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第2話 最初の命令は「薬草を仕分けろ」

視界を埋め尽くす青いグリッドと、次々に流れ込んでくる情報。

これが私のスキル《完璧なる整理整頓》の本当の力らしい。


(すごい……鑑定と、収納機能までついてる……!)


地味スキルだなんてとんでもない。これは使い方によっては、とんでもない能力なのではないだろうか。


私は恐る恐る目の前の『錆びた鉄の剣』に意識を集中した。

頭の中で『YES』と念じると、剣はふっと光の粒子となって消える。

視界の隅にあるアイテムボックスのアイコンに「1」という数字が灯った。


今度はアイコンに意識を向けて『取り出す』と念じた。

すると手の中に、さっきの錆びた剣が寸分違わぬ姿で出現した。


「……いける。これなら、いけるかもしれない」


希望の光が見えてきた。

これだけの広さと物量だ。手作業でやれば一生かかっても終わらないだろうが、このスキルを使えば話は別だ。


私はまず、倉庫の入り口付近の一角をターゲットに定めた。

ここを片付ければ、作業スペースと休憩場所が確保できる。

プロジェクト管理の基本は、まず足場を固めること。前世で嫌というほど学んだ教訓が、今、役に立つ。


手始めに、足元に転がっている雑多なガラクタを次から次へとアイテムボックスに放り込んでいく。


【割れた木箱】を収納しました。

【片方だけの長靴】を収納しました。

【干からびた薬草の束】を収納しました。


ピコン、ピコンと軽快なシステム音が心地よい。

まるで面倒なタスクリストを一つずつ消していくような快感だ。


数時間後、倉庫の入り口付近は嘘のように綺麗になっていた。

床には数百年分の埃が積もっていたが、それすらもスキルで『ゴミ』として分類する。

アイテムボックスの別カテゴリに収納してしまえば、掃き清めたようにピカピカになった。


「ふぅ……」


私は綺麗になった床に腰を下ろして一息ついた。

アイテムボックスの中身を確認すると、収納したアイテムが種類ごとに自動でフォルダ分けされている。


【武具】

【家具】

【古文書】

【薬草・素材】

【ガラクタ】


すごい。完璧なファイリングシステムだ。


私は試しに【薬草・素材】フォルダを開いてみた。

中には先ほど収納した『干からびた薬草の束』がリストアップされている。

詳細情報を開くと、さらに驚くべき事実が書かれていた。


月光草げっこうそうの束】

状態:乾燥しすぎ。品質低下。

効能:鎮静作用。魔力回復。

最適化案:魔力を込めた水に一晩浸すことで、品質を80%まで回復可能。


「最適化案……!?」


ただ整理するだけじゃない。状態を改善する方法まで教えてくれるなんて。

これはもう、ただのお片付けスキルじゃない。超高性能なコンサルティング機能付きの整理整頓スキルだ。


夢中で作業を続けていると、背後から不意に声がかかった。


「……何をしている?」


低く厳格な響きを持つ声。

振り返ると、そこに一人の男性が立っていた。


銀色の髪を短く刈り込み、彫りの深い顔立ちには一切の無駄がない。

全身を包むのは王家直属の騎士団であることを示す紺青の騎士服だ。

その体格と隙のない立ち姿から、彼がただの騎士ではないことが一目で分かった。


腰に下げた長剣の柄に置かれた手が、彼の緊張感と警戒心を物語っている。


「あなたは……?」

「ここの管理を任されている、騎士団長のレオン・アークライトだ。君が、今日からここで作業をすると聞いている新人か」


騎士団長。この国の軍事のトップだ。

そんな偉い人が、なぜこんな倉庫の管理を?


