表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/77

七話 お茶会


「ハルー! メアさんって人が来たわよ。ハルの知り合い?」

「そう! 今行くー!」

 営業開始の鐘と共に、メアが迎えに来た。ヘルガさんのところには既に向かっていたようで、馬車にはヘルガさんとエステルさんが乗っていた。



「おはようございます、ヘルガさん、エステルさん」

「おはようございます」


 相変わらず外見の地味な色合いに似つかないフカフカの座面に腰を下ろす。



「メア、もしよければこれ、王族の方に渡してくれる? もし突っ返されたら俺に返してくれて良いから」


 俺は向かい側に座っていたメアにジャム袋を渡した。



「これは?」

「ジャムっていう甘い料理なんだけどパンに塗ると美味しいんだ。一昨日作って。ここ数日で言葉ではとても表せないくらいにお世話になったからそのお礼も兼ねて」

「わかりました、国王陛下付きの侍従の方に渡しておきます」



「……! ありがとう!」

 第一関門突破だ。もしメアに受け取ってもらえなければ第一関門から敗北だった。


「良かったですね、まずは一歩前進です」

「はい! 二人で頑張りましょう!」



 ジャムを売ってそれを元手にしてサンドイッチを売りたい。商売を目標にするなら勉強しなきゃだな。

 父さんの屋台をずっと見ていたし手伝いもしていたから大体のことはわかるんだけどジャンルが違うと何か違うものがあるかもしれないし。



「いつか、僕達でお店を持ちたいですね」

「はい! まずはお金稼ぎからです!」

「お二人はとても仲がよろしいのですね」


 ヘルガさんと話しているとつい夢中になって周りが見えにくくなってしまう。声の主を向くとあまり表情変化がないと思っていたメアが笑っていた。



「はい、僕にとっては初めてできた友達です。まだ出会って一月も経っていませんがそれでも昔からの友達のように感じます」

 ヘルガさんの言葉に全面同意。

 襲撃事件の数日前に知り合ったからまだほとんど時は経っていない。でも秘密を共有しているということもあるのか仲は縮まり、今ではラッシュと同じようにずっと昔からの友達と思うようになった。

 なくてはならない存在になっていた。



 俺達の表情を見てメアとエステルさんは顔を見合わせてフッと笑った。その後は王宮に着くまで誰も喋らなかったが、心地の良い沈黙だった。



「ヘルガ様、ハル様、門を通過しました。今後の予定としましては湯浴み、お召し替え、王女殿下並びに王子殿下がホストとなるお茶会への参加です。服装は前回よりはかなりラフなものになりますのでご安心ください」

「ありがとう、エステル」

「ありがとうございます」



 メアが門番に対応している間で俺達はエステルさんから今後のことについて聞いた。流れとしては夕食会と大して変わらない。相手が二人に減るだけ。緊張することに変わりはないけど。





「これ、ラフって言うの?」

「はい、グレードは三番目に低いものになります」


 すました顔をするメアと鏡の自分を見比べて気が遠くなりそうになる。

 よし、今だけは自宅の生活を忘れよう。あんなボロボロの服を着ていることを頭から追いやったら受け入れられる、はず。



 今回はグレーのスラックスに黒のパンプス、白シャツに水色のベストだ。

 前回も思ったけど何で水色着せられてるんだろう。青が駄目なら水色も駄目なんじゃないかって思うんだけど。その辺のルールがわからない。

 まあ王族が良しとするのなら良いのだろう。そう思おう。もうわからないから考えない。



「あ、ハルくん」


 会場に着くと既に俺以外は揃っていた。ヘルガさんも先に入っていたようだ。ガチガチとはいかないものの、それなりに緊張している。



「お久しぶりです。王女殿下、王子殿下。お招きありがとうございます」


 練習の成果か、これくらいの短い文ならスラスラ出てくるようになった。


「あら、そんなに硬くならなくて良いわよ」

「ああ、今回のお茶会は非公式なもので招待客はハルくんとヘルガくんだけだからね。それに殿下とかいう堅苦しい呼び方は非公式の時は要らない。寧ろ呼び捨てタメ口でお願いしたい」


「そうよ、私、二人とはもっともっと仲良くしたいと思っているの。私のことはシルヴィ、お兄様のことはレオンと呼び捨てにしてちょうだい?」

「お、お二人がそうおっしゃるなら」



 距離の詰め方がおかしい。呼び捨てタメ口なんて平民の中では当たり前のようにできるけど。


「俺を襲った男に言ったように話してくれると良いよ」



 悪戯っぽい笑顔の王子殿下、いやレオンの言葉に顔に熱が集まる。思い出すととてつもなく恥ずかしい。

 初対面で抱きしめたり邪神の急所を蹴り上げたり。地下牢で絵を描いたり謁見の間で盛大にお腹が鳴ったりと、その日のうちで恥ずかしい話が大量に出てくる。



「その節は、申し訳……ごめん。恥ずかしい話が色々と湧いて出てくる気がする」

「謝る必要はないよ。俺はあの言葉が今までかけられた言葉の何よりも嬉しかったからね。野心の欠片も感じられなくて、パニックになった俺を宥めてくれた。ふふっ、まさか寝かしつけられるとは思わなかったけど。恥ずかしい話はお互いあるから大丈夫。ほら、おいで。四人だけのお茶会を始めよう」

