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七十二話 建領記念祭


「案内ありがとう。すごく新鮮で、楽しかった」

「私も、今まで見た学校の中で一番楽しかったわ」


「それは――「本校の魅力が十分にお伝えできたようで、私共も嬉しく思います。またいつでもいらしてください」



 校長の声を遮って、アイキーが締めた。ハンカチが搾れそうなくらい冷や汗タラタラの校長が締めるより自分が喋った方がまだマシだとの判断だろう。

 小学生達にグイグイと追いやられた校長が少し不憫に思えてくる。


「じゃあ、皆はまたお祭りで。校長先生、ご快諾ありがとうございました。次は定期訪問になりますのでご安心くださいね」

「はいぃ……」


「ハル様! 絶対来てね! ハル様が来てくれるまで待ってるからね!」

「オレも!」


「それなら皆が早くお祭りに行けるように、一番最初に行こうか」

「やったぁ!」




「やっぱりダメかぁ……」

 帰りの道中、レオンがそんなことを言った。


「何が駄目なんだ?」

「あの子達、ハルと喋る時より俺達と喋る時の方が表情も口調も硬かった」

「そりゃそうだろ? 初対面なんだから。俺に対しても最初あんな感じだった」


 出会って数ヶ月はレオンに接するようにされてた。全く……。寂しいったらありゃしない。同じ立場にいたわけだから気持ちはわかるけどさ。


「結構苦労したんだな」

「優先して労力を使うところが若干ズレているような気もしますが……」

 それを言ったらお終いよ、メイスさん。自分でもあれ? って思ったりするんだから。


「この後はサッと風呂入ってもらって、着替えてからお祭りに行こう。八時には余裕で間に合う。夕飯は屋台の食べ物と、足りなければマリア達が夕飯作ってくれてるからそれで」

「着替えってのは……」


「期待に応えて、浴衣も作っておいた」

「さっすが」

「浴衣? この服とは違うのですか?」



 ペリペドット初心者のメイスさんは袴と浴衣の違いが曖昧らしい。大丈夫、俺もそんなによくわかってない。


「浴衣は基本的にお祭りの時に着る、その袴よりもカジュアルな着物って印象ですね。それはシンプルなデザインですが、浴衣はもっと賑やかですよ」



 勿論シンプルな無地や同系色ストライプとかもあるが、多くは花だったり魚だったりがデカデカと描かれている。好きなデザインを着て欲しいので、真っ青以外であれば何でも良いよと言っている。別に鈴蘭とか緑とかに拘らなくてもね。



「ただいま」

「おかえりなさい」

「大きいお風呂も沸いてるよ!」


「大浴場? レオン、大丈夫か? 出難くなったりしないか?」

「帰ってからも入るんだろ? すぐに出るよ」


「じゃあ、俺とレオンは大浴場に行こうかな。シルヴィはどうする?」

「私も大浴場に、メイスちゃんとマリアちゃんと一緒に行くわ」

「え!? わ、私もですか!?」


 腕を引くシルヴィに、少し遠慮がちなメイスさん。昔のマリアを彷彿とさせる。裸の付き合いという言葉があるのだから、出てくる時には打ち解けているような気がする。




「じゃあ、着替えもあるし早めに入ろう」

「ああ」


 二人だけで大浴場、というのも少し寂しいものがあるが、仕方ない。使用人含めても元々男人数が少ないんだから。

 お風呂から上がったら浴衣に着替える。今回は俺とレオンで色違いにしてみた。


 俺は黒地に桃色の桜柄、レオンは黒地に青色の桜柄が描かれている。裾や袖口にいくにつれて花の数も増え、色も濃くなるデザインだ。



「おおーーー……。良いな、これ」

「お気に召したみたいで何よりだ」

「これは、シルヴィ達のも楽しみだな」

「期待してて良いぞ」


 シルヴィは青地に白い鈴蘭、マリアは白地に水色と紺色の鈴蘭が描いてある。メイスさんは黒に近い紺地に桃色と赤色の胡蝶蘭。「幸福が飛んでくる」という花言葉らしいからそれにした。

