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六十七話 婚約発表


 時の流れは早いもので、クラスターで一年伸びたレオン達の卒業がもう目前に迫っている。卒業式が終われば、その一週間後には婚約発表。



 内密に婚約を結んだ後もあの条件は撤回していないが、釣書は一通も来ていないので結局最後まで誰も達成できなかったのだろう。立候補してくれたシルヴィには感謝だ。


 発表の時はまだうちの衣装は着ないが、それ以降に開かれるパーティーではあの衣装を着てもらえる。マリアからの期待の視線がそろそろ痛いのだ。シルヴィからも早く着たいと催促が来ている。

 俺はもうタウンハウスの方に行く。カントリーハウスで衣装を着て転移でタウンハウスに向かったら衣装が皺になる。結構転移の時に服がよれちゃうから。


 俺は卒業式に出るわけじゃないし、当日来る人達の名前でも押さえておこう。参加者全員に名簿が渡されてるからそれで。


 入試の時に勉強した家は大体来るっぽい。仮で領主になっていた人も本格的に仕事をしていくうちに、領主として認められた。それに伴い、家の名前が変わったから覚え直さないと。参加者名簿を捲っていると、見知った名前を見つけた。



「カリウ・ホルスター……子爵……?」


 多分カリウ先生のことなんだろうけど、カリウ先生って当主だっけ。準貴族じゃ…………あ! 準貴族だったら俺の守護者お披露目来てない!


 ってことはあの時点で当主だったんだ。多分学生時代の功績で男爵に上がって、どこかのタイミングでまた叙爵されたんだな。その考えに至らなかった……。

 あれ、子爵って領地ないっけ。男爵は名前だけって家もあるけど子爵以上は原則領地を持つはず。じゃあ子爵のカリウ先生は何でうちの領にいるんだ? 一代限りの子爵位とかかな。そんな気がしてきた。


 あ、もう一個ある。こっちが本当のホルスター子爵家かな。代替わりは……あ、してるっぽい。新当主の名前が載ってる。



 クラン・ホルスター……。お兄様とかだな、多分。隣の名前は子爵夫人か。コンレーナ・ホルスター。この人の実家は確か、ホルスター家と同じ子爵家だった。歴史はホルスター家よりちょっと浅いくらいだったはず。


 他の家も結構代替わりしているらしく、この国の貴族は成人である十六歳から二十歳までの間で代替わりが行われるらしい。偶に、次期当主が三十代になってから代替わりする家もあるけど。上位貴族は遅くても大体二十代のうちに代替わりする。レオンの即位予定も二十歳だったっけ。あと五年だ。


 成人十六歳って結構若いよな。フェリーチェが驚いてた。フェリーチェは、昔住んでいた国は二十歳が成人で、二十歳を過ぎても学生という人も多いようなとこだったって言ってた。お酒も二十からだって。



 サージスは学園卒業の年齢である十六歳から飲酒が許可される。でも、フェリーチェの国では体がまだ完全に出来上がっていない状態での飲酒は違法だって。二十歳から許可されるらしい。文化って世界が違うとこんなに大きく変わるんだって改めて思った。


 一応ペリペドットでは独自で成人年齢を十八歳ってしてるけど、二人の感覚からするとそれも早いみたいだし。問題にされないってことは、二人のいた世界とは人間の身体構造が違うのかも。







「……様。ハル様」

「ん……」

「発表は本日の午後五時からとなっております」


 数日、仕事をしながらも名簿を見て楽しんでいたらあっという間にお発表当日。メアに起こされ、朝イチで入浴。朝ご飯は「パーティーで軽食が出ますので」とか言われてあんまり食べさせてもらえなかった。


 髪のセットとか化粧とか、ここまでゴリゴリにされるの久々だな。


 夜の五時から始まる発表だが、俺は最低でも二時間は前に着いていた方が良いらしい。パーティー用の門じゃなくて、関係者専用の小門から入る。

 会場には最初からいるのではなく、合図があってからそれぞれの婚約者と一緒に入ることになっていた。間違えないようにしないと。

 指定された部屋に行くと、既に一人は来ていた。女性だから、レオンの婚約者なのかな。俺と目があった彼女は立ち上がり、綺麗なカーテシーをした。


「お初にお目にかかります。ハル・ペリペドット大徳様とお見受けいたします。レオン・サージス王太子殿下の婚約者、アンリエット侯爵家長女のメイス・アンリエットと申します」

