異世界転生リターナーズ(パイロット版)
2026年7の月。
異界の門が開き、東の都に厄災が降りかかるであろう。
しかし、異世界より帰還者が訪れ、厄災を払拭するなり。
by 野須 虎衛門
僕の名前は、平凡 並吉。都内の平凡大学に通う、普通の大学2年生だ。特徴はない。いたって平凡な毎日だが、その平凡をそれなりに楽しんではいる。
今日は、数少ない友人の弥助が開いてくれた久しぶりの合コン。そのために先日、渋谷で服も買い、並吉本気モードである。楽しみすぎて、待ち合わせの1時間前に着いてしまった。流石に早すぎた。
と、突然、耳をつんざく、ガラスを何かでこすったような嫌な音が響き渡る。
「何だ!?」
僕は周囲を見渡すと、スクランブル交差点の上あたりが歪んでいるように見えた。その歪みは渦となり、空間が黒く変色していく。
「何だ? 何かの撮影か?」
周囲の人々は、スマホのカメラを取り出し、黒い空間を撮影している。僕も慌ててスマホを取り出し、黒い渦にカメラを向けた。
すると、その渦から鳥の手のようなものがニュッとでてくる。ただ、そのサイズが大きい。恐竜の足にも見えた。
きょ、恐竜?
そんな疑問もすぐに解消される。
黒い渦から鱗をまとった胴体、さらに翼が生えているドラゴンが出てきた。
ドスン!
地面が揺れる。地震ではないことは、すぐにわかった。眼の前のドラゴンが地面が降り立った衝撃だ。
「ド、ドラゴン!?」
僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。
次の瞬間、ゴォアオーーー! とドラゴンが咆哮する。空気の振動が目に見えるほどの雄叫び。そして、口から炎を吐き出した。その熱風は、離れていた僕の頬でも熱さを感じるほど。
ギャー、うわああ、逃げろ! 様々な絶叫や怒号が木霊する。
「な、何? どういうこと?」
僕は何も考えることができず、スマホを持ったまま立ち尽くす。そもそもこんな状況に対処できるほどの能力はい。
ドカッ。
誰かが肩にぶつかり、そのまま尻もちをついてしまった。肩の痛みは多少感じていたが、それよりも目の前の光景の凄まじさに、思考が停止していた。
渋谷が燃えている。火事ではなくドラゴンの炎で。嫌な肉の焼けた匂いに、僕は胃液がせり上がってくるのを感じた。
ドラゴンがこちらの方を向く。僕を見ているわけではないが、その異様な目に心臓を鷲掴みにされるような感覚があった。
「あ、あ、あ⋯」
逃げなくてはいけないとわかっているのだが、体がいうことをきかない。立ち上がるという動作が思い出せない。動かないというより、動けないのだ。
ドスン、ドスンとドラゴンが近づいてくる。このまま僕はドラゴンに押しつぶされてしまうのだろう。それだけは、わかった。
ジジジ⋯。
僕の右の方で、電気が弾けたような音がしていた。顔を動かすこともできず、目の端に意識を集中する。
空間が歪み、再び渦ができていた。またドラゴンなのか⋯。
僕は股間に温かさを感じる。あー、買ったばかりのパンツなのに⋯と変な冷静さがあった。
その渦から、今度は大きな手甲のようなものを付けた人間の手がゆっくりと出てくる。手甲は人の手の二倍ほどの大きさで、手甲というには大きすぎる気がした。
その手は渦の縁を掴み、それに続いて炎のような赤い色をした髪、そして西洋風の服を着た人間が出てきた。その姿はファンタジーに登場するキャラクターのように見える。
「くそっ、気分が悪すぎる」
その男はそう吐き捨てると、周囲を見渡した。
「ここは日本か?」
どうも状況が飲み込めていないようだ。そもそも、眼の前にドラゴンがいる時点で、僕も何がなんだかわかっていないのだが。
「おいっ、そこのお前、ここはどこだ?」
「し、渋谷です」
僕は声を絞り出す。
「渋谷か。今は何年だ?」
「に、2026年です」
男は何か考え込むように、頭に人差し指を当てている。
「戻って来れたのか。いや、転生しているから、戻って来たというのも違うのか⋯」
独り言のようにつぶやく。
ドスン、ドスン。お尻に響く振動で、僕はドラゴンの存在を思い出す。
「ド、ド、ド⋯」
それ以上、言葉が出なかった。
と、男が僕に近づいてきた。
「あれっ、お前、並吉か?」
えっ? 僕を知ってる? いや、でも今はそれどころじゃないんですけど。
「俺だよ、俺、梅太郎」
梅太郎?
いや、そんなはずはない。梅太郎は、山で遭難して、10年以上見つからず、そのまま死亡認定された。
それに、梅太郎は、こう、もっと凡庸というか。こんなに精悍な感じではない。
「あー、そうか、見た目も変わっちゃったからなあ。異世界転生して」
い、異世界転生!?
