ふぁっといずでぃす15
今回は久しぶりにショートスパンで投稿
「あなたはさっき妙なことを言っていたな」
ルキノは悠然と腕を組み、相田を見据える。
「さっき……?」
――胸を人の目から隠したいという心理かな?
――それとも重いから支えておきたいのかな?
そんな桃色の煩悩が、会話のために費やすべき脳領域を圧迫していた。だもんで相田には『さっき』がいつのことやらさっぱり分からない。
いずれ相田の発した言葉など、ルキノからすれば全て『妙』だろう。だから余計になんだか分からないわけである。
「ナグロをなにか他の名で呼んだと記憶している」
ルキノは苛立ったように補足した。
「あぁ……」
それは結構前の話だ。相田はナグロという名のあのゲートクラヴィオを、モビルスーツとかそういう類のロボットか何かと思ったのだ。
「いや、気にしないでください。勘違いでした」
「勘違いって……」
ルキノは眉を顰める。
「どこかで似たものを見たことがあるのか?」
「あぁ、えっと……いやぁ」
モゴモゴと口ごもる。なんとも説明が面倒だ。
ニネルに目で助けを求める。
軽薄そうな笑みを湛えて、状況の推移を傍観していた二ネルは、
「彼はね、ゲートクラヴィオを実際に見るのは初めてなんだってさ」
ちょっと肩を竦めてみせた。
「はっ!?」
ルキノは片眉を跳ね上げ顔面のバランスを崩す。
「世間知らずにも程がある」
相当呆れられている。
この世界のことについては知らない事だらけ。相田としては、仕方のないじゃないか、と主張したいところなのだが、ルキノはこちらがついさっき異世界から飛ばされて来た事など知らない。不当に評価が下がってゆく気がする。
「……ん?」
相田はふと気づいてニネルの耳元に口を寄せる。
「俺が他の世界から来たことって、明かしちゃいけないんですかね?」
ニネルが『世間知らずな家出人』みたいな設定を持ち出したからなんとなくそれに従ったわけだが。
「ん~。そんな事言ったって信じてもらえないと思うけど? 異世界人も世間知らずのボンボンも大して変わらないだろ?」
「そう……ですかね」
「他の世界から来ました、なんて言ったら、モノを知らないだけじゃなく頭そのものがおかしいんだ、って思われるぜ? まぁ、哀れみを持って接してくれるかも知れないけど」
「はぁ……」
「世間知らずなのは分かりました」
相田とニネルの内緒話を遮るように、ルキノが声を上げた。
「しかしそれでは、ナグロを何かと間違えた事の説明にはなっていません」
相田に聞いても埒があかないと思ったのか、問い掛けはニネルに向けられていた。
「そうりゃそうだ」
二ネルは頷く。
「アイガくん。ナグロをキミはなんて呼んだんだい?」
「えと、ロボットです」
「ふぅん。ルキノくん、ロボットだってさ」
そのまんま。ガキの使いみたいな遣り取りだ。
「そう、あぁそうでした。確かに彼はさっきそう呼んでいました。初めて聞く名です。バッツェも知らなかった。ロボットとはなんです?」
「ゲートクラヴィオだろ」
二ネルは事もなげに言った。
「は?」
「だからロボットというのはゲートクラヴィオの事だ。方言か何かだろ?」
――なるほど。
相田は密かに手をポンと打つ。
簡単な事だった。さすがに嘘が巧いというか、機転が利くというか。
「そうですそうです」
相田はなんども首を縦に振った。
『は?』の顔のままルキノは動きを止め、数秒。
「……そうか。そうですか。納得です」
ルキノはふぅ、と小さくため息。落胆が窺える。
「どうしたんだい、ルキノくん。随分こだわってる様子だったけど」
「父の……」
伏し目がちに呟きかけ、ルキノはハッと顔を上げる。
軽い咳払いと共に、バツの悪さを振り払って、
「ナグロは父の作品です。似ている物があるとすれば、当然気になります」
言い切る。
「なるほどね。こっちも納得だ。互いにすっきりしたね」
二ネルだけがあっけらかんと笑った。