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異世界転生リターナーズ(パイロット版)

作者: ネルソラ

 2026年(なな)の月。

 異界の門が開き、東の都に厄災(やくさい)が降りかかるであろう。

 しかし、異世界より帰還者(きかんしゃ)が訪れ、厄災を払拭(ふっしょく)するなり。

 by 野須(のす) 虎衛門(とらえもん)


 僕の名前は、平凡(へいぼん) 並吉(なみきち)。都内の平凡大学に通う、普通の大学2年生だ。特徴はない。いたって平凡な毎日だが、その平凡をそれなりに楽しんではいる。


 今日は、数少ない友人の弥助(やすけ)が開いてくれた久しぶりの合コン。そのために先日、渋谷で服も買い、並吉本気モードである。楽しみすぎて、待ち合わせの1時間前に着いてしまった。流石に早すぎた。


 と、突然、耳をつんざく、ガラスを何かでこすったような嫌な音が響き渡る。


「何だ!?」


 僕は周囲を見渡すと、スクランブル交差点の上あたりが(ゆが)んでいるように見えた。その(ゆが)みは(うず)となり、空間が黒く変色していく。


「何だ? 何かの撮影か?」


 周囲の人々は、スマホのカメラを取り出し、黒い空間を撮影している。僕も慌ててスマホを取り出し、黒い渦にカメラを向けた。


 すると、その渦から鳥の手のようなものがニュッとでてくる。ただ、そのサイズが大きい。恐竜(きょうりゅう)の足にも見えた。


 きょ、恐竜?


 そんな疑問もすぐに解消される。


 黒い渦から鱗をまとった胴体、さらに翼が生えているドラゴンが出てきた。


 ドスン!


 地面が揺れる。地震ではないことは、すぐにわかった。眼の前のドラゴンが地面が降り立った衝撃だ。


「ド、ドラゴン!?」


 僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。


 次の瞬間、ゴォアオーーー! とドラゴンが咆哮する。空気の振動が目に見えるほどの雄叫び。そして、口から炎を吐き出した。その熱風は、離れていた僕の頬でも熱さを感じるほど。


 ギャー、うわああ、逃げろ! 様々な絶叫や怒号が木霊する。


「な、何? どういうこと?」


 僕は何も考えることができず、スマホを持ったまま立ち尽くす。そもそもこんな状況に対処できるほどの能力はい。


 ドカッ。


 誰かが肩にぶつかり、そのまま尻もちをついてしまった。肩の痛みは多少感じていたが、それよりも目の前の光景の凄まじさに、思考が停止していた。


 渋谷が燃えている。火事ではなくドラゴンの炎で。嫌な肉の焼けた匂いに、僕は胃液がせり上がってくるのを感じた。


 ドラゴンがこちらの方を向く。僕を見ているわけではないが、その異様な目に心臓(しんぞう)鷲掴(わしづ)みにされるような感覚があった。


「あ、あ、あ⋯」


 逃げなくてはいけないとわかっているのだが、体がいうことをきかない。立ち上がるという動作が思い出せない。動かないというより、動けないのだ。


 ドスン、ドスンとドラゴンが近づいてくる。このまま僕はドラゴンに押しつぶされてしまうのだろう。それだけは、わかった。


 ジジジ⋯。


 僕の右の方で、電気が弾けたような音がしていた。顔を動かすこともできず、目の端に意識を集中する。


 空間が歪み、再び渦ができていた。またドラゴンなのか⋯。


 僕は股間に温かさを感じる。あー、買ったばかりのパンツなのに⋯と変な冷静さがあった。


 その渦から、今度は大きな手甲(てっこう)のようなものを付けた人間の手がゆっくりと出てくる。手甲は人の手の二倍ほどの大きさで、手甲というには大きすぎる気がした。


 その手は渦の(ふち)(つか)み、それに続いて炎のような赤い色をした髪、そして西洋風の服を着た人間が出てきた。その姿はファンタジーに登場するキャラクターのように見える。


「くそっ、気分が悪すぎる」


 その男はそう()き捨てると、周囲を見渡した。


「ここは日本か?」


 どうも状況が飲み込めていないようだ。そもそも、眼の前にドラゴンがいる時点で、僕も何がなんだかわかっていないのだが。


「おいっ、そこのお前、ここはどこだ?」


「し、渋谷です」


 僕は声を(しぼ)り出す。


「渋谷か。今は何年だ?」


「に、2026年です」


 男は何か考え込むように、頭に人差し指を当てている。


「戻って来れたのか。いや、転生しているから、戻って来たというのも違うのか⋯」


 独り言のようにつぶやく。


 ドスン、ドスン。お尻に響く振動で、僕はドラゴンの存在を思い出す。


「ド、ド、ド⋯」


 それ以上、言葉が出なかった。


 と、男が僕に近づいてきた。


「あれっ、お前、並吉か?」


 えっ? 僕を知ってる? いや、でも今はそれどころじゃないんですけど。


「俺だよ、俺、梅太郎」


 梅太郎?


 いや、そんなはずはない。梅太郎は、山で遭難して、10年以上見つからず、そのまま死亡認定された。


 それに、梅太郎は、こう、もっと凡庸というか。こんなに精悍な感じではない。


「あー、そうか、見た目も変わっちゃったからなあ。異世界転生して」


 い、異世界転生!?


