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六十六話 モデル


「修学旅行ねぇ……」

「どうかな」


「良いんじゃない? 双方交流が活発になるのはボクとしては嬉しいし。こっちからも送って良い?」

「良いよ。ただ、時期が被っちゃうから他の学校の人達と一緒になるかも」

「別に良いよ。時間はずらすように言っておく」

「わかった。料金についてはこれ見て考えて」



 俺は無限鞄に入れていた企画書の写しをオブシディアンに渡した。学習が目当ての旅行なので料金もその分高くつく。しかし、竜ヶ丘からしたらただの旅行だと思うから、回収するのは現地までの馬車代と宿代だけになる。

 ほぼ真似して作った国だから当然類似点は多い。向こうがこちらに学ぶことなどないだろう。服装と建物の若干の違いだけでも楽しんでもらえたら。



「各学校に通達入れてみるよ。国土も広いから多分全部は無理だけど、ペリペドットに近い学校だったらいける」

「ん、楽しみにしてる」

「それじゃあね」


 初対面の時とは似ても似つかないオブシディアンと別れ、帰宅。今度はマリアにモデルの二人目が決まったことを伝える。



「え! シルヴィお姉ちゃんと一緒!? 嬉しい! ありがとうお兄ちゃん!」

「シルヴィの準備ができたら描いてもらおうね」

「うん!」


 五月の中頃に学園は一週間くらいの秋休みを設ける。描いてもらうとしたらその日だな。

 もうコリアのは一部描いてもらってて、色々なアングルからのポスターが出来上がっている。各店舗に置くのに丁度良い立ち方があるからな。鞄とか靴を目立たせたりするのに。



 全員分できたら掲示してもらう予定。一旦掲示したら後は各店舗の自由。誰か別の人のに張り替えても良いし、面倒ならずっと貼りっぱなしでも良い。ただし、新しくするなら自腹で。



「楽しみだね! マリアちゃん!」

「うん!」


 約束の日。朝から上機嫌なマリアとシルヴィ。そして、小学生の制服が似合いすぎて悲しくなる俺。こればかりはメアもエステルも何も言えないよう。否定してくれる日は果たして来るのだろうか。小さい革靴に足を入れ、少しだけよれた裾をパンパンと叩いた。



「本日はよろしくお願いいたします」


 俺達を描いてくれる肖像画家と挨拶をしていざ、マネキンタイム。もうコリアは制服を着用済みなので運動着の時に呼ぶ。椅子に座らされたり、鞄が目立つように振り向かされたり、全体像がわかるようにポーズを取らされたり。とにかく疲労。


 俺の担当は、寸分の狂いすら許さない完璧主義の肖像画家。体幹と足がしっかりしていなかったら、フラフラしてしまい、口数の少ない彼に容赦なく引っ叩かれていただろう。



 逆に、マリア達の担当はおっとりとした女性で、二人を褒めちぎりながら描いていた。終始楽しそうな女性組と、終始ピリピリとした緊張が走る男性組。ここまで違うのか。方向性の違いってやつだ。


 女性組が軽食を摂っている間も、俺は同じポーズを取り続けた。ああ……明日は運動着か……。大丈夫だろうか。

 パンパンになった足は夜、治癒魔法をかけたら元通りになった。


 翌日、相変わらずな俺と運動着が霞む美貌を持ち合わせたコリア。二人一緒に描いてもらうことになっていたから覚悟はしていたが……ヘルガさんよりも身長が高くて筋肉量もあるので横に並ぶと威圧感がすごい。



