始まり
「父さんの会社が倒産したんだ」
「……はっ?」
休日の午後。急に家族全員をリビングに集め、何やら真剣な顔のオヤジが何を言い出すのかと思いきや、まさかの親父ギャグ。
「……部屋に戻っていいか!?」
こんなオヤジを相手にした俺がバカだった。
「暗い真実を明るくしてみたんだが、圭吾には受け入れられなかったか」
「言いたい事があるなら普通に……」
ちょっと待て、暗い真実って何の事だ!?
「……まさか!?」
「YES。父さんの会社が倒産したって事は事実だよ、谷本圭吾君」
何だよそのどや顔!? 無償に腹立つんですけど!?
「ってそうじゃねぇ‼ このクソオヤジ‼ そういう大事な事はふざけて言うんじゃねぇよ‼‼」
「ちょっと圭吾、そんなに怒んないの。お父さんだって、圭吾とほのかには、悪いって思ってるんだから」
「そうだよお兄ちゃん。お父さんは悪くないよ」
……確かに、オヤジも好きで会社が倒産したんじゃないんだよな。親父ギャグも、オヤジなりの俺達への気配りだったのかも知れないし……。悪い事したな……。
「オヤジ、悪かったよ。少し言い過ぎ……」
「っと言う事で、お父さん達はこれから自分探しの旅にでます」
このクソオヤジ‼ 絶対に許さねぇ‼
「テメェ‼ 今の状況分かって言ってんのか!? 今は他にもやらなきゃいけない事がたくさんあるだろうが‼‼ それに、これからの生活費はどうすんだよ!?」
「そう怒るな圭吾。お金の事なら心配はいらないぞ。こういう事の為に、貯蓄してある」
おぉ。未来の為に貯蓄をしていたなんて、意外にもしっかりしたとこもあるんだな。
「って感心してる場合じゃねぇ‼‼‼ お前らが家を出て行ったあとは、誰がこの家の家事をやるってんだよ‼」
「それは大丈夫よ。何てったって、ほのかが居るもの」
「ほのかって料理とか出来るのか?」
「お兄ちゃん知らなかったの? 私、毎日夕飯作ってたんだよ」
「……ちょっと待て。それじゃあ、その間はお袋は何やってたんだ!?」
「お母さんは、ほのかが家事をやってくれてる間に、エステとかエアロビとか行ってたのよ」
……。空いた口が塞がらないってのは、こういう事か……。もう、怒る気にもなれない……。
「お袋……。あんた、実の娘に何て事やらせてんだよ……」
「だって、ほのかがお嫁に行った時の為に、今から練習させておいた方が良いじゃない」
「今からって、まだほのかは小学5年生だぞ!? 早過ぎるだろ」
「ほのかは大丈夫だから、お父さん達は好きにしたら良いよ」
「ちょっ……、ほのか。何この状況受け入れてんだよ!?」
「良いじゃない。お父さん達が決めた事なんだから、お父さん達のやりたいようにさせてあげたら」
「ほのか……。お前って娘は……。 父さん、嬉しいぞ‼」
何感動してんだよ!? ってか、どっちが親でどっちが子供なのか分からなくなってきた……。
「圭吾、これが家の通帳に実印。それから……」
お袋が次々に俺に大事な物を渡してくる。
「ちょっ……、まっ……」
「これで、圭吾に渡さないといけない物全部渡したからね。あと分からない事があったら、ほのかに聞いてね。お母さん達、そろそろ行くから」
そう言うと二人は寝室へ行き、二人は大きな鞄を持って出て来た。一体いつから準備してたんだろう。
「それじゃあ二人共、体には気を付けるのよ。それじゃあお父さん、行こうかしら」
「そうだね。初めはどこに行く? やっぱりハワイか?」
「そうね。そうしましょう」
「ちょッッッッッッッッと待てェェェェェェェェ‼‼‼‼ 自分探しの旅はどうしたァァァァァァァァ‼‼」
っと言う頃には、オヤジ達の姿はなくなっていた。
「それじゃあお兄ちゃん。私そろそろお友達の所に行くから」
「おまっ……。俺を一人にしないで~」
俺の願いも虚しく、家に一人取り残されてしまった。まだ状況の整理がついていなくて、今にも頭が爆発しそうなのに……。
「圭吾~。うるさいぞ……」
眠たそうに目を擦りながら、リビングへとやって来たのは、最近居候し始めた少女。名前は瑞希。
「うぬ? 父上殿や母上殿はどこに行ったのじゃ?」
「知らねぇよ……」
「一体どうしたというのじゃ!?」
「今は一人にさせてくれ……」
なんだか頭が痛くなってきた。最近、不幸続きで参って居るたのに、追い討ちをかけるかのようにオヤジの会社が倒産。まるで、漫画みたいな現実だな……。
「頭が痛いのか? それなら、わしが薬を取ってきてやろうか?」
ソファーに座り掛かった俺を心配そうに見つめる瑞希。
ん? 確か、不幸が起き始めたのって、瑞希が家に来てからだったような……。
「ん!? どうしたのじゃ? わしの顔に何かついておるのか?」
いやいや、そんな事あるわけない。人を疑うなんて最低だな。
でもこれから先、どうなっちまうんだろ……。