エスケープ ※未完
お題:小説家たちの投資 制限時間:30分 文字数:906字
11月3日、文化の日。午前10時過ぎ。僕は大学へ向かうのとは真逆の電車にひとりで揺られていた。七人がけのシート、そのいちばん右端で何をするでもなく、ぼんやりと向かいの車窓を眺める。
電車がビル群を抜け、辺りに田園が増えてくると、秋晴れの空はやけにまぶしく見えた。雲は見当たらず、すっきりとした快晴。景色は右から左へと流れていくばかりだ。
通勤通学する人もほとんどいない車内は暖房と穏やかな陽光のおかげでほんのりあたたかいのだが、電車が停まるたびにドアの開閉によって冷気が足元へしのび寄ってきた。それでも、他にちょうどよく空いている席がないので僕は膝の上で黒いリュックを抱えてひっそりと座っていた。
「羽島くん」
僕の隣に座る吉木さんが話しかけてきた。
顔を向けると、吉木さんは両手をぎゅっと握りしめ、じいっと僕の顔を見ていた。
彼女の耳に垂れている雫のようなイヤリングが日に照らされてきらきらと揺れた。
「本当にサボって良かったの」
吉木さんはとても今更な質問を投げかけてきた。
本当ならば僕らは今頃、大学の共通棟の片隅で国際社会に関する講義を聞いているはずだった。先週から続いているナショナリズムがどうとかポピュリズムがどうとかいった内容をうとうとしながらルーズリーフにまとめているはずだった。
僕が今こうして吉木さんと二人で電車に乗っているのは先週の僕にとっても昨日の僕にとっても想定外出来事なのだ。
そして、想定外の出来事を引き起こしたのは他でもない吉木さんだった。
「いいよ、別に。今までちゃんと出席してたし一回ぐらい休んでも全然平気」
吉木さんは「そっか」と納得したようにも、全然納得できていないようにも見える感じで頷いた。もともと感情が顔に出にくい人なので、彼女がどう思っているのかは分からない。本当に僕を心配しているかもしれないし、或いはちっとも興味がないけれど沈黙に耐えかねて聞いただけなのかもしれない。そんなことはどちらでも良かった。
彼女は手をぎゅっと握る以外は、僕と同じように向かいの車窓をぼうっと眺めていた。
「私、学校サボるのって初めて」
「そうなの?まじめだね」
「」




