ふぁっといずでぃす13
「全っ然!」
ルキノと呼ばれた女性がきっぱりと答えた。
腰に手をあてた姿が地面に影として映る。
「あなたの所業ですか?」
「所業とはヒドイな。まるで僕が悪人みたいだ」
「善人ではないのでしょう?」
「まぁね。しかし驚くなかれ、この状況はなんと僕の善意から発展したのだよ」
「どういった善意ですか?」
「彼、この破廉恥な少年はね――」
破廉恥な少年、というのは
「俺のことですか!?」
「そうだよ」
「くぅっ」
「テメーは少し黙ってろ! 先生がお話をしてくださるってんだ! それをお嬢がお聞きになって、テメーの処遇をお決めになるってこった! それまで神妙にしてろガキ! いい加減そっから手を離して正座しろ! そして――」
「バッツェも黙りなさい」
「ガッテンで!」
「……話していいかな?」
「えぇ、どうぞ」
ルキノが促す。
「彼はとある名家のご子息でね、とある事情で以て出奔したのだそうだ。ご覧の通り着の身着のまま逃れて来たらしくて、お金もないし寝るところもない。世間知らずで体力もない。放っておくわけにはいかないだろ? だからこうして拾い上げたというわけさ」
顔に血を溜めながら相田が声を上げる。
「ニネルさん!」
「なんだい?」
「そういう設定で行くんですね!?」
「うん。理解してるなら『設定』とか言わない方がいいと思うよ」
「言いません! もう言いません!」
「あはは」
「なんです!? なにを笑ってるんです!?」
「キミがなんか言うたびにケツ肉がパクパクして、お尻と話してるみたいだ」
「本当ですか!?」
「あはははは」
下らない事で笑い過ぎ。
他の二人はどんな顔でそれを見ているのだろうか?
ニネルがちゃんとしてくれないと、相田はこの場で放り出されるかも知れないのだ。
地面を見ている相田には周囲の雰囲気が分からない。とりあえずルキノの影はほぼ無反応だ。
「そういうわけだからルキノ君、よろしく頼むよ」
頼む側の人間とは思えない軽さ。
「バッツェ君も。さぁ彼を放してあげなさい」
「しかし……」
当然のようにバッツェは難色を示している。
「これは――」
ルキノの影は頭を掻いて、
「我々にとって不利益になるようなことではない、と言い切れますか?」
静かに問うた。
一瞬の沈黙。
「もちろんさ」
表情は見えない。しかしニネルの声は自信に満ちていて、相田はそれを意外な気持ちで聞いた。