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六十五話 学生服新調


 結婚相手になる条件を提示して数日。山のように届いていた釣書がピタリと止んだ。流石に駄目だったみたい。



 まあそうだよな。パーティーとかお茶会のために散財するのが仕事、みたいな人達がいきなり魔物捌けとか重い荷物持ち運べ、とか言われても無理ってわけだ。無詠唱も俺にとっては普通だけど常識的に考えたら不可能だし。


 仮にそれらができたとしても、この国の結婚に幸せな生活を求める女性は多い。勿論貴族であれば政治的な観点から決めることもあるだろうが、大半は愛し合い、幸せな結婚生活を送ることを夢見る。

 俺が「愛しません」と言ったらまあ辞退するわな。




 よし、じゃあ領地開発再開しよう。

「ハル様。王宮からの呼び出しです」

「し、城から……」

「はい。例のものについてかと」

「……すぐに行くよ」


 何だろ。あのふざけた条件を撤回しろ、とかせめて緩めろ、とかかな。





「ハルです」

「ああ、入ってくれ」

 案内され、ライゼン様の執務室に入ると、そこにはシルヴィとセリア様もいた。


「えっと……。何のご用でしょう……?」

「わかりきったことを。これについてだ」

 俺に突き出されたのはやはり、あの条件用紙。

「これはですね……」

「この条件にシルヴィが合致していると本人に主張されたのだ」



「………………はい?」

 言い訳の体制に入っていた俺はその言葉に短く声を漏らした。

 無詠唱? 二十キロ? どれだ?



「この紙を見た瞬間、マリアちゃんの義姉は私で決まり! って思ったのよ。最近学園の授業で無詠唱も習得したわ。マリアちゃんの体重くらいなら持ち上げられるし、料理もできる。そして何より私は、ハルのことを友達以上の目で見ていない。どうかしら? 私は、マリアちゃんの次にハルと仲の良い女の子だって自負してるわ」

 マジか……。目当てがマリアなんて。愛が凄いな。



「じゃあ、もし披露目パーティーが開かれた時、指定された肉体労働全てを実践できるか?」

「魔物の解体と、無詠唱、荷物に関しては学園の教師が証人よ。パーティーの料理を私が作ればそれもクリアね」


「成立で」

 俺とシルヴィはガッチリと握手をした。

「二人はそれで良いのか……」

「はい。俺も気心の知れた女性であれば安心ですし、シルヴィならマリアを誰よりも愛してくれるでしょう」


「私もマリアちゃんとずっと一緒にいられて、婚約者選びからも逃げられて、好きなことを好きなだけできる環境に行けるなんて……! 最高ですわ!」

「ハル君に出会うまでシルヴィがこんな行動的な子だとは思っていなかったわ。レオンの即位を見届けたら私達も別荘を建てて移住してみようかしら」



 どんどん話が進んでいくな。レオンの意見はどうなんだろう。この部屋にはいないみたいだからサークルか、キッチンか、自習か。



「ハル、今のうちに私の部屋も作っておいてね! 卒業して、お披露目したらすぐ引っ越せるように!」

「あと家具置くだけだし、家具は自分で選ぶか? 俺が選んでも良いならマリアと一緒に選びに行くけど」

「マリアちゃんが選んでくれるの! 是非お願いするわ!」


 目をキラキラさせて俺の手を握るシルヴィ。キラキラポイントがマリアにあるのはありがたい。俺が家を空けてもマリアがいる限りはフラフラどっか行ったりしないってことだ。


「お披露目は、学園の卒業式から一週間後としよう。レオンの婚約者もそこで紹介する」


 紹介? てことは既にいるんか。

 誰だろう。女友達が少ないから俺の知ってる人でないことはわかるんだけど……。気になる……。

 そして、王太子の婚約発表と俺の婚約発表を同じ空間でして良いものなのだろうか。ま、いっか。決めるのは俺じゃないし。気楽に。



「わかりました。今日はもうお暇ということでよろしいですか?」

「ああ。何かしていたのか?」

「教育課の方から打診のあった修学旅行計画について少し話を進めていて。今は過去の気候についての資料をもとに、いつ頃が一番楽しめるかを(委員会が)協議しているところです」

