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冷えたビール
お題:蓋然性のある冬 制限時間:15分 文字数:413字
「お邪魔します」
「どうぞ。何もないけど」
彼の後に着いて歩くフローリングの床はすっかり冷えきっていて、素足では冷たかった。
息を吐くと白い。室内なのに。
彼は脇目もふらず狭いキッチンに入り、私はリビングに入った。
その部屋は物が極端に少なかった。
テーブルとベッドとテレビ以外におよそ生活感を感じられる物がないのだ。
私はリビングからキッチンの方に声をかける。
「水瀬、暖房とか無いの」
「ない」
彼はスーパーで買った食材を冷蔵庫にしまっていた。
「呆れた」
「んな金あるわけないじゃん。明日食う物にも困ってるってのに」
彼は冷蔵庫の扉を閉めると、リビングに来た。
手には日本の缶ビールを持っている。
出掛けに確認した冷蔵庫の中の缶ビールの量を思い出すと頭が痛くなる。
「ほんと、それ止めればいいのに」
「やだ。飯が食えなくなってもこれは止めない」
わ私に缶を投げて寄越すと、プルタブを引いてぐいっと煽った。