 双子で、顔が似ているからと言って瓜二つなわけではない。コリアの方が背が高く、目鼻立ちもハッキリしている。


 意識して威圧するヘルガさんと、意識せずとも威圧感を放つコリア。

 まあ、似たようなものかな。ダークな方のヘルガさんと思えば。



「ハル様は、お似合いですね」

 休憩時間になり、疲れた足を揉みほぐしていると、コリアにそんなことを言われた。似合っているとは、どういうことか。


「あ、えっと悪い意味ではなく……。この運動着はペリペドット領ではお世辞にもお洒落とは言えないですが、そんな服でも着こなしてしまうのは凄いですね、という意味です」



 無意識のうちに眉間に皺を寄せてしまっていたらしい。コリアは慌てて弁明した。まあ、身長の割に手足は長いからダサく見えないってのはあるな。



「別に弁明しなくたって良いよ。それより、制服の絵を見せてもらったけど、コリアこそよく似合ってるな」

「そう言っていただけて嬉しいです。ああいった服は今まで一度も着たことがなかったのですが、凄くかっこ良いですね。自然と背筋が伸びました」


 あ、結構可愛いかも。ふにゃっと笑った顔がヘルガさんによく似ていて、威圧感もなくなった。


 初めからこんな性格だったら転落せずにすんだのに、と思ったりもするが、転落があってこその性格なんだろうな。



「ハル様? どうかなさいましたか?」

「いや、笑顔は可愛いなって思っただけだ」

「笑顔はって何ですか!? 俺、そんなにキツい顔立ちですか!?」


「自分より身長が高い人に見下ろされたらわかるよ」

「自分より……あっ……!」



 察したみたいだ。ただ、ここで謝ると俺の低身長を全面的に肯定することになるのでそれ以上は何も言わないでくれた。それで良いのだ。


 後半は、休憩中の会話のお陰かそこまで疲れは感じなかった。序盤に比べてコリアの表情筋もかなり解れてきたようだ。肖像画家が真顔でグッドサインを出しているから、彼もコリアの柔らかい表情を期待していたのだろう。




「ありがとうございました」

 夜、肖像画家を無事に宿に送り届け、漸く肩に入っていた力を抜いた。自分で思っていたよりも緊張していたようだ。


 休憩所であの水を飲むと、疲れは一気に吹き飛んだ。今日は眠れなさそうだ。その日は、小説家ペリーの書いた本を読んで夜を明かした。


「ハル様。教育課からです」

 夜通し読書をしていた俺は、王都からの呼び出しで現実世界に引き戻された。もう少しだけ小説の世界に浸っていたかった、と言うことは許されない。渋々出向き、課長室の扉をノックする。



「義務教育の延長の件ですが、来年度から施行することになりました。中学生三年生も、来年度は少人数ではありますが修学旅行に行くことが決定いたしました」

 人数の内訳表を貰う。

「承知しました。では、こちらからは納金期限についてと、修学旅行に最適な時期について」


 

 俺の手元に何枚かある資料を捲ると、月毎の気温と降水量が記載されている紙がある。気候については機密情報になり得るので気候を元に作成した資料を見せる。


「ペリペドットは雪が多いことで有名な地域ですので冬はお勧めしません。かといって夏も、気温が上がりますのでお勧めはできません。そこでこちらから提案させていただくのは五月になります。春頃でも良いですが、まだ新しい学年に慣れていない時期と思いますので。五月ですと、納金は最低でも夏季休暇までには行っていただきたいです。三月頃が望ましいですがどうでしょうか。申請していただければ特例として延長は認めますが、原則は設けたい所存です」


「実施は五月。被りには注意はしますが、校舎数も多いのでどこかで被ってしまう可能性があります。一月にしてしまって受け入れ可能人数に問題はありませんか?」



「はい。これ以外の月ですと、満足に楽しめない可能性が高いので。それと、被っても学校通しの交流の場として機能しますので寧ろ何校かは被っていた方が生徒のためかと」

「そうでしたか。では、被り過ぎには注意しつつ、日程を決めさせていただきます。納金は原則三月で問題はございません。滞納手続きは各学校でしていただき、そこから教育課の方に提出、私からペリペドット教育委員会の方に提出という形でどうでしょう」


「それで構いません。教育委員会にも話をしておきます」

「では、よろしくお願いします」



 よし、話つけたら続き読もう。音声読み上げとかあったら嬉しいんだけどな。ま、忙しくなるし、これはまた後でで良いか。

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