「ご丁寧にありがとうございます、メイス・アンリエット様。シルヴィ・サージス王女殿下の婚約者、ハル・ペリペドット大徳です」


 自己紹介からは和やかな雰囲気が続いた。俺の出した条件を知っていたようで、シルヴィがそれに当てはまることに驚いていたようだが、属性授業の時にあった出来事を思い出して納得していた。


 俺と同い年だが、属性もクラスも級も違ったので存在以外は何も知らなかった。話してみて思ったことは一つ。流石レオンの婚約者。基本しっかり者だが、ノるときは全力でノってくる。



 お淑やかな女性ではレオンの相手は無理だろうと思っていたから少し安心。玉座に縛られてストレスフルになったとしても多少の解消が見込める。


「失礼するよ。メイス、そろそろじゅ……ハル? 何で、ここに……?」

「お兄様、ハルは私の婚約者ですわ。この場にいないのは大問題です!」

「え、えっ、えぇ……?」


 困惑に困惑を重ねたような表情のレオン。当日まで黙っていたのか……。逆に凄いな。一切勘付かれずに今日まで来るって。



「お久しぶりでございます、レオン・サージス王太子殿下」

 恭しく頭を下げた。レオンに頭を下げるのはいつぶりだろうか。

「ハル、ハル、ハル……。そ、そういうのいいから」

 身長に似合わず手をパタパタさせるレオン。

「冗談。緊張は解けたか?」

「ああ、少しな」



 側から見てもガチガチ気味だったから、それに比べれば今はまだ肩の力が抜けてるっぽいな。

「じゃあ改めて。メイス、そろそろ待機室に移ろう」

「はい、レオン様」


 なんだかんだ幸せそうだな。要所要所でぎこちなさが出ていたりするが、そのうち慣れるはずだ。レオンが良い人に巡り会えて良かった。



「じゃあ、シルヴィも」

「ええ、行きましょう」

 手を取ってみて気付いた。身長、少しだけど抜かれてる。やっぱり駄目だったかぁ……。 


 これ以上開きませんように。フェリーチェ程は要らない。せめて、せめてルイ先生くらいの身長をどうか。



「ハル、どうかしたの?」

「いや、何でもない。行こうか」

 待機室では衣装や化粧、髪の最終調整をした。メアが気合い入れてくれてたからほとんど崩れてないけど、「念のためです」という無言の圧に負けて、されるがままに。


 そろそろ発表だ。最初にレオンとメイスさん(土下座の勢いで様呼びやめてと懇願された)が入場し、扉は閉める。その少し後にもう一度扉を開けて、俺とシルヴィが入場。みたいな感じになるらしい。

 レオン達の名前を呼ぶ声が遠くに聞こえる。

「ハル、緊張してるわね。お兄様以上に」


 シルヴィはそう笑って、俺の両手を包み込むように握った。そう。俺も人のこと言えないくらい緊張してる。だって婚約って人生で初めてだし、平民だったらこんな大規模なパーティーしないし、とにかく緊張しない要素が一つもない。


「バレたか?」

「これだけ震えていたら」

「かっこ悪いな」

「私も緊張しているから、おあいこよ」


 悪戯っぽいシルヴィに思わず口角が上がる。後ろの方から小さく「ハル様って笑うんだ」という失礼な言葉が飛んできたが、今日は多めに見てやろう。肩の力を抜かせてくれたシルヴィに免じて。



「シルヴィ・サージス王女殿下! ハル・ペリペドット大徳様! ご入場!」

 よし、行こう。目を合わせ、シルヴィの手を強く握り直した。

 俺の顔を見た参加者が唖然としている。


「まさか……」

「シルヴィ王女殿下が……?」

「信じられない……」

 小声で話す貴族達。そういうのは心の内に留めておけ、と思う。貴方達は家の代表でしょうが。シルヴィの不興を買ったら破滅するぞ?





