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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
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ビールが空になるまで ※未完

お題:狡猾な何か 制限時間:1時間 文字数:1681字


木村は狡猾という言葉が似合う。どんなに自分が不利な状況だろうとうまく立ち回って抜け出してしまう。相手を貶める方法をよく知っている。その才能をもうちょっと別の方向に使えたら人生変わってたんだろうなと思うけど、生憎こいつの才能は喧嘩以外に活かされない。


酒とタバコを買うために木村と家を出て近所のコンビニに向かう途中、酔っ払ったヤンキーに絡まれた。無視しようかと思ったけどあまりにウザかったので一発入れたらヤンキーはすぐに沈んだ。木村が見つけたヤンキーの財布から中身だけをもらって無事にコンビニへ。タバコとビールと適当なツマミを買って家に戻る。ったく、コンビニなんざ歩いて数分だってのにやけに時間がかかっちまった。


俺が缶ビールを開けると木村はタバコに火をつけた。


「なあ、花火見に行きたくね?」

「らしくねえな」

「へへっ。俺にも一応純粋な少年時代があったっつの。夏っつったら、やっぱ花火っしょ」

「いや、海だろ。っつか、小坊のお前とか想像できね」


あはは、お前もだと木村は笑う。木村とは高校からの付き合いだけど、出会ったときには既に今の木村だった。喧嘩っ早いくせに狡猾で攻めるときと引くときを心得ている。小さい頃の木村ってどんなだ?


「あれか?お前、夏休みは虫取網持って外走り回ってたタイプか?」

「うんにゃ、家にこもってひたすらゲームしてた」

「ははは、今と変わんねえ」

「人のこと言えねえだろうが」

「あ?俺はお前と違って夏休みは外であそびまくってたからな」

「マジかよ」

「おう。蝉の脱け殻めっちゃ集めてた」

「うっわ、ないわー」


木村は俺より図体がデカイ、いかにもスポーツマンタイプの体形なのに虫や爬虫類が怖いと言う。部屋にゴキブリでも出たら電話してくる木村のために俺が何度退治してきたか。ま、木村んちにはゴキブリ撃退グッズが山ほどあるから数分で終わるけど。

ツマミのチーズを開けると真っ先にに木村が手をつけた。本当にこいつは遠慮も何もない。


「あー、さっきコンビニで花火買ってくれば良かったな」

「お前、男二人でやる花火って」

「キツすぎるわなー。今から呼べる女とかいねえ?」

「いたらお前と飲んでねえ」


あははと木村が笑って、長くなったタバコの灰がテーブルに落ちた。灰皿を渡せば、わりぃわりぃと笑いながら受けとったので絶対にわりぃと思ってねえなこいつでも、こういうところが狡猾な男のくせに人を惹き付けるのかもしれない。他人の家を土足でずかずか踏み込んでくるヤツは大体嫌われるけど、それを気にしないヤツもいる。ビールをぐいっと飲むと木村もチューハイのプルタブを開けた。


「今年さあ、墓参り行ったんだよね」

「やっとか」

「そう言うなよー、何年越しだよって感じだけどさあ。あいつを簡単に許せるほど俺は人間出来てねえよ」


木村の親父さんは木村の母親と木村にさんざん苦労をかけた後、病気でぽっくり死んじまった。俺らが高2の頃だったからもう5年以上前の話。親父さんが亡くなってから木村は親父さんの墓参りをしたことがなかった。


「あいつが死んだとき俺としては遂にくたばったかと思ってせいせいしたけど、母ちゃんは泣いてた。あれがいちばんわかんねえな」

「墓参りしようと思ったきっかけでもあったのか」

「んー、なんか潮時だなって。ホントそれだけ。死んで5年経ったし、それなりに生活出来てるし、行ってもいいかなってさ」


木村がぐいっとチューハイを煽る。俺がチーズを食べようと手を伸ばしたら先にチーズをかっさらわれた。


「墓参りっつったって、実際はただの石だよ。あいつがこんな石になっちまったのか、ってホントそれだけ。手は合わせたくなかったんだけど、母ちゃんに怒られたから形だけ」

「お前はホント母ちゃんにだけは頭があがんねえな」

「しゃあねえだろ」


木村は女手ひとつで育ててもらってることはちゃんと理解してる。学校終わったらバイト三昧だし、こうやって飲むのも月に数える程度だ。忙しいくせして、飲もうぜって言ったら断らない。


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