番外編二 レオン・サージス 後編
遂に、悲願の雪祭りの日になった。どんなことをするのかはまだよくわからないが、ハルが「期待してろ」って言ってたから楽しみだ。
「レオン、そろそろ行くか?」
祭りは六時に始まる。今は五時半だか丁度良いな。ちょっとぶらぶらしたら三十分なんてすぐ経つ。
「そうだな。メイス、行こうか」
「はい!」
オルゴールを買ってから大体一日経ったけど、メイスはずっとあの曲を聴いてる。今まで曲を繰り返し聴くっていう常識自体がなかったから、好きな曲を好きなだけ聴けるのは嬉しいのだろう。少し名残惜しそうに立ち上がった。
「祭りが始まる前に一つやることがあるんだ。広場に行っても良いか?」
「ああ、俺達にもわかることか?」
「流石にわからない作業だったら裏でやるよ。恒例になりつつある行事があるんだ」
ペリペドット領の中心部にある広場には城に置いてある物と同じくらい大きな噴水がある。水を出しているのが魔石だから真冬の気温でも凍らないらしい。
俺達が広場に入ると、お喋りに夢中になっていた領民達が一斉にこちらを向いた。期待の眼差しがハルに突き刺さってる。
少し下がっているように言われたから、俺達も他に倣って噴水から十メートルくらい離れた所で待つ。
時計台の針が六時を指した瞬間、ジャバジャバと音を立てていた水の流れが止まった。
バキバキバキ! という音と共に、さっきまで流れていたはずの噴水は、美しい鳥の彫刻に姿を変えた。俺では何の鳥かまではわからないが、美しいということだけは言える。
「雪祭り、楽しんで!」
ハルの声に、全方向から歓声が上がる。
これが恒例だなんて、羨ましいものだ。こういう娯楽が全部、ハルの貴族への無知から始まったってのが本当に凄い。もともと他の領民として暮らしていた人達をここまで変えるのも。
「レオン。俺は隠れて護衛するから、あとはメイスさんと楽しんで。穴場は夏祭りで教えた所だから」
「わかった。ありがとう。楽しませてもらうよ」
今回の旅行にはハル以外の護衛を付けていない。多すぎると狙われやすいとか言ったけど、皆堂々と護衛するせいで休まる時間がほぼないってのもある。ハルみたいにどこかから隠れて守ってくれる人がもっといれば良かったんだけど。
「メイス、ここからは二人で回ろう。ハルは少し遠くから守ってくれるって」
「はい!」
何時にどこに行けば良いのかも全部聞いておいたから、案内はバッチリできる。
夏と違って温かい飲み物や食べ物を売っている出店が多い。夏祭りと同じような物を売っている所もあるが、少ない印象だ。
「レオン様。私、あのいちご飴が食べたいです。夏にマリア様に教えていただいたんです」
「良いよ、じゃあ二人分買おうか」
他に何人か並んでいたから少し並んだが、並んで良かったと思うくらいの美味しさだった。いちごを丸々飴でコーティングしているだけのはずなのに、やめられない美味しさがある。毎日食べたいくらい美味しい。
「あ! メイス様だ!」
「レオン様もいる!」
屋台の一角から出てきたのはあの三人。レイン君、アイラさん、アイク君だ。
「アイラさん、お久しぶりね。何かお店をやっているの?」
「うん! あったかい豚汁売ってる!」
「ハル様もさっき買っていきました」
ハルが? 護衛してるはずじゃ? 一瞬来てすぐ帰ったのか?