「ほら昔さ、江戸川で一緒に段ボールで作った船で川下りして溺れかけたじゃん、覚えてる?」
確かに、そんなことはあったが⋯。
「梅太郎なの? 本当に?」
「梅が大好き、梅ちゃんマン!」
男は両手の人差し指を頬に付け、口をすぼめ、酸っぱそうな顔をする。
「梅太郎!」
「並吉!」
僕たちはハイタッチをする。
「いやあ、懐かしいなあ。また戻ってこれるとは思ってなかったよ」
ドスン、ドスンと、さっきよりもお尻の振動が大きくなっていた。ドラゴンはもう目の前だ。僕はドラゴンを見上げる。
梅太郎もドラゴンの存在に気づいたのか、ドラゴンの方を見上げた。
「ほう、初めて見るタイプだな」
そう言うと、男は両手の手甲の拳をガチン!とぶつける。そして、体勢を少し低くし、右腕を下げた。
「ガントレットジェットストリーム!」
梅太郎が叫び、右拳を高く突き上げる。と同時に、拳の先から竜巻のようなものが出て、ドラゴンの下顎に豪快にぶつかった。
ドラゴンがそのまま後ろに後退する。
「結構しぶといねぇ」
梅太郎はそのままドラゴンへダッシュで近づき、連続攻撃を叩き込んだ。
何発殴っただろうか。そのたびに、梅太郎は技名なのか、何か言葉を叫ぶ。
気がつけば、ドラゴンは動かなくなっていた。梅太郎がゆっくりとこちらに戻ってきて、僕に手を差し伸べる。
「待たせたな」
僕は梅太郎の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。改めて見ても梅太郎の面影はどこにもない。まるで別人だ。けれど、僕と梅太郎だけの思い出を知っているということは、やはり梅太郎なのだろうか。
「何が、起きてるんだ?」
僕は疑問をそのまま口に出す。それ以外の言葉が見つからなかったとも言える。
「俺もそこまで詳しいことは知らない。ただ、野須 虎衛門って奴が予言したらしい。日本に厄災が降りかかるって。で、その厄災を振り払うために、異世界から戻って来た。正確には戻された」
「全然意味わかんない。えっ、何、梅太郎って異世界にいたの?」
「ああ。正確には異世界転生だがな。そこで魔王を倒してきた」
「魔王!?」
聞き慣れない言葉に現実感が無かった。
「聞いた話じゃ、最近、日本では異世界転生ものが流行ってるらしいじゃないか」
「そうだね。雨後の竹の子のように、異世界転生祭りだよ」
「それは政府が異世界転生した者たちが戻ってきた時に、受け入れやすくするための政策らしい」
「えっ! マジで!」
「まあ、予言が当たるかどうかもわからんしな。実際に起きるかどうかわからないもののために、軍事費を上げるなんて言ったら、国民が納得するか?」
確かに納得するわけはない。
「で、白羽の矢が立ったのが、異世界転生ってわけだ。予言の中にも書いてあったらしい」
にわかには信じがたいが、今起きていることを考えれば、間違っているとも言えなかった。
「まあ、全部一方的に送られてきたメッセージだから、どこまで本当かは俺もわからん。が、何にせよ、ちゃんと戻れて良かった。戻るには、こっちの世界で強い絆を持っている人物が必要みたいでね。並吉のことを考えたら、うまくいったよ。ありがとう、並吉」
「何言ってんだよ、こちらこそ、ありがとうだよ! マジで行方不明になって、ずっと心配してたんだ」
僕たちはがっちりと握手した。
「さて、俺は移動しなきゃいけない。どうやら、『異世界リターナーズ』って組織に入る予定らしい」
「異世界リターナーズ?」
「ああ、俺と同じように異世界転生した者たちを集めた組織だ。皆、こっちの世界にどんどん転送される予定だと聞いている」
「へぇ」
「転生したらゴブリンだった奴とか、冷蔵庫だった奴とか、解毒魔法しか使えないマッチョマンとか、いろいろといるらしい。楽しみだよ」
梅太郎は、そう言うと親指を立てて、渋谷駅へ歩いていった。僕は梅太郎の背中を見ながら、頼もしさを感じていた。
昔の梅太郎は、僕の背中に隠れているような引っ込み思案なところがあった。が、今の梅太郎はいろいろな意味で成長していて、なんだか自分のことのように誇らしい気持ちになる。
ずっとのほほんと大学生活を送っていたけれど、僕も負けてられないなと思った。
ただ、ドラゴンが出てきたぐらいだ。他にもモンスターが召喚されているだろう。そんな世界で平凡な僕に何かできるのか。
いや、違う。諦めたらそこで終わりだ。自分にできることをするんだ。それが大切な気がした。僕は空を見上げる。心なしか、いつもよりも空が高いように思えた。
ダダダダダ⋯。駅に向かったはずの梅太郎が走って来る。
「電車が止まってる! 国会議事堂ってどうやって行けばいい?」
僕は人生で一番のサムズアップをした。
「僕に任せとけ!」
(了)
本作は、異世界転生した人たちが、日本を救うために戻ってきて協力し、強大な戦うという物語のパイロット版的なものです。
イメージしたのは、アベンジャーズですね(笑)
タイトルは、金城武主演のリターナーから。
パイロット版なので、話としてはこれで完結です。
いつか機会があれば、書くかもしれません。
あとテーマソングがあります。
・異世界転生リターナーズ
https://www.youtube.com/shorts/66r2kDG6GFo




