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六十一話 神


 話し合いはトップに任せて、俺達は各地域にクラスター終了の報せを出しに行った。俺の放った神力で襲撃中の魔物が全て蒸発したらしい。

 警戒を怠らなければ緊急避難指示を解除しても良いだろうという判断だ。



 避難所から出てすぐ、踏み荒らされた領地を見ることになるわけだから傷痕は残ると思う。でも人がいる分、十三年前のクラスターよりは希望があるはずだ。


 避難所の扉を開け、中に入ると必ずと言って良いほど高確率で悲鳴をあげられる。いきなり開けられたら驚くのは当たり前だが、俺の顔を見てから悲鳴をあげる人もいた。これに関しては俺が悪いわけじゃないから若干不服。



 貴族も平民も同じ避難所にいるから、邪神派の死因ってこれなんじゃないかって思う。平民と同じ空間にはいたくない。そんなことをするくらいなら……的な感じで。


「守護者様、我々の命を救ってくださり誠にありがとうございます。避難所がなければ私達は今頃死んでいたでしょう」

「いえいえ、お役に立てたようで嬉しいです。まだ、お互い復興作業がありますのでそちらでも助け合っていけたらと思います」

「私共にできることでしたら。何なりとお申し付けください」


 こんな感じの会話を全ての領主とした。継続的な復興支援は竜ヶ丘からあるとのことも併せて言うと、泣いて喜んでくれる。魔族の悪いイメージが今回のことで完全に払拭できると良い。



 最後にもう一度自分の領地に戻ったのだが……。俺が確認した領地の中でダントツに酷い。同じ木造の家でもうちと他領とでは雲泥の差。他領が骨組みなら、うちは木屑だ。


 勿論襲撃地であるってことも関係してくるんだろうが、これは酷い。避難指示を解除する前に俺だけで片付けておこう。皆にこれは見せられない。


「ハルさん……」

「ヘルガさん、全部終わったんですか?」

「オブシディアン様がハルさんを優先するように、と後の指示を引き受けてくださって」


「ここはあまり見せたくないので、うちの避難指示解除はもう少し後でも良いですか?」

「えっと……もう、声かけてきたんですけど……」


 ヘルガさんの視線の先には、崩れた建物を見て口を開けている領民達。その中にコリアの姿を見つけたので、ヘルガさんには早急に隠れてもらうことにした。どうやって見つからないように声をかけたのか、不思議。



「皆、すまなかった。今回の襲撃、もっと被害は抑えられたはずだ。俺の責任だから、せめて片付けは全部させてほしい」


 呆然とする領民に対し、俺にできるのは頭を下げて謝罪することだけだった。技術者以外も住み始めた矢先の出来事だったから、被害は甚大だ。領主である俺が責任を取るのは当然のことだ。


 建築は手を借りないといけないにしても、片付けとその他肉体労働はやるべきだ。

 いきなり頭を下げた俺に、混乱して誰も声を発せていない。数秒の沈黙の後、最初に声を上げたのは、意外にもマリアだった。



「そんなことないよ! お兄ちゃんが私達に逃げてって言ってくれたから壊れたの建物だけで済んだんだよ!」


「全くだ。ハルの謝罪は俺達に必要ない」

「そうっすよ! 俺達はハル様がいなかったら今でも底辺だったんすから!」



 マリア、ラッシュに続く領民達が俺の頭を上げさせた。

 責められて当然だと思っていたし、建築様式を見直せと迫られることも覚悟していた。


 全員じゃなくても、そういった意見を持つ人は一定数いるものだと思っていた。でも、どうだろうか。目の前で俺を擁護する発言をするのは建築士だけじゃない。被害に遭った人達全員だ。



「建築は更に完成度を上げるんで、期待していてくださいよ!」

「私達も、もう一度畑を耕します!」

「現物はなくなっても、経験はありますから、いつでもやり直せます!」



「皆……ありがとう」

「当然っす!」


 マリアのお陰で領民の気持ちが聞けた。俺は抱きついてくるマリアに、頭を撫でて応えた。




「それで、カントリーハウスは一番最後にしてもらいたいんだけど、良いか?」


「「え!?」」

「いや、タウンハウス見てきたけどそこまで壊れてなかったし、暫くはそっちに住もうと思うんだ」


 皆はこっちにしか家がないから。

「それはやめた方が……」

 皆と一緒に避難所にいたルイ先生が遠慮がちに言った。


「どうしてですか?」

「周りからの印象が良くないからです」

 カリウ先生まで出てきた。


「領主の屋敷を直す前に平民の家を直すなんて。世の貴族はそう思いますよ」

「じゃあ言い方を変えます」

 お願いだからいけないんだ。こういう時にこの地位を使えば良い。



「領民は自分の生活を第一に考えること。領主の屋敷はある程度復興が進むまで手をつけないこと。これはお願いじゃない。命令だ。……わかった?」


 ゴクリと喉を鳴らした建築士達はコクコクと首を縦に振った。あ、周りから何言われても良いように報告書を提出しよう。


 多分各領地の復興作業について報告書を作ることになると思うから。領主の屋敷は二の次以下にすることを、大徳自らが命じたって書けば良いでしょ。



 今日、優先して復旧させるのは何にするかの話し合いでは、治療院と学校ということになった。明日以降に浴場を整える。できれば土台は今日といった感じだ。


 建築士率が高いから浴場と住居もすぐに直されるだろう。で、食料確保のためにも漁港は早めに。あとは、弁当屋もなるべく早く復旧させたい。

 それまでは学校の昼食配給と一般職の弁当は俺の魔物肉とオブシディアンからの支援頼みになるかな。


 とりあえず俺も、片付けに加わろう。この木屑は燃料とか庭の床材にすらならないから処分、木片はまだ燃料になるから、仮で作った薪置き場に。


 竜ヶ丘から輸入していた瓦は一旦場所ごとに分けて仮倉庫に移動させておく。まだまだ屋根は使わないからな。今の屋根は俺が張った結界だ。領地全体に張って作業してもらってる。

