ふぁっといずでぃす8
日本という国は、バカげているのだろうか。
政治の話やら、褌一丁でデブ同士が押し合うスポーツの話やら、このまましてもなんだか恥部を晒すようではばかられる。それはきっとそういった事柄を肯定するための知識や見識が、相田の中で決定的に欠けているからなのだろう、と思う。
もともとどうしようも無い、と感じていた世界だ。
擁護するような価値などありはしない。
「戦争って言えば、なんですけど……」
「なんだい?」
「外の――」
相田は前方を指さす。
「この荷台を引っ張てるアレは、戦いの為のものですか?」
ようやく訊けた。
「ゲートクラヴィオかい?」
「ゲートクラヴィオって言うんですか?」
「そう。キミの世界にああいうのはない?」
「ない事もない、んですけど……。アレはどういったモノなんですか?」
「うん。アレの説明は僕よりもふさわしいヒトがいるのだけど……簡単でいいかい?」
「構いません」
「ゲートクラヴィオは魔法で動く鉄や木製の巨人だ」
「魔法!?」
「ん?」
「魔法が……あるんですか?」
「魔法は、あるよ」
「それは、例えば火球で敵を攻撃したり、眠らせたり、防御力を増強したり、HPを回復したりする、アレですか?」
「最後のはよく分からないが、確かにそういうのもあるね」
「俺の世界には、魔法は実在しません。テレビゲームとか空想の中だけのことです」
ここは要するにアレか。ファンタジーRPGの世界か?
「お、俺も魔法使いたいです!」
「って言って簡単に使えるもんではないから。誰でも彼でも、ってわけには行かない」
「修行したら使えますか?」
「うん。あとは資質があればね」
「いいなぁ。魔法、使いたいなぁ。どんなかなぁ。見てみたいなぁ」
「そんなにかい?」
「そりゃそうです!」
「僕が魔法使いだ、って言ったら?」
「疑います」
「ん、なんで!?」
「そういう格好じゃないですから。ニネルさん普段着でしょ?」
「どんな格好なら魔法使いらしいんだい?」
「例えば、真っ黒なフード付きのローブを着てて、トンガリ帽子被ってたり。あとはなんか、ピエロみたいなに派手な格好してたり。あと杖持ってたりです」
「イメージバラバラじゃないか」
「そうですね」
「僕みたいな魔法使いがいたっていいじゃないか」
「まぁ……。え? 本当に魔法使いなんですか?」
ニネルは自慢気に顎を上げる。
「そうさ。驚いたかい?」
「本当なら」
「じゃぁ驚き給え」
「なんか、なんかやってみてくださいよ!」
「突然言われて出来るようなもんではない」
「嘘なんでしょ?」
「違う」
「証明してください」
相田が詰め寄ると、ニネルはそっぽ向いて舌打ちする。
「一度だけだぞ」
言ってニネルは相田の耳元に左手を伸ばす。
冷たい指先が首筋を撫ぜ、相田はゾクリと身を震わす。
リンッと金属の震える高く小さな音。
引いたニネルの指はいつの間にか金のコインをつまんでいた。
「……」
「……」
「……手品、じゃん」
「え!? びっくりしない!?」
「手品じゃん」
「キミの耳のあたりから金貨が出てきたんだぜ!?」
「だって、手品だもの」
「手品ってなんだよ!」
「あんたが今やったやつですよ!」
「僕は魔法を……」
二ネルは涙目でオロオロする。
「がっかりだ!」