」

「そりゃそうだけど。あまりに生きている感じがしなくて。アリスは、アクアが読書していない姿って見たことある?」

「もちろん。彼だって人間だから、食べるし寝るしトイレにだって行くわ」

「それっていつ?」

「私たちと違って、自分で決めてないんじゃない?お腹が減ったら食べるし、眠くなったら寝る」


だとしたら、もう少し彼の日常的な一面を目撃してもよさそうなものだが、


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