「ああ……!」



 俺達は始めは緊張していたけれどシルヴィとレオンは最初の無茶振り以外は丁度良い距離を保ってくれたのでその緊張はすぐに解けた。

 この程度で緊張が解けるなんて、自分は案外肝が据わっているのかもしれない。遠慮がちだったヘルガさんも最終的には楽しそうだった。



 抵抗感のあったタメ口や呼び捨ても難なくできるようにもなった。呼び捨てするなら呼び捨てされないとムズムズするのでこちらも呼び捨てにしてもらった。これで良し。



「ハル様、ヘルガ様、国王陛下がお呼びです。例の物についてお話しがあるそうです」

 そろそろお開きに、というところで陛下から呼び出しを食らった。例の物っていちごジャムのことだよね? 何か不具合があったとか? まさか異物混入!?



「ハル様、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。怒られませんから」

 メアに宥められて何とか現実に戻った。



「父上に呼び出されたのか。何か面白いことあったのかな。俺も行こう」

「それなら私も行くわ」


 結局四人+その護衛達という大所帯で陛下に謁見することになった。

 陛下の執務室に向かったのだが既に扉は開いていた。




「お待たせして申し訳ございません」

 謝罪の言葉を述べた俺は頭を上げて信じられないような光景を見た。



「えっと……父上、その赤い物は何ですか? 見たことが無い見た目ですが……」


 実子であるレオンも困惑している。それもそのはず、陛下は王妃殿下と自分の執務室で俺の作ったジャムを食べていたのだ。

 柔らかそうな白いパンに贅沢に乗せている。瓶の中にはもう半分くらいしか残っていない。



「ハルくんの侍従として付けたメアに渡されたものだ。何でも、ハルくんが作ったという。新しい料理の一つだから見たことが無いのも無理はないだろう」

「新しい料理……ハルが……?」


 信じられないようなものを見る目を向けられる。料理人でもない俺がなぜポンと新しい料理を開発できたのかと言いたいのだろう。

 だが企業秘密だ。神と作ったなどと言ったら精神の病気を疑われかねない。


「レオンとシルヴィも食べてみなさい。でないと私が全て食べてしまうぞ」

「食べますわ!」



 まず食いついたのはシルヴィ。甘味に目がないらしい。今回のお茶会でも砂糖をふんだんに使ったお菓子を美味しそうに食べていた。



「食べても良いのか?」

「レオン様にもと思い作りましたので。どうぞ」

「む。口調」


 王子殿下とは言わなかっただけまだマシだと思ってもらいたい。流石に陛下の前であんな喋り方できない。


「君達がレオンとシルヴィに呼び捨てやタメ口を許可されたなら公的な場所以外は気にしなくて良い。私とセリアのことも名前で呼んでくれたら尚嬉しいのだが」

「良いわね! 何だか家族が増えたみたいだわ! 是非名前で呼んでちょうだい!」



 公認されましたはい。しかも国王夫妻を名前で……。

「わ、わかりました。ライゼン様、セリア様」

 俺がそう名を呼ぶとお二人は満面の笑みを浮かべた。



「ハルくん、これのレシピを我々に売ってもらいたいのだが良いか? 今までにないものだ。新しい物が好きな大多数の貴族に売れると思う。勿論、使用料なども払う。どうだ?」



 大絶賛のおやつタイムは終了。ライゼン様は真剣な表情になった。買ってくれるならそれに越したことはないし使用料として売り上げの一部が入ってくるのはかなり美味しい話だ。でも……。



「まだほとんど進んでいませんが俺は、ヘルガさんと一緒に屋台で売ったりこれから沢山のレシピを開発してレシピ本を作りたいと思っています」

「はい、実際はフルーツサンドというものを作りたいのですがこのジャムもハルさんのオリジナルですのでどこかで盗まれたり逆に訴えられたりするのは嫌なのです。ですからレシピを売ることは現時点では難しいです」



「そうか……では二人用にキッチンを作らせる。無関係な使用人、そして全ての料理人は立ち入りを禁止とする。そこで作ったものを購入することは可能か? 本を出版したいのなら王家が援助しよう。出版には金がいるからな。これなら不安はないか?」

「そういうことなら可能です」


 レシピを買われるのは少し不安だが実物だけなら問題はないだろう。それに王家のキッチンだ。ねかせる場所も家よりずっと条件が良くなるはずだ。


 ジャムももっと種類があるようだし色々な物を試してみたい。みかんとかブルーベリーとかりんごとか、あとは俺の見たことない果物でもいずれは作ってみたい。初めて作ったジャムを絶賛されたことで意欲が刺激された。




