僕とピーちゃん
お題:楽観的な超能力 制限時間:30分 文字数:1006字
彼女は号泣していた。
普段は黒真珠のように美しい両目からぼろぼろと涙が溢れ、言葉にならない嗚咽がこぼれ、興奮で頬を赤く染めている。それはまさしく号泣という大袈裟な表現が似合うぐらい彼女は激しく泣いていた。
僕は彼女がそんな風に泣く姿を初めてみた。普段はどちらかといえば物静かで落ち着いている彼女がこうも取り乱すのかと感心したぐらいだ。
彼女にとって超能力を失うことがこれほどの悲しみや苦しみに換算されるとは思ってもみなかった。
「なんか、罪悪感がすごい」
彼女が号泣しはじめてからピーちゃんは明らかに困惑していた。
ピーちゃんも僕も彼女に対して何も悪いことはしていない。一般人が偶然手に入れてしまった超能力の消去は僕らに課せられた使命であり、彼女もそれを承知して僕らに超能力を消されることを了承していた。彼女の超能力に対する思い入れが僕らの想像以上に強かっただけだ。
そう言うと、ピーちゃんは困った顔のまま笑った。
「消去の重要性をわかってても、ここまでしなくたって良いんじゃないか、とは思うんだよね」
実際、泣いている彼女の超能力なんて僕らがわざわざ消さなくたって、僕らも世の中も困らないレベルのものだった。とても弱い力で、ほんの少し誰かを幸せにするだけで、社会に損害を与えない能力だ。このまま見過ごしても大きな影響はないはずだけれど、僕らが彼女に出会って超能力の存在を知ってしまった以上、消さないという選択肢はなかった。
いっそ憐れになるほど泣きじゃくる彼女を見ている僕は曲がりなりにも彼女の友人だった。わざわざ友人を傷つけたのに無視もできない。効果的な慰めの言葉は思い付かなかったけれど、代わりに僕は鞄のポケットにしまっていたポケットティッシュを差し出した。
彼女は僕から受け取ったティッシュで涙を拭い、鼻をかみ、大きく息をついて礼を述べた。それでひとまず心は落ち着いたらしく、鼻をすする彼女の涙が止まった。
「ごめんね」
彼女はぽつりと呟いた。僕とピーちゃんに謝っているようでもあったし、消えてしまった超能力に謝っていたかもしれないし、或いはもっと別の物に謝ったのかもしれない。
彼女が普段の冷静さを取り戻したとわかったピーちゃんは彼女に言った。
「8月3日午後2時36分、ヒトミマイカ、消去完了」
ピーちゃんは彼女に向けてにっこりと笑った。
「人間回復おめでとう、ヒトミちゃん」




