僕は書けない ※未完
お題:昼間の小説新人賞 制限時間:30分 文字数:756字
やっぱり無い。
僕はその1ページをぐしゃりと右手で握りしめてしまい、それからゆっくりと皺になったページを右手で伸ばした。端から端まで目を凝らしても、前から後ろまで読み返しても、前後のページをめくっても、僕のペンネームや作品名は書かれていなかった。最後にもう一度だけ、見落としているかもしれないから、と読んでも意味はなかった。
僕は買ったばかりの文芸誌を閉じるとすげなく本棚に置いて、ベッドに倒れこんだ。本棚には他の出版社が出している文芸誌も何冊と並んでいるけれど、そのどれもに僕の名前は載っていない。
僕は枕元に放っていたスマホを手にとって検索画面を開いた。「水月ミナト」と入力して調べると「水月」と同じ名前のキャラクターやイラストレーターや会社名がずらりと検索結果に並ぶ。数ページ検索結果を飛ばせば、ようやく「水月ミナトの小説一覧」という小説投稿サイトの1ページに辿り着く。
クリックしてサイトを開けば、水月ミナトの書きあげた十四作品の小説のタイトルが表示される。それぞれの小説の閲覧者数を確認すると0だった。
僕はサイトを閉じてスマホを再び枕元に放った。
水月ミナト。本名、田口功太。29歳。フリーター。
小説の新人賞に応募しはじめてから五年経っても僕は小説家になれないまま、インターネットでちょこちょこと小説を書いていた。
僕は小説に関して自分の才能を信じていた。でなければ、新人賞に応募しようとも思わないし、そもそも10万字もの小説なんて書こうとしない。新人賞に初めて応募したとき、僕の小説は審査する編集者たちの注目を一身に集め、デビュー決定どころか処女作は初回十万部まちがいなしだと思っていた。
今にして思えば、それがどれほど異例で、ほんの一握りの人間にしか掴めない奇跡だと僕は知らなかった。