 屋根がないと寒くはあるけど家ができるまでは避難所生活だろうから問題ない。学校も、優先順位は高いけどずっといるわけではないし屋根は丁寧に仕上げてくれたら良い。


 というか、何で瓦の建物が崩壊したんだろう。どういう力のかけ方したらあそこまでペシャンコになるんだ? 瓦は丈夫だってオブシディアンから聞いてたんだけど。意図的に壊すほど頭が良いわけでもなさそうだし……疑問だ。

 もしかして、俺が壊したんだろうか。神力で。だとしたら災害もいいとこだ。神が復活したら聞くしかない。




 神……どこ行ったんだろ。こっちが話しかけなくても勝手に喋るような性格だから、自分の意思で無視したわけじゃないよな。


 だとしたら何者かが拘束してる可能性が高いけど、神を拘束できるのって神しかいないと思う。俺の知ってる神ってメビウス神とラフィーナ神しかいない。


 この二人が何かしらのアクションを起こしたなら、メビウス神が濃厚。あの神を拘束したところでラフィーナ神には何のメリットもない。お茶の時間がちょっと長くなるくらい。

 最悪強硬手段に出ることも覚悟で、メビウス神に話を聞きに行こう。







「拘束はしてない」

 メビウス神は開口一番、そんなことを言った。まだ俺何も聞いてないんだけど……。


「じゃあ何したんだ」

 質問内容がわかってるなら話が早い。さっさと吐かせよう。

「ラフィーナ神の名前で茶会の誘いを出しただけだ」


「じゃあ、今頃あの神は、事情を知らないラフィーナ神と呑気にお茶会を楽しんでいる、と? 手紙を出した以外は何もやっていない、と?」


 コクンと頷くメビウス神。

「あっそう。なら、こっちから干渉するまでだ」


 まだ一度もやったことはないけど、神界に殴り込みに行く。フェリーチェが俺の体を借りた時から、俺にはフェリーチェの記憶がある。


 流石、恋人に一途だった男。女性関係の記憶は一切ない。

 フェリーチェはヴィーネ神の信仰がまだ強かった頃に産まれたため、初めから神界に干渉できるだけの神力を有していたそうだ。行き方なんかも知っていた。俺はメビウス神から神力を根こそぎ奪ったから、当時のフェリーチェと同程度以上の神力がある。



 行き方は簡単、教会で神力を放出しながら祈る。それだけだ。

 転移で王都の教会に行き、祈りを捧げる。神力を放出すると、俺の指に着けていた指輪の締め付けが強くなった。結構痛い。指切れそう。擦り傷とかじゃなくて、切断されそうって意味で。


『神、もう二度と相手にしてやらないぞ』


 ブォンッ

 行った。行けた。無限牢獄の白版って感じ。無限牢獄は真っ暗な世界だが、神界は真っ白な世界だ。何か、ずっといると頭おかしくなりそうな空間だな。性格に悪影響出そう。



 少し歩くと扉が現れた。ご丁寧に、『ラフィーナん家』と書かれてある札がかかっている。


 コンコンコン

 ノックをしても返事は返ってこない。


 コンコンコン

 やっぱり返ってこない。


 ダンダンダン! ダンダンダンダンダン!

 今度は強めに叩いた。



『はい、はーい』

 良かった、聞こえたみたい。


 ガチャリと扉を開けたのは、黒髪を三つ編みにして一つに束ねた女性。この人がラフィーナ神、かな? 俺は迷わず膝をついた。



「ラフィーナ様とお見受けいたします。ハル・ペリペドットと申します。ヴィーネ様の治められる世界の一国にて、魔物の襲撃、邪神の復活という二つの事件が発生いたしました。誠に勝手ではございますが、ヴィーネ様のお早いご帰還を希望いたします」


『え!? 魔物!? ちょ、ヴィーネ! どういうことなのよ! あなたの世界からお客さんが来ちゃったわよ!』

『え! ハルが来ちゃったの!?』


 来ちゃったとは何だ来ちゃったとは。まるで俺に会いたくなかったみたいじゃないか。

 俺は立ち上がり、仁王立ちで神を出迎えた。


「随分と楽しそうだな。何で八年前に消えたはずの邪神が生きてたんだ?」

『え、えっと……それは……』


「こっちが大混乱になってる中で邪神の罠に引っかかったんだって? お茶会、随分と楽しそうだったな」



『…………ごめんなさい』


 そうして俺は、神をラフィーナ神宅から連れ出すことに成功した。項垂れていて、何の抵抗もされなかったのでとても楽だった。


「ラフィーナ様。突然の訪問、そしてお騒がせしましたこと深くお詫び申し上げます。それでは、これにて失礼いたします」

『こ、こちらこそごめんなさい……』


 サージスの教会に神が戻ってきた。その証として全ての女神像は光り輝いた。目を開けていられないほどの光が数分間、国内全域に流出したことで、国民の復興への意欲は高まったそう。



 邪神について触れられたが、既に力を無くしているため、神ですらないことを伝えておく。神以外を裁くことはできない。邪神にはこれから一生、無限牢獄で料理してもらう。俺と神だけじゃ不可能だった料理も、フェリーチェのお墨付きを貰っている邪神なら作れるはずだ。


 手紙に書いてあったから、できないとは言わせない。俺のために働いてもらおうか。

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