右を向く ※未完
お題:僕が愛した罰 制限時間:15分 文字数:524字
大衆が右を向けば彼女も右を向く。
それは僕と彼女にとって呼吸をするのと同じぐらい自然に行なっていた。
周囲に合わせること、馴染もうとすること、一人にはならないこと、息を潜めること、感情を圧し殺すこと。
大勢の人間から溢れた個の行く末を僕と彼女は知っていて、そうならないように慎重に行動していた。
僕らの生きている小さな世界では、大衆から爪弾きにされないことが大切だった。
だと言うのにだ。
「ごめん。付き合いきれない」
彼女は理由もなく彼ら彼女らからの誘いを断って、一人で去っていってしまった。
誘った彼ら彼女らは呆然としていたが僕一人だけは冷静だった。
彼女に限界がきた、それだけのことだ。
きっと何か理由があるんだよとフォローになっているか怪しい言葉を残して僕は彼女を追いかけた。
彼女は少し離れた建物の陰で踞っていた。
僕の足音に顔をあげた彼女は、何だ、君かという呆れた顔をした。
「追ってきてどうする。君まで仲間外れになるぞ」
この期に及んでそんな心配は要らないのに。
僕は彼女の隣に腰を下ろした。
「ちょうど良かったんだよ。あいつらの話は聞き飽きた。同じところをぐるぐると回っていて、しかも回っていることに気付いてすらいない」