「楽しそうだな。何か思いついたのか?」

「うん。成功するかはわからないけどいつかはやってみたい。果物を買えるくらいになったら」

「果物等財料はこちらが用意しよう。必要な物があれば言ってくれ」

「完成したら私とシルヴィがお茶会で宣伝するわね!」

「ええ! だから遠慮せずにじゃんじゃん作ってね!」

 楽しそうなセリア様とシルヴィはうっとりした表情だ。この状態では何を言っても通じないだろう。




「話は変わるが二人は学園の準備はできているか? 受験はまだまだとはいえ貴族の子息子女が五歳から家庭教師を付けて必死に勉強して受けるような問題が多い。ただの学力テストだけでなく人によっては平民でも立ち振る舞いのテストがある。必要なら教師を付けよう。ああ、レオンとシルヴィと一緒にやると良い。極秘事項などは別にしろ独学よりずっと楽に学べるはずだ。無理強いはしないが教師は皆貴族だから効率的に進められるぞ」


「よ、よろしいのですか? その方のお気に触れるようなことがあれば……僕達は異質な存在とはいえ所詮平民ですし…」


「それに関しては問題ない。全員はヴィーネ様を信仰している貴族家の一人であるから平民に対して嫌悪感を持っていない」

「俺達からもお願いしたい。友達と勉強会、一度やってみたかったんだ」



 そこまで言われたら断れるはずもなく、あっさり絆されてしまった。自由に友達が作れないのが王族の辛いところ。後ろ盾目当てで肉食獣のように寄ってくる貴族を上手くあしらわなければいけないし失敗すれば立場は一気に悪くなる。


 俺達のように立場がない人間の方が気楽なのだろう。まあ平民と友達というのも眉を顰める人がいるのもまた事実だが。



「見送りまでさせてしまった……」

「明日から、大丈夫でしょうか……王族に教える立場であれば厳しそうなので初日で挫折しないかが不安です」


「ヘルガさん……せめて馬車の中で予習して行きましょう。明日からとはいえいきなりレオン達と同じ内容をやるわけじゃないと思いますよ」

「そ、それもそうですね! 子爵令息くらいのクオリティには仕上げましょう!」



 夜会にほとんど呼ばれない、金で買えるような男爵家を参考にしたところで無駄と判断したのだろう。ヘルガさんは昔の記憶を引っ張り出して子爵家以上の主な家をぶつぶつと呟いている。



 学園に通うなら国内の貴族の名前は覚えておこう。試験問題に出るかもしれないし。貴族が家庭教師と必死に勉強しないと覚えられないようなものならきっと家名とその家が推している特産品くらいは覚えていて損はないはずだ。



「送ってくれてありがとう、メア」

「はい、ではまた明日お迎えに参ります」



 家に着いたのは営業終了の鐘の少し前。

「ただいま」

「あら、おかえりなさい。バレッタからハルに何か届いてるわよ。ベッドに置いておいたから後で確認しておきなさいね」

「わかった。ありがとう」



 俺は井戸で水を汲んで手を洗った。この国は貴族しか綺麗な水を安定して手に入れられないので手を洗うという文化は無いのだが、何となく手は綺麗にしておきたい。



 母さんの言った通り、バレッタおばさんからの荷物はベッドの上に乗っていた。この間砂糖を貰った時のように小さくとも少しずっしりとした重さがある。



「何が届いたんだろう」

 袋を開けてびっくり。中には金色に輝く何かが入っていた。取り出すとそれは、大きな瓶に入った蜂蜜だった。蜂蜜も砂糖同様、一切食べたことが無かった調味料だ。これで何か作れる物はあるだろうか。



『神ー』

『ちょ、ちょっと待って。今探してる』

『なるべく早く。うちにある材料で何が作れるかって結構限られるでしょ?』

『あ、あった! ハニートースト! バゲットと卵とバターと牛乳! これよ! すぐに作れる甘味よ!』


『ハニーって何? 女性?』

『蜂蜜のこと! とにかく作って!』


 神に急かされるままに材料をかき集めた。

『えっと、まずは――』




「で、できた……!」


 初めてにしては上出来のハニートーストが出来上がった。決して綺麗とは言えないが美味しそうな匂いがする。



「お兄ちゃん! 甘いの?」

「そうだよ。バレッタおばさんに貰った蜂蜜で作ってみたんだ。少しだけあっちに持っていってあとは皆で食べよう」

「うん!」




「ありがとうハルちゃん。砂糖があんなに美味しくなったのだから蜂蜜でも美味しくなると思ったのよ! ありがたく貰うわね。次は何を持っていこうかしら。次の料理が今から楽しみね!」



 やっぱりそうだ。少し予想はしていたがバレッタおばさんは俺に調味料を渡すと何か美味しいものになって帰ってくると思っている。

 だってジャムのお礼が蜂蜜なわけないから。

 ただ、神から教わる料理のバリエーションが増えるのは良いことだ。料理本出版に一歩近付く。



「これからも料理いっぱい作るからまた持ってきます」

「楽しみにしているわ!」



 ここ数日で二種類も新しい物を生んでしまった。今まで以上に気を付けないと目立つくらいまできてると思う。

 まずは明日の授業、とにかく目立たないことを目標にしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