表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

少女との出会い


「お兄ちゃん、アイス買ってきて」


俺達の家に瑞希が来たのは、今から一ヶ月前。まだオヤジがきちんと働いていた時の事だ。

 家のアイスがなくなり、妹のほのかが俺をパシリに使う。


「自分で買いに行けよ」


「か弱い小学生を一人で、しかも真夜中に外出させる気?」


「自分で……」


「お兄ちゃん」


「……」


「行ってくれるよね?」


「……」


「ねっ!?」


「……はい」


ヤバい。ほのかの背後に阿修羅が見える……。これはお願いというより、脅迫のような……。


「じゃあ、お母さんもアイス食べたい」


「なっ……!? 自分の息子をパシリに使うな‼」


「ほのか、母さん‼」


そんな二人を見かねて、オヤジが二人を注意するかのように、声を上げる。

 意外にちゃんとオヤジらしい一面もあるんだな。見直したぜ。


「アイスより、冷蔵庫の飲み物が切れてるだろ。だから圭吾。お茶とジュースも頼む」


前言撤回‼ こんなオヤジを一瞬でも見直した俺が馬鹿だった。

 それから、俺は有無を言わされないままにお金を渡され、家を追い出された。


「はぁ~……、どうして家の家族は皆ああ何だよ……」


昔からそうだ。何かあると全部俺にその役がまわってくる。電球を変える時だって、洗濯物の取り入れだって、力仕事だって……。オヤジがあんなだから、仕方ないって言えば仕方ないのだが……。

  

「そこのお主。何をそんなに深刻な顔をしておるのじゃ? わしが悩みを聞いてやろうか?」


……。この二十一世紀に、こんな古臭い喋り方をする奴なんているわけねぇよ。きっと疲れ過ぎて、幻聴が聞こえただけだ。


「おい‼ 無視して行くんじゃない‼ 」 


幻聴じゃないのか!?

 声が聞こえた方を見てみるとそこには、ダンボールに入った銀色の髪をした小さな少女が居た。

 ……捨て子?

 そのダンボールには『この子を拾ってあげて下さい。名前はありません』と書かれてあった。


「どれ、わしがお主の悩みを……」


「遠慮しときます‼」


「何故じゃ!? 何故断わる!?」


あまり、この子とは関わらないでおこう。可哀想だけど、俺に出来る事は何も……。

 グゥ~……。

 少女のお腹から、腹の虫がなき、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「……お腹、空いてるのか?」


その言葉に、少女はコクリとだけ頷く。


 それからの少女は凄かった。こんな小さな体のどこに、それ程の食べ物が入るのかというくらい、食べ物を食べて……。いや、飲み込んだというほうが正しいかもしれない。どちらにせよ、お袋に渡されたお金を全てこの子の為に使ってしまったのだ。


「恩にきる。お主のお陰で、腹が満たされたぞ」


「ははは……。そりゃどうも……」


どうしよう……。もう、アイスどころかジュースすら買えない……。


「じゃあ俺、そろそろ行くから」


「うぬ……。もう行ってしまうのか……?」


少女は寂しそうに、こちらを見つめる。そりゃそうだ。こんな暗闇に一人、寂しいに決まってる。だけど、今の俺にはこの子に何もしてあげられない。何か助けになってあげたいが、俺一人の力じゃどうにもなんねぇ。こればっかしは、どうしようも……。


「また明日も来てやるから」


その言葉に、少女は満面の笑みを浮かべる。


「本当か!? 本当にまた来てくれるのか!?」


今の俺に出来るのは、少しでもこの子の寂しさを取ってやる事だけだ。


「あぁ。だから、また明日な」


「うぬ。また明日なのじゃ」


少女の笑顔に見送られ、俺は家路に着く。

 はぁ~……。帰りたくねぇ。帰ったら確実に、ほのかにやられる……。


「……ん!? 雨か……?」


真夜中の空から、ポツポツと雨が降り始める。

 うわっ。早く帰んねぇと、本降りになっちまうな。

 ……。雨降って来たら、あの子はどうするんだろ……。雨を防げるような物持ってなかったんじゃ……。



 「ただいま……」


結局、家に着くまでに本降りになってしまい、びちょびちょに濡れてしまった。本当についてないな……。


「圭吾、遅かったわね」


タオルを手に、お袋が玄関に来る。これは俺が風邪をひかないように心配して、タオルを持って来てくれたんだよな!?


