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ふぁっといずでぃす6

「聞かせてくれ、って言われても……」

 自分の世界の何を言ったらいいのか。

「逆に教えてくれませんか? 色々と」

「もちろんそのつもりだ。同時にやるんじゃないか」

「はぁ」

「キミの世界の話を聞いて、こちらの世界との相違点を教える。非常に分り易い。それにだ――」

 軽く咳払い。

「僕はキミがキミの世界に帰る手助けをしたい。そのためにはまず、帰すべき世界がどこにあるのか知らなければな」

「ありがとうございます。けど逆、じゃないですか? まず帰る方法を探すべきじゃ」

「目的地も決めずにキミは歩き始めるのか? それはあまりに無謀だ。逆方向の馬車にでも乗ってしまったら余計に遠くなるだろ」

 確かにそうだ。

「別世界に送る方法が見つかったとしても、別の世界がキミの世界一つとは限らない。手に入れた方法が、キミのモノではない世界にしか有効でない可能性もある。これは無駄骨も甚だしい」

「全くです。全くその通りです」

 激しく首肯。

「さ、キミの世界の話を」

「わかりました! えっと……」

 相田は両手の人差し指と親指で丸を作る。

「地球って惑星があって、その中の日本て島国に俺は住んでました」

 我ながら下手な入り方だ、と思う。しかし他にどうしろと言うのか。

「惑星と言うのは?」

「星です」

「空の?」

「はい」

「……ん?」

 よくわかんない――とニネルは眉を捻る。 

「キミは……星に住んでいるのか?」

「その言い方は……ロマンチックですけど」

 どうも天文学的な点で遅れている世界らしい。

「住んでいるところが、数多ある星のうちの一つに過ぎなかった、っていうか」

「ほう!」

 ニネルは感心したように目を丸くする。

「じゃぁ、キミの世界では空の星一つ一つにも同じように人が住んでいるのか」

「いえ。もしかしたら他にもそんな星があるかも知れませんけど、今はまだ確認されていません」

「そうか。よく自分たちが住んでいる場所が星だと気づけたもんだな」

「そういうのを研究した人が大昔いたんです。俺らの世界ではもう常識になってます」

「惑星は星だ、と言ったな。ならばなぜ二つの呼び方がある? 二つの差異はなんだ?」

「え……っと」

 なんだろう?

 なんとなくは分かるのだが、正確さには欠ける。こういう時にネットがない環境は辛い。

「恒星の周りを回っている星のことを惑星って言うんじゃなかったかな? あ、恒星って言うのは、太陽みたいな星のことです」

「太陽も、星か……」

「星が小さいのは、それだけ遠いのだと思ってください。太陽は近いから大きく見えるんです」

「なるほど。納得が行く。――で地球は丸いのだな。それはこの世界と同じだ」

 ニネルは相田の手元を見つつ確認する。

「はい。球体です」

 あえて言い換えた。

 ニネルはこの世界が円盤状になっている、と思っているかも知れないと思ったからだ。それが天文学の遅れているこの世界の常識。

 おそらくガリレオ以前の世界観を持っている――。相田はそう予測した。

 ついでに、建物や電線のない風景。整備されていない道。交通手段として『馬車』が出てきたところから、全体的な文明もその頃だろう、と当たりをつけた。

 実際には地球球体説はガリレオよりもっと遡った時代に唱えられている説だから、相田の予想はその時点で間違っている。

 また、説があったとしても、それがどこまで世間に浸透しているか、という問題もあり、文明レベルを測るにはあまりに適当だ。

 が、相田自身の捉え方が『1500年位のイタリア』といった具体的なものではなく、『昔の西洋』程度の曖昧なものなので、意外とズレてはいない。

「球体!? ……の中か?」

 案の定、ニネルが食いつき、相田はほくそ笑む。

「球体の下部に大地が溜まってて人間はその上で生活している……ブー! 不正解でーす!」

 古代人をせせら笑うように、相田は言った。

「人が住んでいるのは球体の表面です。上にも人が住んでるし、その裏っ側にも人が住んでいるんです。だからって裏っ側の人は落ちちゃったりしませんよ」

「なぜだ!?」

「それは地球に重力があるからです。重力があるから人は落っこちないんです」

「ほほう! その重力というのはなんだ?」

「重力っていうのは……」

 ――なんだ?

 テンション急ブレーキ。

「万有引力、みたいな……」

「万有引力……?」

「りんごが落ちて、ニュートンが発見した……」

「ニュートン?」

 相田は愕然とする。

『ニュートンが万有引力を発見』って、どういう意味だ!?

 今更そんな壁にぶち当たる。

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