海
お題:求めていたのは死 制限時間:15分 文字数:527字
死にたい、と言った。僕は自分の耳を疑ったけれど隣に座る友人はもう一度繰り返した。死にたい。死んで全部終わらせたい、と。
僕には何も言えなかった。かける言葉がなかった。友人の家が大変なことになっているのは聞いていたし悩んでいるのもわかっていた。僕はできるだけ話を聞いてきたし相談にのってきたつもりだった。でも、それだけじゃ友人の心は軽くならなかったみたいだ。
僕は週末の夕方に友人を駅へ呼び出した。泊まりの用意だけ持ってくるように伝え、友人はリュックひとつの身軽な格好で現れた。切符を買って電車に乗る。行き先は告げていない。でも、切符でわかるだろう。友人も僕も車内ではほとんど話さなかった。
窓の向こうに広がる景色はどんどん変わっていった。ビルが減っていき、民家が減っていき、トンネルを抜けると眼前に海が広がった。
電車を降りて、駅から1分もしないで海にたどり着いた。
僕は用意していたシートを取り出して座った。友人も隣に座った。水平線に太陽が沈んでいく。太陽の光を受けた海はオレンジ色に染まっていた。静かに眺める。
そして、突然、友人は泣き出した。涙を流したかと思うと、徐々にそれが嗚咽に変わり、最後には小学生の子どものようにわあっと泣き出した。