「皆の者。知っての通り私の息子、レオンと娘、シルヴィの婚約者が決まった。レオンの婚約者はアンリエット侯爵家のメイス・アンリエット嬢。シルヴィの婚約者はハル・ペリペドット大徳となる。彼らは必ずやこの国の発展に貢献してくれるだろう」


 そこから、一人ずつ挨拶する。トップバッターはレオン。トリはシルヴィ。



「皆。私は未来の妻、メイス嬢と共にこの国を更に良くしていくことをここに誓おう。若輩者で、不慣れなこともあるが、これだけは約束しよう」

 自分の今の弱さを認めた上で、レオンは力強く宣言した。参加者達はその演説に感動しているようだ。次はメイスさん。


「この度、レオン王太子殿下の婚約者となりました、メイス・アンリエットと申します。夫となるレオン殿下を支え、その存在を……歴史書に大きく載せます」

 少し溜めた後の、びっくり発言。多分、歴史書に大々的に載るくらいの賢王にします、ってことだと思うけど……ワード選びが斬新すぎる。


 隣のレオンが目を丸くしている。練習の時はもう少しお淑やかだったんかな。これには参加者も思わず苦笑い。ただ、メイスさんは常に学年トップクラスの成績だったから普段は信頼できる人物であるとは思う。

 そしてついに、俺の番になった。


「先日は怪文書でお騒がせしてしまい、申し訳ございません。この度シルヴィ王女殿下と婚約を結びましたハル・ペリペドット大徳です。レオン王太子殿下のいち臣下として、未来の妻と共に支えていく所存でございます」

 自分の婚約者を王女殿下呼びするのはどうなんだろうか、と思うが公共の場ではこうするのが多分正解。


 最後はシルヴィだ。

「私は先日の怪文書といい、一ヶ月海底引き篭もり事件といい、少し変わった大徳様のお手伝いをしながら兄を支え、歴史書だけではなく娯楽作品のテーマにもしてみせます。それから、今日のパーティーで出る料理は全て私(とお兄様)が作らせてもらったから、残さず食べて頂戴?」



 圧よ……。そして、公共の場で俺の行動を暴露しないでほしい。

 娯楽作品のテーマか……。随分デカく出たな。


 でも、メイスさんとシルヴィが宣言した以上は舞台化でも小説化でも歴史書にでも何にでもなるだろう。レオンの頭から湯気が出ているから羞恥はありつつも、満更でもないみたいだ。



「次代はこの四人を中心にこの国を良くしていってほしい。それでは――」

「お待ち下さい!」

 この雰囲気で異議申し立てができるなんて、凄い度胸。パーティーでは見たことがないから新興貴族かな。



「なんだ。私の話を遮ってまですることか?」

「初めから大徳は王女殿下と婚姻を結ぶ予定だったとしか思えませぬ! あんな……不可能な条件を突きつけるなんて、世の令嬢達を愚弄していると「黙りなさい」」

 声を上げたのはシルヴィだった。


「私はあの条件はクリアしたわ。どうしてもハルのお嫁さんになりたかったから努力したの。魔物の解体も、ハルばかりに任せられないって教えを乞うた。無詠唱魔法も、火属性の学園生徒が証人よ。先程も言った通り、料理もできる。ハルくらいなら持ち上げられるわ。ほら」


「おわっ……!」

 自分とそう変わらない体格のシルヴィが俺を横抱きにした。これは……俺がやりたかった! 横抱きデビューがされる側なんて嫌だ!



「なっ……!」

「信じられない……あんなに軽々…………」

「かっこいいわ…………」


 これでシルヴィに恋した女性もいるみたいだ。とにかく降りたい。何とか脱走を試みるが、転移以外で逃げられるなんて甘い話ではない。意外と力強い……!



「これでわかったかしら? 私はあの怪文書を読んで立候補したの。世の令嬢? 私と同じような女の子は他にもいるわよ。一括りにしないことね」

 シルヴィの女性騎士のことだな。体術なんかを学んだらしい。


 あ、漸く降ろしてもらえた。憐れみの視線がグッサグッサと矢のように刺さるが羞恥でそれどころではない。ああ……これから俺は会う人会う人に、横抱き(された)大徳とか言って揶揄われるんだ。シルヴィの無罪を証明するためとはいえ、悲しい……。



「そういうことだ。シルヴィはあの条件を満たした。これ以上のクレームは受け付けない。戻るか帰るか。選ぶことだ」

「も、申し訳ございませんでした……」


 縮こまって元いた場所にすごすごと戻っていくどこかの誰かさん。サーッと人の波が避けていく。社会的に終わったな、あの家は。可哀想に。

 嵐は過ぎ去り、また平和が戻った。挨拶にくる貴族の対応をしながら、シルヴィの料理を全力で堪能した。

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