「それならこちらでも協議が終わっている。次いつ会えるかわからない。今のうちに話しておこう」


 俺は珍獣か何かなのか……? 牡蠣の養殖と生育調査はもう漁師に一任してるから、そんな何ヶ月も留守にしたりしないと思うんだけど……。まあ、出るか。




 俺が聞かされたのは教育期間の延長。具体的には十歳以上というフワッとした基準から、特別な理由がない限り十五歳で卒業、ということになった。


 それと、学校を分けるそうだ。教育期間延長に伴い、生徒数が増えるのでフェリーチェが小学校、中学校という制度を引っ張ってきた。六歳から十二歳までの六年間は小学生、十二歳から十五歳までの三年間が中学生ということになった。


 小学生は六年生でペリペドットとは別の領地に修学旅行に行き、中学生は三年生でうちに来ることになったらしい。十五歳なら良いか。適正年齢は十二歳から十五だし。



 制服も若干変わるらしい。

 スカーフの色を小学生は赤、中学生は白にして、セーラー服の色も小学生は白、中学生は紺色にしたそう。



 俺のところはスカーフは一律で緑、セーラー服は白だった。領地カラー。専門学校は特に制服作ってないので私服通学。それか学校が指定した制服か。


 あまり景観には合っていないが学生であることがわかれば良いのでそこまで気にしていない。うちでは制服着てたら学生料金で色々買えるし。



「では、ハル君のところは分けないのか?」

「今の方法でも回せていますが、男子の成長に合わせて制服を新調することになるので、それなら分た方が良いかな、とも思っています」


 あと少しだし……で無理矢理着てほしくない。それに、職人がめっちゃくちゃ可愛い制服を考えてくれたからそれも採用したい。というので近いうちに校舎は建てる。



「あ、制服はセーラーじゃないのですが、知り合いの職人が考えてくれたデザインがあります。今出せますが、見ますか?」

「ああ、気になる」

「私も!」

「私も少し」


 俺は無限鞄からデザイン画を出した。




「な、何だ、これは……」

 デザイン画を持つ手紙震えているライゼン様に、言葉を失うセリア様。そしてキラッキラの瞳で見つめてくるシルヴィ。マリアが着るのを期待してるんだろう。安心してほしい。マリアには見本絵として制服屋の正面を飾ってもらう。


 小学生男子のデザインは、夏は七部丈の学ラン風。下は外に広がるようなズボン。学ランは、メビウス神とフェリーチェが前世で着ていた制服らしい。かっこ良かったので取り入れた。

 で、冬はズボンはそのままに、上は防寒で学ラン風パーカー。試作品を見せてもらったけど、めちゃかわ。



 小学生女子は学ランと着物を合わせたようなデザイン。夏は男子と同じ。冬は上は学ラン、袖は着物、下半分はプリーツスカート。これも可愛い。


 中学生男子は、学ランとブレザーと着物を混ぜたような。太ももくらいまでの長めの学ランと袖が着物のように広がるブレザーが一つに纏まっていて、腰の辺りをベルトで締める。下は足にピッタリ沿うズボンとブーツ。夏は小学生とあまり変わらない。


 中学生女子は詰襟と外に広がるスカート。上半身は黒の詰襟に、ボタン代わりの金色の紐。下半身は緑色のスカート。袖は下に行くにつれて外に少し広がり、生地は手首辺りが緑色の生地になる。それに長めのブーツと黒のタイツが合わさる。夏は白のワイシャツに袴風の緑のプリーツスカート。足首辺りまである長めのやつだ。




