秋談義 ※未完
お題:汚れた秋 制限時間:15分 文字数:586字
「僕にとって秋といったら食欲の秋だね。秋に旬を迎えるものが特別に好きな訳ではないけれど、秋刀魚とか栗とか薩摩芋とか、秋ならではの美味しいものを食べるのは好きだ」
彼は道端に落ちている銀杏の葉を、真っ黄色に変わり果てた一枚を親指と人差し指で摘まむように拾った。
茎の部分を摘まんで指をこすりあわせるので、銀杏の葉はくるくると回る。
「君は?」と聞かれたので、やや不機嫌に答える。
「読書の秋に決まってるでしょ」
彼はそんな私を見てきょとんとした顔で言う。
「それは可能性の一つだったさ。確かに僕は君が読書家なのを知っているけれど、それを秋に取り立てるかどうかはわからない。秋だからこそ別のことをしたくなる可能性もある」
彼は持っていた銀杏の葉を手放した。
空気の抵抗を大して受けることもなく、一枚の黄色はひらひらと宙を舞い、足元の黄色い絨毯に混ざった。
「君が僕と同じように食欲の秋だろうと、成績に少しも反映されない芸術の秋だろうと、僕が知らないだけかもしれないスポーツの秋だろうと、何の秋と答えられるか、僕にはわからなかったよ」
「そういうものですかねぇ」とやや私の声が尖った。
かわいくないな、と思うけれど、彼は笑う。
「ともかく、読書の秋と食欲の秋なら喧嘩はしないよ。ブックカフェだったっけ?お茶を飲みながら本を読めるところ、近くにあるらしいよ」




