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チョコレートを食べながら  作者: 藍沢凪
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きりんの夢から覚めないで ※未完

お題:とんでもない虫 制限時間:30分 文字数:1009字


「ユミコの夢は舞台女優だった。あの子が小学一年生のとき、両親に連れられて近所でいちばん大きい劇場でとある演劇を観た。その劇は素晴らしかった」


ユリコは両手を広げて僕たち聴衆に語りはじめる。その様はやけに芝居がかっていてまるでユミコが語っているようだった。僕は背筋が寒くなり、鳥肌がぷつぷつと立った。

ユミコとユリコは姉妹だけれど外見はちっとも似ていない。ユミコは髪が長くて、背が低くて、たれ目のおっとりした女の子だった。ユリコはショートヘアーで、すらりと背が高く、キツい印象を与えるつり目だ。それでも、今、僕はユミコと会っているような感覚だった。

ユリコによって、目の前にユミコが再現されていくようだった。


「残念ながらユミコがそのときに見た舞台は古典文学が元になっていたから、多くの人物が登場しては消え、難解な言葉が並べ立てられ、当然小学生のユミコは話の内容を理解できなかった。けれど、子どものユミコが惹き付けられてやまなかったのは演劇の主人公アリアを演じた黒乃きりん、その人だった」


黒乃きりん、とその名が満を持して明かされると周囲がさざ波のようにざわめいた。僕も動揺していた。

黒乃きりんは既に故人だ。学生の頃、センセーショナルなデビューを飾ったにもかかわらず、デビューした数年後に怪死を遂げたと噂されている。彼女の演劇の素晴らしさを讃え、死を惜しむ人は今も多いが、この場で彼女の名を聞くことになるとは思わなかった。


「彼女はアリアに取り憑かれたように演じた。声も身ぶり手振りもすべてがアリアそのもので、公演中は彼女が黒乃きりんであることを忘れさせるぐらい役に成りきる人だった。ユミコは黒乃きりんに憧れ、尊敬し、彼女のように成りたいと思った」


「ちょっと、待ちなさいよ」


既にユリコの独壇場となっていたこの場に水を差したのは、最初から腕組みをして黙っていた鋼ノジリだった。意外な人物の口出しに僕らが驚く間もなく、ノジリは淡々と話す。


「あなた、ユミコさんがどうして死んでしまったのかを解き明かすって言ったわよね。私たち、ユミコさんの過去話を聞きにきたわけじゃないわ。さっさと結論を述べて、証拠を見せなさい。探偵の冗長な騙りはフィクションだけで結構よ」


ユリコは不機嫌そうに眉を潜め、大袈裟に広げていた両手を下ろすと、やれやれとでも言いたそうにため息をついた。


「あなたはわかっていない。」


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