花園のお喋り ※未完
お題:楽しかった薔薇 制限時間:15分 文字数:624字
「主人は“お喋りな花は嫌われる”と仰るけれど、現にこうして私とお話してくれる貴方がいるのですから、私共の主人は外の世界に対する認知が甘いようですね」
赤い花弁をひらりと揺らした一輪の薔薇は、隣の植え込みの剪定をしている僕に話しかけた。
ご主人様の屋敷に庭師として雇われたのは偶然だった。
よその庭を剪定していた僕をご主人様が見かけて、直接声をかけてきたのだ。
ご主人様はここいらでも有名な人だった。
“お化け屋敷”と呼ばれる、町外れの豪邸に住んでいて、ほとんど外には出てこない引きこもりだという。
僕は仕事が入るなら願ったり叶ったりだとご主人様の頼みを引き受けたけれど、同業者はみな口を揃えて“お化け屋敷”へ行くお前は変わり者だと言っていた。
そう、僕は屋敷の庭に足を踏み入れるまで、この豪邸が“お化け屋敷”と呼ばれる由縁を知らなかったのだ。
屋敷の庭に1歩足を踏み入れるとどこからともなく話し声が聞こえてきた。
今度の人はいつまで持つか?そこそこイケメンだ。若いね。丈夫そうだ。
この庭に咲く色とりどりの花たちは大層なお喋りであった。
雇われて一週間。
今日も太陽は眩しくて、麦わら帽子が欠かせない天気だ。
首にかけたタオルで流れ落ちる汗をぬぐい、ぷりぷりと怒っている薔薇に答える。
「あなたは手厳しいね。ご主人様は外へこそ行かないけれど膨大な量の本を読んで知識を蓄えていらっしゃる。まれにその知識からはみ出る者もいるだけですよ」




