ふぁっといずでぃす10
「目的地……」
この人達はどこかへ行く途中だったのか。
今頃になってそんな当たり前のことに思い至る。
「北の辺境でね、ちょっとした厄介事があってさ」
「厄介事ですか」
「大きくて凶暴な蜥蜴が悪さをしてるらしい」
大きくて凶暴な蜥蜴って……
「ドラゴンですか!?」
ファンタジーっぽい。
「ドラゴンって言うのは初めて聞くけど。こちらでは竜とか呼ばれているな」
「そうです、それです! ニネルさんがさっき言ったみたいに大きな蜥蜴って感じの外見で、翼が生えてて、体中は鱗に覆われてて、火とか吐いちゃうモンスターです」
「キミの世界にもいたか」
「あ、いえ。これも魔法とおんなじで空想の中だけの存在なんですけど……」
……と言うことは魔法とおんなじでドラゴンの存在も嘘じゃなかろうな?
相田はそんな目でニネルを見る。
「本当だよ。そんな嘘ついてどうするのさ」
察し良くそう答えてニネルは笑う。
「退治しに行くんですか?」
「うん。たぶんね」
「ニネルさんたちは、化け物退治が仕事なんですか?」
その手助けをするのが、この世界での自分の役割か?
相田はそう想像する。
運動神経は特別良いわけではないし、武道の心得もまったくない。そんな自分が救国の勇者となる。
方法? それは分からない。きっと他の世界から来た自分にしか扱うことのできない武器とかがあったりするんだ。たくさんのクエストを経験し着々と成長してゆき、凶悪な魔王を倒すのだ。
「まさか」
ニネルの声が相田を現実に引き戻す。
「もちろん退治してみせれば、それなりの報酬はあると思うけどね。こんなこと……キミの言うドラゴンみたいなのが暴れるなんてことは稀だから、それだけでは食べていけない」
「そうなんですか? じゃなんで……」
「ゲートクラヴィオを売り込みに行くのさ。これから行く場所はこの国の最北に位置していてね。他国の侵入に備える要所なんだ。戦力増強に繋がるモノだと判断されれば……」
「売れる?」
「最悪売れなくとも、現在彼らが所有するゲートクラヴィオの改修くらいは任されるかも知れない」
すると、やっぱりゲートクラヴィオっていうのは戦いに関係する道具なんだ。曲だとか奏でるだとか、その辺りとの関連が今ひとつ分からないが。戦意高揚か?
それにしても、彼女らの目的が営業とは……。
ファンタジーなのに夢のない、下世話なことを知ってしまった。相田はわずかに意気消沈する。
「で、降りないんですか?」
「ん?」
「目的地に着いたんなら降りましょうよ」
「まぁ待ちなよ。止まったからって着いたとは限らない」
「自分が『着いたのかな?』って言ったんじゃないですか」
「言ったよ。着いた、と明言したわけじゃない」
「そうですけど」
「さっきも突然止まったんだよ。そしたらしばらくしてまた動き出した。んで変な少年が転がり込んできた。そんなこともあるからね」
「やぁ、それは俺のことですね」
「だから呼ばれるまで待とう。降りるのも、降りたあともう一回乗るのも面倒だ。疲れる」
「体力ないなぁ」
「ないよ。魔法使いだからね」
どうも胡散臭い人だ。