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願いはたったひとつ
お題:最弱のお金 制限時間:15分 文字数:393字
辿り着いた路地の奥で、逃げまとっていた彼は地面に踞っていた。
逃げるのに限界がきたらしく、息は荒いし肩が忙しなく上下している。
追いかけてきた俺もすっかり息が上がっていて、呼吸を整えながら彼にゆっくりと近づく。
彼のスニーカーは泥にまみれ、何かで引っかけたのかパーカーとジーパンはあちこちが破けていた。
顔や手などの露出した部分は擦り傷だらけだ。
ところどころ血も滲んでいて痛々しい。
それでも彼は、先程奪ったほんの僅かな金を右手で強く握りしめていた。
「あー、えっと、大丈夫か」
どう話したものかと考えながら、でも結局気のきいた言葉が思いつかずに声をかけると、彼は俯いていた顔をこちらに向けた。
彼の綺麗な黒い目と目が合う。
しかし、彼の目には俺も、そして光をも映していないように感じた。
何だろう、この瞳の暗さは。
彼はぎりっと歯軋りして悔しそうな声をもらす。
「失敗か」




