ふぁっといずでぃす7
「と、とにかく。重力ってのがあって、それで地球の中心に向かってすべてのものが引っ張られているんです」
高校生の知識では説明が難しい。
「わからん」
ニネルは頭を抱える。
「どういう原理だ。いや……うん。そうだな。わかった。全然わからんが……わかった」
ものすごく苦しそうに声を絞り出す。
「確かにそうだ。そもそも上から下になぜ落ちるのか。あまりに当たり前だから疑問に感じることもなかった。モノが落ちる理由を、僕は説明できない。そういうモノだ、としか。それと同じだ」
「重力がなくなれば、上下の概念は消えます」
「そういう事か。うん。わかった。わかったと言っておこう。少なくともキミの世界ではそうなんだな。僕らの世界も同様かわからないが」
「この世界は球じゃない、と?」
「判断材料が少ない。球かも知れないし、そうでないかも知れない。今日までは平面に立っているのだと思っていた。球体の上は、ここと感じ方が違うか?」
「いいえ」
「じゃぁどうでもいい。話がずれたな」
「そうですね」
「国は、ニホンといったか?」
「はい。世界から見れば小さな島国です。だけど比較的豊かで、平和です」
「キミは貴族か何かか?」
「まさか。普通です。両親共働きの、どこにでもいる高校生ですよ」
「普通か。その年でまだ学校に行っているのか? 一日どれくらい学校にいる?」
「朝八時位から夕方の十六時とかそれくらいまでですかね。それが週五日」
「仕事は?」
「バイト……時給で働く、お小遣い程度の金が貰えるような仕事ですけど、そんなのだったらやってる人間もいます。けど俺は働いてないです。就職は、たぶん大学に四年行って、その後ですね」
「大学……」
ニネルはため息混じりに呟いて、
「キミはいくつだ?」
「十七です」
「十七歳といえば、この国では働いていて当然の年齢だ。なのにこの上まだ大学とやらへ行くか。それは普通の事か?」
「まぁまぁ普通です。特別なことではありませんよ」
「なるほど平和だ。おまけに相当豊かだ。無駄なことにそんなにも時間を割けるのだからな」
「無駄だなんて!」
普段は『勉強なんて社会に出たら役に立たない』なんて言ってるのに、他人に指摘されると意外に腹が立つ。
「怒らせたのなら謝る。批判しているんじゃない。感心してるんだよ。知識というのは重要だ。あるのとないのとでは世の中の見え方がまるで違ってくるからな。それをよく理解している国のようだな。文化水準の高さも窺える」
「先進国ですから」
「強いのかい?」
「戦争ですか?」
「他に何がある」
「自衛隊はあるけど、一応軍隊じゃないってことになってるから、強いかどうか俺には……」
「わからないか?」
「はい」
「自国の強さに興味はないのか? 強さを誇りたいとも思わないか?」
「別に……」
「本当に平和なんだな。それともキミに愛国心がないだけか……。自国がの強さもわからずに、安心して暮らせるものか? 他国に攻められたらどうする?」
「それは俺の考えることでは……」
「自衛隊とやらが護ってくれるのかい?」
「わかりません。自衛隊は専守防衛って言って、相手に攻撃されて初めて防衛のために軍事力を行使するって決まりなんで、それはきっと不利なんでしょうけど」
「なんだそれは? ふざけてるのか?」
「ふざけてません! これはすごいことなんです。世界的に見ても日本にしかない戦略です。日本は戦争しないんです!」
「相手がいる以上、戦争は起こるよ。ニホンがしないって言ったって、相手にそのつもりがあればね」
「アメリカっていう強い国がバックに付いてるから大丈夫です。もしもの時は護ってくれるし、アメリカがあるうちはたぶん他の国も日本には手が出せませんって」
「あぁ。ニホンというのはそのアメリカという国の属国か」
「属国って……」
外の人にはそう見えるのかも知れない。