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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
210/250

内緒話 ※未完

お題:生かされた汁 制限時間:1時間 文字数:1619字


「どんな風にあっても僕の力はこの体から取り出せない。誰かの監視がなければ、いつ不用意に不注意に能力を使ってしまうかわからないし、どれほどの影響を及ぼすかもわからない。本当ならとっくに死んでいても殺されていてもおかしくないけれど、不思議と僕は先生に生かされて周りのおかげで生きている」


死にかけたことがある、とかつて帳くんは言っていた。

私はてっきり彼の能力を悪用しようとする人たちによって危ない目にあったのだろうと思っていたけれど、彼はそれをあっさりと否定した。

その頃の彼は特異な能力を疎まれて、たった一人誰からも切り離された世界で生きていた。誰の保護もなく幼い彼は自衛の方法を知らず、だから、悪い大人たちにつけこまれる隙も多かった。結果、彼は簡単に瀕死状態に陥った。

放っておかれたらまず間違いなく死んでいた彼を救ったのが、たまたま通りかかって彼を哀れんだ先生。呪われた、今にも死にそうなほど息も絶え絶えの彼を先生は何も知らないまま見つけてしまった。見ないふりをして素通りすることができなかったと溢した先生は自分を若かったと言っていた。

帳くんを救ってしまったあと、先生は彼が理不尽に処分されてしまわないように自らの弟子とすることで彼を守った。彼の能力を自分の管理下に置き、彼の声を奪う代わりに命を与えた。それが先生という人。

先生のことを話す帳くんの表情は笑顔でなくても温かみがあった。先生を咎めるような文句を呟いていた時にもどこか優しさがあったのは、先生が本当の意味で命の恩人だったからだ。


「僕がこうして鍵屋さんと話せるのも、あの時先生が僕を助けてくれたからだ。先生が繋ぎ止めてくれた命は、先生がいなくなったらすぐに消えるかもしれないけれど、せめて先生が生きている間は先生のために使いたい」


だから、どれだけ危険な状況にも自分の身を投じられる。


「一度死んでいると思ったら何だってできる。二度目の死は怖くない。だって、一度目の時と違って今度は一人じゃないから」


間違っていると言いたいのに、真摯な瞳を向けられた私は口を開けなかった。決定的に間違っているのに彼がこうも自分の死を嬉しそうに語れるのは、きっと一人の時間が長すぎたせいだ。


「どうか止めないでね。僕の生きる理由を奪わないで。めいろちゃんも鍵屋さんも大切だから。大切に人たちに否定されるのはつらい。喧嘩も満足にできない僕は僕には否定する手段がないから」


先生と出会うまでに作れず、先生と出会ってからも、めいろちゃんと出会ってからも、私が出会ってからも帳くんが作れていないもの。

私が手にしていた携帯端末がピーッとアラームを鳴らした。結界が崩れる一分前の合図だ。

帳くんは手にしていたマフラーを首もとに巻きなおす。ぐるぐると二重に巻いて饒舌だった口を封印してしまう。

彼はにっこり笑った。純粋で優しいクラスメイトの帳ハルくん。


「自分の能力がどれほど危ないか自分が一番わかっている。だから、こうやって鍵屋さんと普通に話せてすごく幸せだった。ありがとう」


「こちらこそありがとう」と返したら、もう一度携帯端末が騒がしく鳴り響き、周りに張られていた結界が失せた。結界は目に見えるものではないから実際に消えたかどうかを確認できないけれど、唯一部屋にある扉から廻さんが現れて結界の消失を知った。結界を維持するためには体力も集中力も必要で、廻さんは少し疲れた様子で私たちのもとへやって来た。


「どう?話はできた?」


私と帳くんがこくりと首を振って頷けば「それなら頑張ったかいがあるわ。良かった」と廻さんは顔を綻ばせた。


「でも、私も帳くんがペラペラ話す姿は見てみたかったなぁ。それだけは残念」

「結界を張ればいつでも話はできるでしょう?」

「それはそうだけど、外で結界を張るのは難しいの。空間を把握して永続固定するのは高等技術であって、正直私には難しいわ」


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