翡翠色 ※未完
お題:信用のない悪 制限時間:15分 文字数:687字
心臓が痛い。苦しい。
ぐっと胸を抑えてその場にうずくまる。
ここまでやって来たというのにどうして今になって急に心臓が痛みはじめるのか。
息が苦しくなり、冷や汗が額から伝う。
薬が切れたのかもしれない。
しかし、二時間前に飲んだあれが最後で、それ以上の持ち合わせは生憎ないし、ここで調合することもできない。
魔力だって今は結界の維持のために限界まで使う所存だ、回復に回すだけの余裕はない。
今はダメなんだ、今は、倒れる訳には。
ぎりりと歯を食い縛りながら、結界の外にいる黒いナニカを睨む。
あいつらの侵入を許してはいけないのだ。
「ヒナイ、大丈夫か?」
私の異変に気付いたヒスイが駆け寄ってきて、背中をさすってくれる。
うんと頷きながら痛む心臓の辺りを拳でぎゅっと押さえ付け、あくまでも意識は結界を保つ魔力に集中し続ける。
私の結界が切れてしまったら、たちまちあの黒いナニカが私やヒスイやユラルの魂を奪っていくだろう。
その時が最期となるのは間違いない。
増援が来るまであと30分程、それまで踏ん張っていなければ。
ここまで戦ってくれたヒスイとユラルのためにも、私が折れる訳にはいかないのだ。
「ヒナイ、限界だったらもうやめて」
「いいえ、やめないわよ、ヒスイ」
「ヒナイ」
「私は、あなたたちに少しでも報いたい。ここまで守ってもらうしか出来なかったお荷物の私を、それでも見捨てずに連れてきてくれたあなたたちに恩を返せるのは、きっと今」
脂汗が頬を滑り落ちていく。
心臓の鼓動はますます速くなっていて、張り裂けてしまいそうに感じる。
それでも、この結界だけは守りたい。




