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第20話 凱旋と二つの褒賞

『嘆きの森』での掃討作戦は、完璧な勝利に終わった。私の情報支援と、レオンの卓越した指揮能力のおかげで、騎士団は一人の犠牲者を出すことなく、ヴァイスハイト家の残党を全員捕縛できた。彼らが三十年間蓄えてきた武器や資金も、全て差し押さえられた。この勝利は、この国の未来を左右する大きな節目となった。


数日後、王都では騎士団の凱旋を祝う、盛大なパレードが催された。冬の澄んだ空気の中、民衆は道の両脇を埋め尽くし、英雄たちの帰還に熱狂的な歓声を送っている。色とりどりの紙吹雪が舞い、王都の通りは祝福と喜びに満ちていた。


その先頭を堂々と馬に乗って進むのは、騎士団長のレオンだ。陽光を浴びて銀色の髪と、磨き上げられた甲冑がきらきらと輝いている。その姿はまるでおとぎ話の王子様のようで、沿道の女性たちからは黄色い声援が飛び交っていた。彼の一挙手一投足が、民衆の歓声をさらに大きくしていく。


私は王宮のバルコニーから、皇帝陛下と共にその光景を眺めていた。バルコニーは王族や一部の重臣しか立ち入れない場所であり、私がそこにいること自体が、私の王宮内での地位が確固たるものになったことを示していた。


「見ろ、ミカ。君が支えた英雄の姿だ」


陛下は、満足げに微笑む。その金の瞳は、レオンの雄姿を誇らしげに見つめていた。


「はい。本当に素晴らしいです」


私も自分のことのように嬉しかった。私の地味な『お片付け』が、彼の武勲と、多くの命の安全に繋がったのだ。その事実は、どんな名誉や金貨よりも、私の心を温かく満たしてくれた。


パレードが終わり、王宮でささやかな祝勝会が開かれた。主役はもちろんレオンだ。彼は多くの貴族や騎士たちに囲まれ、次々と称賛の言葉を浴びている。しかし、その華やかな中心にいながらも、彼は少し居心地が悪そうに、時折こちらをちらちらと見ていた。その視線は、まるで早くこの場を抜け出して、私のそばに来たいと訴えているようだった。


やがて彼は、人々の輪を抜け出すと、まっすぐに私のところへやってきた。彼の足取りは、力強く、迷いがなかった。


「ミカ。今回の勝利は君のおかげだ。心から感謝する」


彼は大勢の人が見ている前で、私の前に深く頭を下げた。その真摯で飾らない態度に、私は少し照れてしまう。


「やめてください、レオン様。これはあなたと騎士団の皆さんの力です」


「いや。君がいなければ我々は今頃、森の中で無駄な血を流していたかもしれん。君が示してくれた正確な情報が、我々の盾となり、剣となった。今回の功労者は、君だ」


彼は顔を上げ、まっすぐに私の目を見つめた。その蒼い瞳には深い感謝と、そしてそれ以上の熱い何かが宿っているように見えた。彼の言葉は、私の胸に深く響いた。


その甘い雰囲気を打ち破ったのは、皇帝陛下だった。陛下はゆっくりと私たちのそばに歩み寄る。


「レオン。見事な働きだった。褒賞を与えよう」


陛下はにこやかに言うと、一つの小箱をレオンに手渡した。中には美しい装飾が施された、騎士団長だけが持つことを許される指揮官用の長剣が入っている。それは私が『開かずの倉庫』で見つけた希少な鉱石が使われ、最適化まで施された特別な一振りだ。


「……もったいなき幸せ」


レオンはその剣を、感無量の面持ちで受け取った。彼の表情は、騎士としての誇りと、陛下への深い忠誠に満ちていた。


「そして」


陛下は次に、私の方へと向き直った。


「筆頭監査官ミカ・アシュフィールド。君にも褒賞を与えねばなるまい」


「えっ、私にもですか?」


私は驚いて目を見開いた。


「もちろんだ。今回の作戦、最大の功労者は君なのだからな」


陛下が侍従に合図をすると、運ばれてきたのは剣でも宝石でもなかった。それは一着の、とても美しいドレスだった。夜空のような深い青色のシルクに、銀糸で繊細な星の刺繍が施されている。それは驚くほど私の好みで、私の髪や肌の色に完璧に合うようにデザインされていた。


「これは……」


「今度の建国記念舞踏会で、それを着て私の隣に立つことを許可しよう。それが、私から君への褒賞だ」


陛下の言葉の意味。皇帝の隣、それは事実上王妃の立つ場所だ。そのあまりにも破格な褒賞に、会場中が息を呑んで静まり返った。レオンでさえ驚きに目を見開き、陛下と私を交互に見ている。その瞳に浮かんだのは、驚愕と、そして隠しきれない独占欲の色だった。


「陛下!そのような大役、私には……!」


私は慌てて辞退しようとする。


「これは命令だ、ミカ」


陛下の金の瞳が、有無を言わせぬ力で私を見つめる。その視線はまるで「君は私のものだ」と宣言しているかのようだった。彼の声には、絶対的な王としての威厳と、私を手放さないという強い執着が滲んでいた。


騎士団長からの真っ直ぐな感謝。そして皇帝陛下からの独占欲に満ちた甘い命令。二人の英雄からの二つの、全く違う形の褒賞。そのあまりにも重すぎる愛情に、私の頭は完全にキャパシティオーバーを起こしていた。


私の穏やかなスローライフ計画は、一体どこへ行ってしまったのだろう。それどころか私の人生は、この国の二人の最高権力者を巻き込んで、とんでもない嵐の中心に立たされようとしていた。


舞踏会で一体何が起こるのか。不安と、ほんの少しの期待を胸に、私はただ美しいドレスを見つめることしかできなかった。

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