 直接的な言葉よりも伝わりにくさはあると思うが、少し照れくさいからな。



「ハッキリした色も似合うな、メイスは」

「ありがとうございます、レオン様もよくお似合いです」


 あ、気付いてないっぽい。まあそうだよな。胡蝶蘭は王都ではほとんど名前を聞かない花だ。

 花言葉とかはシルヴィに教わったのだが、俺としても、なぜ知っているのかと問いたいくらい。



 アイラみたいな花屋の娘ならともかく、シルヴィは蝶よ花よと育てられた生粋の王女様だ。勉強やエステにかける時間も多いから暇だったわけでもないだろうし、一体どこで知ったんだろうか。



「私は女の子同士で周りたいのだけれど、ハルはどうしたい?」

「花火の時間に高台に集合で良いならバラけるのも良いと思う。あとはレオン次第だな」

「俺達は新婚旅行で雪祭りを楽しむ予定だから、今回はシルヴィに譲ってやるよ」


 ちょっと語気に棘があるような、ないような……。いや、気のせいか。気にしないでおこう。


「お兄様。私は今日、メイスちゃんを全力で楽しませますから、新婚旅行で下位互換にならないようにしないといけませんわね?」

 これは煽り合戦だな。兄妹で一人を巡って争うんじゃないよ。



「も、もう始まるから。また八時に会おう」

 そう言って俺が終わらせなかったら、火花はずっと消えなかっただろう。


「雪祭りの穴場教えてやるから、そんな気落ちすんなよ。冬と夏じゃ全然違うからな」

「ああ、これに関してはシルヴィに負けるわけにはいかない」

 闘志をメラメラと燃やすレオン。幸せカップルのようで。


「まさか婚約してから、祭りを男友達と二人で回ることになるなんて、思ってもいなかった」

「まあ、エスコートしなきゃしなきゃって思いはないだろうから、気楽じゃないの?」

「それはそうなんだが……俺を知っている人に会ったらと思うと……」



「あ、ハル様とレオン様だ」


 はい、回収。立ててからのフラグの回収が早すぎる。ここまでくると最早プロ。


「カリウ先生、ルイ先生。こんばんは。二人ですか?」

「ええ。祭りに合わせて向こうの仕事を片付けました」

「お揃いの浴衣もよく似合っていますね」



 何か服飾師達がカップル用って言って男女、男男、女女の三種類用意してたような……。多分二人が着てるのはそれかな。


「ありがとうございます。カップル用が売っていたのでつい買ってしまいました」



 やっぱりそうか。

「レオン様はご婚約者を盗られた感じですか? シルヴィ様あたり、やりそうですが」

「ルイ先生……。痛いとこつきますね」


「婚約者と来ていながら、友人と二人で周っている所を見たらそう思うのは妥当だと思いますよ」

「はい、正解です……。シルヴィに盗られました。メイスも異論はなさそうでしたし、今回は譲るということで……」




「メイス様がシルヴィ様に惚れないことを祈りましょう。それでは」


 最後に特大台詞を投下して、ルイ先生はカリウ先生を連れて去っていってしまった。


「ルイ先生は俺を煽りたかったのか……?」

「さあ……。話しかけてきたのはお揃いの浴衣を自慢したかっただけかもしれないけど……」


「さ、流石にシルヴィも人の婚約者掻っ攫ってたりらしない、よな……?」

 レオンでも確証がないのか。恐ろしいな、シルヴィ。本人に友達が少なかったからか、気に入った子に対する執着が強い印象だ。デートとかでもシルヴィの名前連呼するようだったら諦めた方が良い。多分勝てん。



「もう……。靡かないことを祈るよ」

「それが賢明だな」


 介入して返り討ちに遭う可能性だってあるんだ。祈れ祈れ。





「あ! ハル様!」

「いらっしゃい!」

 遠くから手を振っているのは、アイラとレイン。アイキーはいないから多分合流前か、どこかで作業中か。


「美味しそうだな」

「オレが仕込み手伝ったんだぞ!」

「わたしも焼くの手伝った!」

「んーー……。じゃあ、レオンの分も含めて二本買おうかな」


 値段表を見ると、一本二百円。魔物肉の串焼きだから安い。畜産が発展したとはいえ、まだまだ発展途上ではあるし、値段もまあまあ高いからな。


「毎度ありー! アイキーはあっちの飲み物屋に行ったよー!」

「ありがとう、アイラ。行ってみるよ」


 指し示された方向にはいくつか飲料系の屋台があって、お酒を売っている所もあれば、果実水やソーダを売っている所もある。

 アイキーはどこだっけか。ソーダをくれたのはアイキーじゃなくて、レインのお母さん。だから……どこだ?


