二度目のはじめまして ※未完
お題:緩やかな関係 制限時間:30分 文字数:804字
「泣かないでくれ」
明らかに困った顔をしている魔法使いにそう言われた私も困っていた。いくら泣き止もうとしたところで、後から後から流れてくる涙を止める術はないみたいだ。この胸に沸き上がる気持ちがすべて涙に変わって目から流れ落ちていく。
「そう言うならお得意の魔法で涙を止めればいいじゃない」
ほとんど負け惜しみと八つ当たりのような言葉を投げると、魔法使いはさらに困った様子だった。そういうのは、えっと、などと魔法使いが口の中でもごもご言っていると見かねた魔女が口を挟んだ。
「確かに魔法で涙は止められるけれど、悲しみは止められないのよ」
魔女が右手を振るうと、その手に真っ白なハンカチが現れた。魔女は小さな子どもにそうするように、私の濡れた頬をハンカチでやさしく拭う。金色の魔女の瞳は月のようにやわらかな光を帯びていた。その瞳には既視感があり何故か妙な懐かしさを感じていると、魔女がふふっと笑った。
「記憶を失う前のあなたもやっぱり泣き虫だった。こうして魔法使いが泣かせて、私が慰めていたわ」
「俺は泣かせたくて泣かせたんじゃない…」
「そうね。大抵は嬉し涙だったもの。魔法使いは不器用だけど優しいからあなたは思いがけない時に泣き出して私たちを慌てさせたわ。少なくとも今回みたいに悲しさや苦しさから生まれる涙を流したことはなかった」
魔女の言葉を聞いて、既視感に納得する。私の記憶が消される前にもこんなことがあったのだろう。覚えていないはずなのに、確かにあったのだと感じていた。
記憶を消されたのはすべて私の責任であって、魔法使いと魔女はそこで私と縁を切ってしまっても良かった。魔法を持つ二人と魔法を使えない私、仲良しだった記憶を持つ二人と記憶のない私。赤の他人として生きていったって構わなかった。
それでも二人は再び私の前に現れて、二度目のはじめましてを言ってくれた。
「記憶がなくたって」