「ほら昔さ、江戸川で一緒に段ボールで作った船で川下りして溺れかけたじゃん、覚えてる?」


 確かに、そんなことはあったが⋯。


「梅太郎なの? 本当に?」


「梅が大好き、梅ちゃんマン!」


 男は両手の人差し指を頬に付け、口をすぼめ、酸っぱそうな顔をする。


「梅太郎!」


「並吉!」


 僕たちはハイタッチをする。


「いやあ、懐かしいなあ。また戻ってこれるとは思ってなかったよ」


 ドスン、ドスンと、さっきよりもお尻の振動が大きくなっていた。ドラゴンはもう目の前だ。僕はドラゴンを見上げる。


 梅太郎もドラゴンの存在に気づいたのか、ドラゴンの方を見上げた。


「ほう、初めて見るタイプだな」


 そう言うと、男は両手の手甲の拳をガチン!とぶつける。そして、体勢を少し低くし、右腕を下げた。


「ガントレットジェットストリーム!」


 梅太郎が叫び、右拳を高く突き上げる。と同時に、拳の先から竜巻のようなものが出て、ドラゴンの下顎(したあご)豪快(ごうかい)にぶつかった。


 ドラゴンがそのまま後ろに後退する。


「結構しぶといねぇ」


 梅太郎はそのままドラゴンへダッシュで近づき、連続攻撃を叩き込んだ。


 何発殴っただろうか。そのたびに、梅太郎は技名なのか、何か言葉を叫ぶ。


 気がつけば、ドラゴンは動かなくなっていた。梅太郎がゆっくりとこちらに戻ってきて、僕に手を差し伸べる。


「待たせたな」


 僕は梅太郎の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。改めて見ても梅太郎の面影はどこにもない。まるで別人だ。けれど、僕と梅太郎だけの思い出を知っているということは、やはり梅太郎なのだろうか。


「何が、起きてるんだ?」


 僕は疑問をそのまま口に出す。それ以外の言葉が見つからなかったとも言える。


「俺もそこまで詳しいことは知らない。ただ、野須(のす) 虎衛門(とらえもん)って奴が予言したらしい。日本に厄災(やくさい)が降りかかるって。で、その厄災を振り払うために、異世界から戻って来た。正確には戻された」


「全然意味わかんない。えっ、何、梅太郎って異世界にいたの?」


「ああ。正確には異世界転生だがな。そこで魔王を倒してきた」


「魔王!?」


 聞き慣れない言葉に現実感が無かった。


「聞いた話じゃ、最近、日本では異世界転生ものが流行ってるらしいじゃないか」


「そうだね。雨後の竹の子のように、異世界転生祭りだよ」


「それは政府が異世界転生した者たちが戻ってきた時に、受け入れやすくするための政策らしい」


「えっ! マジで!」


「まあ、予言が当たるかどうかもわからんしな。実際に起きるかどうかわからないもののために、軍事費を上げるなんて言ったら、国民が納得するか?」


 確かに納得するわけはない。


「で、白羽の矢が立ったのが、異世界転生ってわけだ。予言の中にも書いてあったらしい」


 にわかには信じがたいが、今起きていることを考えれば、間違っているとも言えなかった。


「まあ、全部一方的に送られてきたメッセージだから、どこまで本当かは俺もわからん。が、何にせよ、ちゃんと戻れて良かった。戻るには、こっちの世界で強い(きずな)を持っている人物が必要みたいでね。並吉のことを考えたら、うまくいったよ。ありがとう、並吉」


「何言ってんだよ、こちらこそ、ありがとうだよ! マジで行方不明になって、ずっと心配してたんだ」


 僕たちはがっちりと握手した。


「さて、俺は移動しなきゃいけない。どうやら、『異世界リターナーズ』って組織に入る予定らしい」


「異世界リターナーズ?」


「ああ、俺と同じように異世界転生した者たちを集めた組織だ。皆、こっちの世界にどんどん転送される予定だと聞いている」


「へぇ」


「転生したらゴブリンだった奴とか、冷蔵庫だった奴とか、解毒魔法しか使えないマッチョマンとか、いろいろといるらしい。楽しみだよ」


 梅太郎は、そう言うと親指を立てて、渋谷駅へ歩いていった。僕は梅太郎の背中を見ながら、頼もしさを感じていた。


 昔の梅太郎は、僕の背中に隠れているような引っ込み思案なところがあった。が、今の梅太郎はいろいろな意味で成長していて、なんだか自分のことのように誇らしい気持ちになる。


 ずっとのほほんと大学生活を送っていたけれど、僕も負けてられないなと思った。


 ただ、ドラゴンが出てきたぐらいだ。他にもモンスターが召喚されているだろう。そんな世界で平凡な僕に何かできるのか。


 いや、違う。諦めたらそこで終わりだ。自分にできることをするんだ。それが大切な気がした。僕は空を見上げる。心なしか、いつもよりも空が高いように思えた。


 ダダダダダ⋯。駅に向かったはずの梅太郎が走って来る。


「電車が止まってる! 国会議事堂(こっかいぎじどう)ってどうやって行けばいい?」


 僕は人生で一番のサムズアップをした。


「僕に任せとけ!」


(了)

本作は、異世界転生した人たちが、日本を救うために戻ってきて協力し、強大な戦うという物語のパイロット版的なものです。

イメージしたのは、アベンジャーズですね(笑)

タイトルは、金城武主演のリターナーから。

パイロット版なので、話としてはこれで完結です。

いつか機会があれば、書くかもしれません。


あとテーマソングがあります。

・異世界転生リターナーズ

https://www.youtube.com/shorts/66r2kDG6GFo

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