「あ、ハル様!」

「あ! 良かった、探したよ」

「えっとね、お店、こっち」

 レオンもいるからか、若干緊張の面持ちのアイキー。



「これは……パフェ?」

「ううん、違う。一応飲料カテゴリーだよ。シェイクって言うんだ! ちょっと重ためだから、あんまり大きいのはお勧めできないけど、このくらいのサイズなら丁度良いと思うよ」

 フレーバーも多種多様。いちご、ブルーベリー、オレンジ、抹茶。悩むな……。


「俺は抹茶にしよう」

 レオンは即決、先に支払いを済ませてしまった。俺はどうしようか。いちごにしようか、オレンジにしようか。


「よし、決めた。オレンジ一つで」

 オレンジは四百円らしい。財布から百円札を四枚出し、カウンターに置いた所で思い出す。ヘルガさんにお土産買わなきゃ。



「アイキー、いちごも追加で良い?」

「サイズは同じ?」

「同じでお願い」

「まいど! 三百円ね!」


 諸事情で外に出られないヘルガさんにはいちご味を献上。束の間のお祭り気分を楽しんでもらおう。

 追加でコインを出し、無事に購入終了。


「ありがとね、アイキーも楽しんで!」

「ハル様も!」



 建領記念祭に限らず、祭りの中盤辺りで俺はパレード馬車のような物に乗って街を見回るってイベントが挟まる。まだ結婚してないから俺だけだけど、したらシルヴィと二人で乗ることになる。


 まだ少し時間があるから、その間に屋台を回ろう。

 ずっと「美味い」を繰り返すレオンに、領民達は気を良くし、サービスもいっぱいしてもらった。正体はわかるはずなのに、レオンが楽しめるようにと砕けた敬語で。



「色々つけてもらったな」

「美味いって言ってくれる人にはサービスしたくなるものだよ。俺も屋台やってたからわかる」

「そういえば、屋台経営者の息子だったな」


 おいおい……。忘れるなよ。

 俺は飲食系屋台の息子だから料理できるんだよ。もし服飾店の息子とかだったら料理はできてないはず。俺の前世はあのフェリーチェなんだから。


 キッチンの無自覚破壊者になってるはずだ。そうあれ、やる気はある足手纏いってやつ。


「ハル様、準備はできましたか?」

「ああ、手ぶらだ」

「こちらも準備が整いました。いつでも行けます」

 恒例イベント開始だ。


「レオンも乗るか? レオンは一人だと迷いそうなんだよな」

「土地勘ないからな。でも、シルヴィですらまだなのに俺が乗っても良いのか?」

「領主が乗っていることが出発のルールだから、同伴者は正直誰でも良いんだよ」



 最初のお祭りは一人だったし、それ以降はメアと乗ってたから、メアがレオンになっただけでそれ以外は変わらない。


「じゃあ、同乗させてもらうよ」

「では、持ち物は極力減らしてください。ゴミなどはこちらで処分いたします」

「残ったのは俺の収納に入れとくよ。終わったら返す」

「ああ、よろしく」



 邪魔になりそうな荷物はなくした。いざ、乗り込みじゃあ。

 俺達が席に着いたのを確認し、馬車は発進した。領主館から行って、祭りの区間をぐるりと周り、領主館に戻って、八時から花火を見る。毎回こんな感じのスケジュールだ。


 街道に人が集まって、笑顔で手を振ってくれる。それに応えているうちにいつの間にかパレードは終わってる。今回も体感時間は短めになるだろう。


 大通りに出ると、いつも以上の人が集まっていた。俺を呼ぶ声に混じって、レオンを呼ぶ声も聞こえてくるから視察の噂を聞き、駆けつけてきたのかも。明らかに身なりの良い人もいるし、大きな商会の子とか貴族も何人かはいるんじゃないかな。シルヴィとメイスさんも多分どこかにはいる。







