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ふぁっといずでぃす3

 相田は道の脇から通過するロボットを見た。

 真横から見ると、ロボットの側面はスッカスカだった。

 タイの……なんと言ったか。三輪のタクシー。確かトゥクトゥクとかいう乗り物。

 ロボットはあれに手足をつけたような形状をしていた。

 なんだか突然手作り感丸出しになった。多分どっか小さな工場でこさえた代物なのだ。

 先程の女性が、運転席と思われる場所からちらりと一瞥をくれていく。

 怒りを含んだ強い視線。

『見てんじゃねぇよ』

 と言ってる気がした。

 粗末な物に乗ってるところを見られて、きっと恥ずかしいのだろう。

 気持ちはよく分かる。

 ロボットは荷台を牽引していた。

 四輪の幌付き荷車である。

 馬車のあれだ。ドラクエとかに出てくる奴。つまり木製。

 オイオイ。

 軽く嘲笑しつつ見送っ……。


「……あ!」

 大変なことに気づいた。

 そんな場合ではない。

 自分は今、迷子になっていたのだと思い出す。

 ここがどこか訊かなければならない。そして出来ればどこかまで乗せていってもらいたい。

 慌ててロボットに追いすがり、

「すみません! すみません、ちょっと! ちょっと待ってください!」

 走りながら女性の背中に声を掛けるが、

「……」

 無視された。

 同乗している、見るからにガテン系な髭面のオッサンが、代わりに振り返ってこちらを見た。

 彼がロボットも知らない無学なオッサンであろう。

 無学でもいいから、

「お話を! お話を聞いて下さい!」

 相田は懇願する。

 オッサンは女性に何事かお伺いを立て……、すぐに『あっちへ行け』と手で合図してくる。

「そこを何とか!」

 両手を合わせてもダメだった。

 オッサンすらもこちらに背を向け、壁を構築してしまった。

 ヒドイ。こんなに頼んでいるのに。

 走って追うのも辛くなってきた。

 最早手段を選んでいる余裕も無くなって、相田は荷台の方に目標をロックする。

 ちょうど、誰にも見られていない。

 荷台後方の開口部から乗り込むのは可能だ。

 叱られるかもしれない。

 それも事情を話せばなんとかなるだろうと思えた。

 二人がこちらを見ていないことを確認して、荷台に身体を引き上げる。

 走っていた時の名残みたいに、両脚をバタバタさせながら転がり込んだ。

 荒く息を付く。とりあえず人心地がついた。

 震動がすごかった。未舗装の道を木だか鉄だかの車輪で走っているのだ。さもありなん。

 時折大きく跳ねるところをみると、一応サスペンションのような物は装備されているらしい。それが逆に厄介だった。すぐに車酔いしそうである。

 荷台には木箱がいくつか並んでいた。中から鉄パイプの跳ねるような音が聞こえてくる。

それがまたやかましい。

 居住性は最悪だ。

 しかし文句は言うまい。

 言ったって誰も聞いてないことだし。

 止まってくれるまでの辛抱だ。

 木箱の隙間に、布切れの山を見つけた。

 そこなら多少は過ごしやすいのではないか、と思えた。

 這ってそちらに近づき……。

 相田はギョッとした。

 布切れの山の頂に、人の頭が乗っていた。

 長い艶やかな黒髪の、青白い肌の女性の頭だった。相田よりも三つ四つ年上くらいだろうか。

 死体……じゃないよな。

 恐る恐る這い寄る。

 大きく口をあけ、苦しげに喘いでいた。

 固く閉じられたまぶたの上に長いまつ毛が咲いていた。細い眉が悩ましげに顰められ、額にはふつふつと汗が浮き、そこに前髪が張り付く様子が、何となく淫靡だった。

 相田は胸を高鳴らせた。

 グラビア写真の中の人みたいな、絵の中から立ち上がってきたみたいな、どこか現実感のない美しさ。

 病気なのだろうか。

 初めて会った、しかも言葉すら交わしていない相手なのに、相田は家族に対するように、むしろそれ以上に、彼女のことが心配になった。

 何とかできないか。

 せめてものことを、と制服の袖口を伸ばして、汗ばむ額にそっとあてた。

「……!」

 女性のまぶたが開く。

 潤んだ漆黒の瞳。

 相田の方へ虚ろな視線を彷徨わせる。

 その視線を捉えようと、相田は顔を寄せた。

 布山が動いて、そこから白い手が出てくる。

 細くて白い指が、相田の方に伸びてきて、頬に触れる。冷たく湿った感触。

 その手を握ろうとして……、

 相田は果たせなかった。

 女性の手は、相田の頬に触れただけでは止まらず、そのまま強引に押し退けようと動く。

 相田の首が横に折れて、ポキリ。

「げ」

 と喉を鳴らしながら、相田は横倒しになる。

 なんで?

 悲しく見上げる先で、女性は布の山ごと荷台の後方へと、覚束無い足取りで移動していく。

 荷台のへりに両手を突き、外に顔を出して……

「オゲロォ!」

 こっちに向けた尻を痙攣させながら、綺麗な女性は激しく吐いた。

 なんのこたぁない。車酔いだ。

 百年の恋も醒めそうな醜態。数秒の恋なら尚更。相田はがっかりしていた。

 漂ってきた臭いが、相田の胸を直撃。

 見事に貰った。

 相田も女性の横に駆け寄り、仲良く並んで外に吐いた。

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