ふぁっといずでぃす5
「この国の人間じゃない?」
そんなわけあるか、と思った。
言葉は通じているし、外見も男女の差、美醜の差はあれど、人種まで違うとは思えない。
「俺は日本人です」
「ここはニホンじゃない」
「は?」
「そして、ニホンという地名は、この世界には存在しない」
「存在しない」
「僕の頭の中には、全世界の地名が入っている。少なくとも、人の行ける範囲はね」
「そんな」
「キミは他の世界から来たのさ。または他の時代だな」
「嘘です」
「嘘はついていない。僕の考えが間違ってる可能性は否定しないけどね」
にわかには信じがたい。
「異世界に飛ばされ、全く異なる文化に触れる。そんな物語を聞いたことはないか?」
「あります」
そうだろう――と彼女は頷く。
「おめでとう。キミはその物語の主人公だ」
異世界。ここは異世界なのか。
それは……それが本当なら……。
最高じゃないか!
あんなクソつまらない世界より、こんな美人がいて、さっき見たロボットみたいなのもある、こっちの世界の方が楽しそうだ。
それに、自分は飛ばされてきた人間。それだけで、この世界において特別な地位を与えられていると言っても過言ではない。
もちろんまだ、自分に何が出来るのか、この世界でどんな役割を果たすことになるか、それはわからない。
しかし、自分はこの世界に何らかの楔を打ち込む事になるだろう、と相田は確信していた。
ざまぁみろ。
何に対してかわからないが、相田は心中にそう罵り、ほくそ笑んだ。
きっと向こうの世界と違って初心で純粋な美少女なんかもいるに違いない。
彼女は俺の過分に自己犠牲的な深い優しさに感じ入り、メロメロに恋しちゃう事だろう。
くふふ。
「主人公殿の名を聞いていなかったな」
訊かれて慌てて笑みを収める。
「相田です。相田俊家」
「アイガ・トシエ」
「相田です」
「アイガ」
「あいだ」
「うん」
分かっているのか?
「僕はニネル」
「ニネルさん」
「よろしく」
「どうも」
「どうしたい?」
「何をですか?」
「これからのキミのことさ。元の世界に帰りたいのだろう?」
「……はぁ」
「歯切れが悪いな」
「帰れるんですか?」
「さぁ。僕は知らない」
「じゃぁ、一応、元の世界に戻る方法を探す、という方向で」
「ずいぶん他人事だなぁ」
「まだ、そんなに帰りたいって気持ちが湧かないんです。異世界に来てるって実感もあんまりないし」
「ふぅん。案外、当事者というのはそんなものなのかもな」
ニネルと名乗った女性はしばし荷台の外に遠い視線を向ける。
「ふふ」
理由のわからぬ含み笑い。
「いいよ。きみはこのまま僕らと一緒に来い。行く当ても何も無いのだろう?」
「いいんですか?」
「大丈夫さ」
「俺、金も持ってないですけど」
「だろうね。別に騙そうなんて気はないよ」
ニネルは艶然と両手を組み合わせる。
「かわりにキミの世界の話を聞かせてくれ」