「は…………?」

「え、どうかかした?」


 驚愕、というより恐怖の色を乗せた声が隣から上がる。


「いや、今は平気だ。聞きたければ後で話す」

「……? ああ。じゃあ後で聞くよ」

 取り繕った笑顔を浮かべるレオンに、嫌な予感がしたが、俺達の事情は領民には関係のないこと。領民のためにも俺は、心配と不安を押し殺して笑顔を作った。



 いつもよりも長く感じたパレードを乗り切り、花火まで残り四十分となった。人の少ない方が良いだろうと判断したので早めに高台に行き、席を取る。


「それで、どうしたんだ?」

「お、俺にしか関係ないんだけど……」

「ああ、それでも良い」

 拳を握りしめて、体の震えを無理矢理止めるレオンは、小さく溢した。



「十一年前から、俺の暗殺未遂だけを繰り返している組織があるんだ。パレードからそいつらの特徴が一瞬見えて……。俺以外の人間には興味を示さないから、人質とかは取られないだろうって思ってて、今まで黙ってた」


 ピアスを初めて渡した時、一瞬だけど青い顔をしたレオンにはそんな事情があったのか。


「いるってことは、何かしら行動を起こすかもしれないな。他の人間に興味がないってことは、レオンが一人になる瞬間を狙っている可能性が高い。寝込みか?」

「いつも、そうだ。今まではピアスが守ってくれていたが……。ハルのピアスが壊れた話を聞いて、少し怖くなってだな……」


 ああ……ヘルガさんと戦った時の。あれは強すぎる魔力のぶつかり合いが原因だったんだっけ。確かに、壊れた事例が出た以上、一定の不安はつくよな。



 レオンの障害になる物はなるべく殲滅させたいんだけど、レオン以外に興味がないとなると難しいな。部屋にトラップ仕掛けるとか、俺自身がレオンに気付かれないように忍び込むとかしか方法がない。


 レオンと打ち合わせとかすると向こうから見た動きは、絶対に不自然になるから。


「俺の領地を踏んだこと、後悔させる。とりあえず本拠地を潰しに行くよ」

「え、王族の影が探しても見つからないのにか?」


「こっちには最強がいるから。神、敵の本拠地をレオンがうちにいる間に見つけてくれたらあの日の怠惰はチャラにするよ」

『ほんとに! 左目のことも、許してくれる……?』


「ああ、許すとも。それに加えて、手土産になりそうなスイーツも献上するけど」

『行ってくるわ!』



 俺に負い目を感じ、ずっとビクビクしてた神も今回の件で心が軽くなると良い。


「ということで、敵の本拠地は神が空の上から探してくれることになった。俺達と一緒にいる間は行動を起こしにくいだろうし、わかり次第潰しにかかるよ」

「ありがとう……。あいつらのせいで神経質になってるのか、昔からまともな睡眠が取れてなくてだな。即位してからもこんなのだと、倒れそうなんだ」



 少し眠そうに目を擦るレオン。この様子だと、視察先でもあまり眠れなかったのかもしれないな。


「まだ花火まで時間もあるし、今仮眠しても良いぞ。時間になったら多分音で起きれるだろ」


 この高台は花火に近いから、その分音も大きく聞こえる。眠りたくても眠れない程の爆音を容赦なく届けてくれる。目覚ましにはもってこいだ。



「ああ……。そうするよ……」

 肩に寄りかかったと思ったら、すぐに寝息が聞こえてきた。視察と寝不足が重なって疲労は相当なものだったのだろう。


 多分寝にくいだろうが、流石に膝枕はメイスさんに譲ってやろう。無限鞄から柔らかい毛布を出して、レオンのお尻の下に敷いた。



 花火五分前、高台に着いたシルヴィ達にも色々隠しながら事情を話し、花火まで待機した。


 暫く待つと、ドォォォォォォォン! という音が地面を揺らした。花火が始まったようだ。音と振動で飛び起きたレオンも、空を見上げて笑顔を浮かべた。今は、血生臭い現実から目を逸らして楽しんでくれると良い。



 メイスさんに手を引かれ、花火を見る様子はしっかり頂いておこう。絵の材料として俺が有効活用する。お金になるだけでなく、絵が無限牢獄か俺の部屋に残っていたら来世以降も皆のことを忘れずに済むから。


 いつか頼み込んで、大きなキャンバスに皆の集合絵も描きたいな。

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