 小学生男子用のモデルは身長の問題で俺、中学生の方はコリアが担当。小学生女子用のモデルはマリア、中学生用は未定だ。


「シルヴィ」

「はい!」

「中学生用の制服のモデル、やりたいか? 小学生用はマリアがやるんだけ「やりたい!」」


 最後まで言わせい。ま、これでモデル問題は解決だな。

「これは、相当な費用がかかるんじゃないか?」


「いえ、セーラー服作るより安く作れます。こういうタイプの方が作り慣れているらしいので。学ランもオブシディアン経由で広まって、竜ヶ丘ではファッションとして親しまれているものですので技術を持っている人はいます。費用も税金で賄うので問題ありません。ペリペドットは納税額が高いことでも有名ですよね?」



 ヘルガさんが言ってた。給料と税金、共にサージスのどこよりも高いらしいって。


「ああ。内訳を公表しているのと、平均給料が高いから暴動が起きないのだ、とイーサンも言っていたな」

「その中に教育に関する項目があります。納められた税金を使って教科書や制服、校舎の維持などを行っています。納税額は変わらず、制服のクオリティは上がる予定です」


「う、羨ましいな」

「正直学園の制服よりも複雑な作りなので、平民にだけこれを導入すると学園で不満が漏れそうですね」



 ちゃんと一流の職人が最高級品の布を使って丁寧に仕上げてくれているんだろうけど、シンプルなスーツにワンポイントの入ったネクタイがうちのクオリティの制服と並ぶとどうしても見劣りしてしまう。貴族の子供の大半が着る制服が。


 俺だって学園でこれ着たかった。かといって全国に導入すると、既存の服飾師が職にありつけなくなる。身内だけのファッションってことで。



「因みに運動着もあります」

 激しい運動にあの制服は見合わない。ということで職人達が作ってくれた。夏は半袖短パン。冬は黒とビビットな緑を基調としたセットアップジャージ。中学生は緑ではなく、ビビットの桃色(ヘルガさんの色)が入っている。


 フェリーチェの世界ってほんと何でもあるな。俺が学園で使っていた実習着はフェリーチェ曰く、『ちょっとお洒落な農作業コーデ』らしい。


「こ、これ! これをマリアちゃんが着てくれるの!?」

「シルヴィもビビットピンク着るんだからな。ツーショットで制服屋に飾ってもらうよ」



 制服屋は運動靴・ブーツ専門、制服専門、運動着専門、通学鞄専門の四種類がある。それが小学生と中学生で分かれている。急遽指示したけど今のところ雇用が増えただけなので反発はされていない。



「早く着たいわ!」

「採寸したら細かいところ直して、三日くらいですぐ着れる。鞄と靴はサンプル使ってもらうことになるけど作った制服はあげる」

「〜〜〜〜〜!」


 声にならない喜びを上げるシルヴィ。これはかなり興奮してるな。

 三人共あまりの衝撃に、まともな会話が不可能になったので俺はここら辺で帰ることにした。



「ただいま〜」

「おかえりなさいませ。早速ですが、委員会の方から連絡を預かっております」

「えっと……教育委員会ね。行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

 内容は……ほう。新たな委員会の設立についてか。


 服飾系は今まで観光委員会に投げていたけど修学旅行が実現するとパンクする可能性がある。そこで新たに公共服飾委員会を立ち上げたい、と。


 職人の作業着とか制服に関する情報交換、それと必要に応じた補助金申請がメイン。確かにこのままだと観光委員会の負担が大きいからな。許可は出す方向でいこう。



「ハル様! 来てくださったのですね!」

「ああ、公共服飾委員会の設立は承認だ。服屋のリストは観光委員会が持っているから仕事の引き継ぎは任せたぞ」

「はい! ありがとうございます!」


 よし、じゃあオブシディアンの所に行こう。修学旅行について話したい。


 俺は転移で竜ヶ丘に用意された俺用の家に向かった。水回りとキッチン、ベッドと棚を置いたらパンパンになる広さだが、転移用の家なのでこれくらいが丁度良い。



「おにーちゃーん」

「ハル! いらっしゃい!」

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