先代の勇者様 ※未完
お題:思い出の勇者 制限時間:15分 文字数:623字
勇者様はそれはもう立派な御方でございました。
旅の途中で私たちの町に訪れた勇者様ご一行は、体を休め、装備を整えている間も決して偉そうな態度をとらず、私たちにとても親切にしてくださいました。
この町が森の外れに住んでいる魔物に度々襲われており、討伐に向かった者たちは返り討ちに遭い、どうする手だてもないと町の娘が溢したところ、勇者様はそれを仕留めてこようとお仲間とともに森へ向かわれました。
町の者は不安に思いながらも勇者様の帰りを待ちましたが、それはとんだ杞憂でございました。
勇者様とお仲間はこの街を苦しめている魔物の首を持ち帰ってきたのであります。それを見た町の者がどれほど喜び、泣いたでしょうか。
ああ、何度感謝しても足りません。先代の勇者様は勇気と力に満ち溢れた素晴らしい御方でございました。
「そりゃどうも」
酒場の奥さんが頬を染めて滔々と語ってくれた話を俺は適当に聞き流していた。
行く町、行く村、全てがこんな調子だった。
俺が現在の勇者だと知ると人々は皆いかに先代の勇者が偉大であったかを頼みもしていないのに語りだす。
やれ魔物を倒した、悪党を成敗した、穢れを払ったなどの大きな事件の解決から、子どもに優しかった、動物をかわいがってくれた、誰の話でも親身に聞いてくれたなどの小さな親切まで。
聞けば聞くほど先代の勇者は旅の間にどれだけの善行を重ねていたのか数える気もしない。
先代を引き継ぐ俺には肩身の狭い話ばかりで気が滅入る。