「圭吾。そんな事よりアイス」


……やっぱり、お袋はお袋だった。


「ちょっと……。あんた、その子……」


あの後結局心配になり、雨が止むまでのつもりで、この子を家に連れてきたのだ。


「圭吾……。あんた、まさか……」


「お袋、これには色々とわけが……」


「お父さーーん‼‼ 圭吾が……、圭吾が、隠し子を連れてきたわーー‼‼」


「どうやって解釈したらそんな答えが出るんだよ‼‼‼‼」


お袋は結局、タオルを俺に渡す事なく、リビングに戻って行った。


「圭吾の母上殿は、愉快な方じゃな」


「50を越えたオバサンが、子供みたくギャーギャー騒ぐ事を愉快とは言わないぞ」


「失礼ね。お母さんは永遠の13歳です」


「そのまま、ネバーランドにでも行っちまえ」


ようやく戻って来たかと思いきや、ほのかとオヤジも一緒に玄関へとやって来た。


「圭吾……。その子は誰との子供なんだ!?」


「ちげぇよ。こいつは俺の子じゃねぇ」


「お兄ちゃん……。もしかして、見知らね女の子を無理矢理家に連れて来たとか……」


「そうじゃねぇよ。俺は、この子が……」


「ねぇ、お嬢ちゃん。どうしてこのお兄ちゃんと一緒にここに来たのかな?」


「って話を聞けェェェェェェェェ‼‼」


「うぬ? 圭吾には、『ここに居たら危ないから、俺に着いて来な』って言われて、ここまできたのじゃ」


…………。


「変態だーーーー‼‼‼ ここに変態がいるぞーーーー‼‼‼」


「ちょっ‼ オヤジ、落ち着け‼」


「お兄ちゃん……。ほのか、お兄ちゃんの事信じてたのに……」


「なっ!? ほのか、勘違いするな‼ ってか、泣くな‼‼」


「もしもし警察ですか!? ここに、幼児誘拐……」


「だァァァァァァァァ‼‼‼ シャレにならん事をすなーーーー‼‼‼」


「圭吾……。お母さんは、あんたをそんな子に育てた覚えはないわよ‼‼」


「……今、この家の子を辞めたいよ……」


「圭吾が誘拐してきたんじゃないんなら、その子は一体どうしたんだ?」


「誘拐前提で話を進めるな‼ この子は捨て子だったんだよ。コンビニの近くの電柱の下にダンボールに入れられて……」


「何を失礼な。あれはあれで、立派なわしの家じゃぞ」


「だァァァァァァァァ‼‼ 泣くな‼ 警察に電話するなーー‼‼」


はぁ、はぁ。一体、いつまでこの流れ続けなきゃいけねぇんだよ……。



ようやく全員が落ち着き、この子の事をきちんと細かく説明出来た。全部を説明するのに、かなりの時間がかかった……。


「そうだったの。可哀想だったね?」


お袋……。あんたは、息子を散々疑ってたのに、その息子には謝りの言葉も無しですか……。


「行き先もないなら、家で暮らせばいいじゃないか」


「えっ!? オヤジ、でも……」


「なんだ圭吾。お前は、こんな幼い少女を見捨てるというのか!?」


「お兄ちゃん、サイテー」


「圭吾。見損なったわ」


……今日分かった。言葉とは、時に刃物と化すという事を。


「わしがここに住んでも良いのか!?」


「あぁ。遠慮はいらないよ。私の事を、本当のお父さんと思っても良いからね」


「私達も、本当のお母さんとお姉ちゃんだと思って良いからね。お母さんも、実の娘だと思うから」


「ありがとう……。ありがとうなのじゃ……」


少女の瞳から涙が零れる。本当に、今まで一人で辛かったのだろう。


「そうなると、名前は必要よね」


確かに、お袋の言う通りだ。名前がないと何かと不便だしな。


「そうね……。それじゃあ、瑞希にしようかしら」


「お袋。それは何を思って瑞希にしたんだ?」


「いや~、本当はね、圭吾が女の子なら瑞希って付けようと思ってたのよ。だけど男の子だったから、仕方なく圭吾にしたのよ」


「俺の名前の由来が、仕方なくかよ……」


「だって、本当は男の子でも瑞希って名前にしようとしてたんだけど、親戚の人が……」


誰だか分からんが、親戚の人、ありがとうーー‼‼

 俺の名前が瑞希なんてものになっていたら、今頃俺の人生は終わっていたかも知れない。


「そういうわけで、今日から瑞希ね。よろしくね瑞希」


ほのかが笑顔で瑞希に話かける。妹が出来たようで嬉しいのだろう。


「瑞希……。瑞希か……」


瑞希も凄く嬉しそうに笑顔をみせる。


「それじゃあ、瑞希の為に色々と準備をしないとな、母さん」


「そうね。瑞希、こっちへいらっしゃい」


そう言って、オヤジとお袋は瑞希を連れて、リビングにへと入って行く。

 はぁ~。帰って来てから、一時間も経ってないのにクタクタだ。


「お兄ちゃん、お疲れ様」


そう言って、俺の頭にタオルを掛けてくれるほのか。

 ヤバい……。なんだか泣きそうになってきた……。こんな優しさ、久し振りかも……。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「どうしたんだ?」


「アイスは?」


……。天国から地獄に一気に突き落とされたかのような気分だ。


「悪い。瑞希の為に食料を買ってたら、アイス買うお金なくなってさ」


「お兄ちゃん……。ちょっと、歯を喰いしばってくれる?」


「…………」


この後、大雨の中、再びコンビニに買い出されたのは言うまでもない。





 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