「じゃあ二つ買って行こう」
結局考えるのはやめた。考えてもわからないことに労力を使っても意味がないからな。
「まいどあり!」
「裏に飲食スペースあるので良ければ使ってください」
「ありがとう、使わせてもらうよ」
店舗の裏にはテーブルと椅子が並んでいた。空いている席に腰を下ろし、豚汁にスプーンをつけた。
「ん、美味い!」
「美味しい……!」
豚汁は初めて食べるけど、これも美味しい。学生時代、偶に食べていた味噌汁と似たような色味だったからあんま変わんないかなって思ったりしたけど、俺はこっちの方が好きかも。
一口ひと口、食べる度に体の芯から暖かくなっていく。
食べ終わったら、ゴミを係員の人に預けてハルに教わった穴場に向かった。
少し坂を登った所にある転移ステーションを使って行くと、そこには誰もいなかった。でも、どこよりも綺麗に街が見える。
もうすぐだな。七時になると、雪の彫刻が見られるようだ。コンテストなんだとか。ハルが初めに噴水で彫刻を作ったのは雪祭りは彫刻コンテストを兼ねているからか。
バッ! という音と共に、大きく張られた覆いが取られていく。
生き物だったり、人物象だったり、建築物だったり様々だ。ハルの神獣に似た動物もいる。
「レ、レオン様……。あれって……!」
メイスの指す方を見て、驚きのあまり腰を抜かしそうになる。
学園と城の建築物彫刻が並んでる。二つとも実物が大きいから実寸大ではないが、ミニチュアだとしても凄いクオリティだ。
絶対王都の人間がエントリーしてる。それかペリペドット住みの元王都の人間か。
「凄いですね……」
「ああ……。誰が作ったんだろうか……」
観光案内パンフレットにはコンテストの勝者はハルが選ぶらしいから、その時に作者がわかるはず。後で聞いてみよう。
そのうちに、雪だけでなく氷の彫刻も覆いの奥から顔を出し始めた。氷だからクリスタルガラスの彫刻にも見える。彫刻店があったら土産にでも買って行こう。
ライトアップもされて、更にキラキラと光る彫刻達。
「二人とも」
「わっ!」
「あ、ごめん。今から優勝者を選ぶんだけど、二人も来るか? 護衛対象を置き去りにするのはどうかと思うし、普段は優勝者を俺が決めるけど今年は特別賞があっても良いと思うんだよ」
「私やりたいです!」
「じゃあ、俺もやる」
他の所では絶対体験できない。もし同じようなことをやっていたとしても、優勝者の作品を一瞬見せられて終わってた。
「それと、二人が特別賞をあげた作品を彫刻化して名前入りで期間・数量限定販売したいんだけど、それは大丈夫か?」
「俺達に取り分があるならいくらでも」
「それに関しては問題ない。俺が受け取っておくよ」
「それなら良い」
「私も大丈夫です」
穴場での観覧はできなくなったが、それ以上に楽しそうなメイスに比べたら俺の名前の一つや二つ軽い軽い。
下に降りると意外と彫刻の大きさに圧倒される。これらを一つずつ見ていって、優勝者を決めるのか。
全部見て回ったけど、俺が一番に選んだのは城と学園だった。メイスはハートを描く二羽の鳥の彫刻が気に入ったらしい。で、ハルは神獣。
今は奥に行って、優勝者達に渡すための賞状を作っている。
トロフィーに俺達の名前が彫ってあるから、元から名前を借りる気満々だったみたいだ。
そして、賞状を作る時に気付いたのだが、俺の選んだ作品の作者はカリウ先生だった。納得。そんなことだろうと思った。
「書けたか?」
「ああ、バッチリだ」
「私も書けました」
表彰は彫刻が置かれていた広場で行われ、その直後に花火が上がる。
「只今、審査結果が出ました。エントリーした方は表彰がありますので、広場にお集まりください」
表彰の三人目、最後に俺が選んだ作品を読み上げると、少し驚いた様子のカリウ先生が壇上に上がった。
「おめでとうございます、カリウ先生」
「ありがとうございます、レオン様」
カリウ先生が照れたように笑って賞状を見せると、入賞者三人を称える拍手がゆっくりと広がった。
ドォォォォォーーーーーン!
と、地面が揺れるほどの大きな音が鳴った。花火が始まったようだ。時間はもう八時。夏祭りと同じ時間だが、見える景色が全然違う。
「レオン様、すごく楽しいですね!」
「ああ、本当に。楽しい」
何のセンスも捻りもない感想だけど、本当に楽しかった。明日には帰らないといけないなんて、信じられない。信じたくない。それくらい楽しい。
「レオン、メイスさん」
「ん?」
「はい」
「幸せになって」
「ああ、必ず」
「はい! ハル様も」
花火に照らされたハルの泣き顔は、今まで見た中で一番綺麗だったと思う。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。明日以降はフェリーチェ・サージス視点の物語を投稿していきます。




