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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
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最果ての街 ※未完

お題:求めていたのは誰か 制限時間:1時間 文字数:1659字


「君みたいな子でも最果ての街に行くことは何度かあったよ。町への案内人である僕にとっては珍しいことじゃないけれど、ここまで君たちを連れてくる町の人たちにとっては数えるほどの出来事だろうね。安心して。年齢や性別や出身なんか、最果ての街では誰も気にしないから」


自らを案内人と称したお兄さんは、私が出会ってきた人間の中でいちばん優しい人に思えた。私を連れてきた偉い立場らしいおじさんは、渋面のまま案内人さんに頭を下げると来た道を足早に戻っていった。結局、ここまでの道中でおじさんとは一言も話さなかった。


「さて、行こうか。少し歩くよ」


案内人さんが歩きはじめ、私もそれに続く。

遠目には鬱蒼とした森にしか見えなかったけれど、いざ中に入ってみると春の日差しが柔らかな木漏れ日となって森の小道を照らしていた。どこからか小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

案内人さんは町の案内人というよりは警備兵だと言われたほうがしっくりくるような服装だった。赤いジャケットと白いズボン、白い手袋に細長い銃を見れば誰だってそう思う。

とは言え、案内人さんは先のおじさんと違って初対面の私にもにこやかに笑いかけ、私の歩調に合わせて右隣をゆっくりと歩く。

行き先が最果ての街でさえなければ、散歩しているようにのどかだった。


「最果ての街について、何か知っていることはある?」


首を振ると案内人さんは「噂とかでもいいけど、何か知らないかい?」と重ねて尋ねた。それにも首を振ると、案内人さんは困ったように眉を下げた。


「あらら、何も聞いていないのか。相変わらず君のいたところは不親切だなぁ」


大袈裟に肩をすくめて見せたお兄さんは「後で文句言ってやらなきゃ」なんてドスの効いた声で低く呟いたのでドキリとした。しかし、「じゃあ」と続いて話を切り出したときには声はすでに元の明るい調子だった。


「最果ての街について簡単に説明しよう」


こほんと一つ咳払いして案内人さんは話しはじめる。


「最果ての街は、その名の通りこの世界の最果てにある幻想の街、と一般的には言われている。誰しもが行き来できる街じゃないから幻想の街と表されるけれど、最果ての街はちゃんと人が住む街として存在するよ」


「最果ての街への行き方はただひとつ」と案内人さんは右手の人差し指をぴしっと伸ばす。


「自分の街の最果てと呼ばれる場所で、最果ての街の案内人、つまり僕だね、に出会って街へ案内してもらうこと。これ以外に最果ての街を出入りする方法はない。僕がいなければ誰も街に入れないし街を出られないんだよね」


「意外と重要人物なんだよ。偉いでしょう」と言いながら、案内人さんはえへんと胸を張った。そんなに偉そうな人には見えないけれど、確かにここへ私を連れてきたおじさんがたった一言「案内人を手配するのに時間がかかった」と愚痴のようなことを漏らしていた。


「最果ての街に住む人はある日突然決められる。年齢や性別や出身なんかは関係なく無作為に街の住人は選ばれる。君もそうだっただろう?」


私は思い出す。両親がちょうど出掛けていて留守にしていたその日、突如スーツ姿の人たちが家に押し掛けてきた。おずおずと玄関の扉を開けた私に対して代表者らしい男性は一方的に告げた。

「君は、最果ての街へ行くことに決まった」と。


案内人さんは肩をすくめた。


「僕はね、これが良い方法だとは思っていないよ。誰だって住んでいた町を急に出ていけなんて言われたら困る。家族や友人とも離ればなれになってしまうし、さらに彼らと一生会えなくなるって知らされたら抵抗したくなる。でもね、これは最果ての街に存在するルールであって誰にも変えられない。僕にも、最果ての街の人にも、そして君たちにも。僕はこの道を歩きながら、案内してきた人々に何度『ご愁傷さまでした』と言ったかわからない」


「怒鳴られるわ、泣かれるわ、散々なんだよ。案内人も楽じゃないんだよねぇ」と案内人さんは深い溜め息を吐いた。


「ともあれ、」



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