レオンと名乗った騎士団長は、私のことなど意にも介さず、驚愕の表情で周囲を見回していた。


「……なんだ、これは。ここの入り口は、ガラクタの山で埋め尽くされていたはずだが……」


彼の視線が、私が片付けたピカピカの床に注がれる。

その蒼い瞳が、信じられないものを見るかのようにわずかに見開かれた。


「君が、やったのか? 一体、どうやって……」

「私のスキルを使いました。《完璧なる整理整頓》です」


私が淡々と答えると、レオンは眉間に深い皺を刻んだ。


「お片付け、だと……? そんなスキルで、この物量がどうにかなるものか」


彼は私の言葉を全く信じていないようだった。

まあ無理もない。私だってこの目で見るまでは信じられなかっただろう。


「まあ、見ていてください。ちょうど、薬草の仕分けをしようと思っていたところなので」


私は立ち上がると、アイテムボックスから【薬草・素材】フォルダに収納されていた薬草の山を床の上に取り出した。

ドン、と音を立てて小山のような薬草が出現する。


レオンの目が、再び驚きに見開かれた。


「空間魔法か……!? いや、魔力の流れが違う……」


彼の呟きを無視して、私は薬草の山にスキルを発動する。


「種類別、品質別に分類。劣化しているものは、最適化案をリストアップ」


頭の中でそう命じると、薬草の山がひとりでに動き出す。

瞬く間に十数種類の山に分かれていった。

それぞれの山の前には半透明のウィンドウが浮かび上がり、名前と品質、保管方法が表示される。


竜涎草りゅうぜんそう】品質:A

太陽花たいようか】品質:C(要・乾燥処理)

【賢者の石ころ草】品質:B


「……信じられん」


レオンが呆然と呟いた。

彼は仕分けられた薬草の山の一つに近づくと、それを手に取ってまじまじと見つめている。


「これは……『太陽花』か。湿気に弱くすぐにダメになるため、王都ではほとんど流通していないはずだ。しかもこれだけの量を、一瞬で……」


彼の態度は、最初の高圧的なものから純粋な驚嘆へと変わっていた。


「私のスキルはただ片付けるだけではないんです。ものの価値を判断し、最適な状態にする方法も分かります。まあ、社内資料の整理とファイリングみたいなものですね」

「しゃない……しりょう?」


聞き慣れない言葉に、彼が首を傾げる。


「いえ、こちらの話です」


私は仕分けが終わった薬草を、再び種類別にアイテムボックスへと収納していく。

その手際の良さに、レオンはもはや言葉も出ないようだった。


彼はしばらく黙って私の作業を見ていたが、やがて何かを決心したように口を開いた。


「……一つ、探してほしいものがある」

「探し物、ですか?」

「ああ。百年ほど前にこの倉庫に保管されたはずの品だ。だが誰も見つけられなかった。伝説の品だと、今ではおとぎ話だと思われている」


レオンは、真剣な眼差しで私を見つめた。


「『星詠みの羅針盤』。それを見つけ出してくれたら、君の待遇について陛下に直接上奏しよう」


星詠みの羅針盤。聞いたことのない名前だ。

だが騎士団長が直々に探すほどのものだ。きっと、とんでもない価値があるに違いない。


「分かりました。探してみます。……データベースの、キーワード検索みたいなものですね」

「でーたべーす……?」


またしても不思議そうな顔をするレオンに、私は苦笑いを浮かべた。


私はアイテムボックスの検索ウィンドウを開き、キーワードに「星詠みの羅針盤」と入力した。


エンターキーを押すイメージで、検索を実行する。


すると、一瞬のロード時間の後、システム音が鳴り響いた。


ピコン。


【検索結果:1件】

アイテム名:星詠みの羅針盤

保管場所:エリアG-34、大型木箱(商品番号G-34-089)の内部

状態:良好。軽微な魔力漏出あり。


「……ありましたよ」


「なに?」


私は、検索結果が示すエリアを指さした。


「あそこの、ガラクタの山の、中腹あたりです」


私の言葉に、レオンは絶句した。

彼の蒼い瞳が信じられないという色と、今までそこにはなかったはずの熱を帯びた期待の色に揺らめいていた。

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