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六十話 廃墟での話し合い


 報告のために俺とヘルガさん、人形にされた邪神は城に転移した。


「酷い……」

「はい」


 シャンデリアや装飾品はことごとく床に落下して砕け散っているし、廊下の肖像画も額から外れてビリビリに引き裂かれている。ここにも魔物が来ていたのか。



 ただ……来ていた証拠がある割に何の気配もない。魔物の気配も、人の気配も。


 皆、どこに行ったんだろう。避難したにしても、静まり返り方が異常。こんなの、まるで廃墟だ。


 戦意を糧にして神力を手に入れるわけだから、今やれば人がいるかいないかはわかるかも。そう思ったが、何度試してもできなかった。



「あの……」

「はい、どうしましたか?」

「皆気絶しているんじゃ……?」

「気絶?」


 一人二人ならまだあるかもしれないけど、皆って流石になくない?


「あの神力でやられたんじゃないかって。眩しすぎる光は毒になり得るので。それに、邪神を無力化するくらい大きな力には意識がもたないんじゃないかなって思うんです」

「じゃあ、どこを探しましょう……。片付けでもして待ちますか?」


「確かに、ここの状態は良くないですもんね。瓦礫の処分くらいはしましょうか」


 民家は小さいから片付けはすぐに終わる。でも、城は大きいからな。どうせ見つけても意識がない相手に報告なんぞできるわけがない。暇潰しして待とう。



 無限牢獄の自室から箒やら何やらを引っ張り出し、手分けして掃除を始めた。


 廊下に敷かれていたカーペットは全て剥がされていたからガラス片の片付けがやりやすい。ま、そのカーペットもただの布になってたから結局は捨てなきゃだけど。




「ハル!」


「ん……?」


 今一瞬オブシディアンの声が聞こえたような……。


「ハル!」


「ぶっ……!」


 俺の前方から暴れ馬ならぬ暴れ魔王が。俺はなす術もなくアッサリ捕まってしまった。体温意外と高いなぁ……なんて呑気なことを考えられるわけもない。


 ぶっ飛びすぎている腕力を持つオブシディアンの中から一刻も早く抜け出さなければ。でないと背骨が逝く。

 抗議の意味を持ってバシバシと叩くと解放してくれた。今日は早くて良かった。



「首、大丈夫? こっちに来る途中で一瞬見えて、心配だったんだ」

「平気。ヘルガさんも無事だった」


「ヘルガ……。あの時何かあったのか? ボクには何があったかまではわからないんだ」


 オブシディアンが見ていたなんて全く気づかなかった。それくらい切羽詰まってたんだろうな。



「ハルさん、今人の声が……。オ、オブシディアン様!?」

「丁度良かった。ボク、何でヘルガがハルに牙剥いたのかわからなかったんだ。何があったのか教えてほしいんだけど」



「……はい。わかりました」


 掃除した部屋に入った俺達は、ヘルガさんからあの時のことを聞くことにした。


「体に異変を感じたのは、避難誘導をしていた時です。気のせいだとも思いたかったのですが、何度も意識を失いそうになって、離れないといけないと思って、気づいたら領地に隣接していた森にいました。ハルさんに逃げてと言った所までは僕の意思です」

「じゃあ、あの言葉以降の行動は……?」


「自分でも信じられません。僕がハルさんを害そうとするなんて、考えたこともなかったので」


 あの時のヘルガさんは、体が自分の意思と逆のことをしていたと語った。心は嫌だと思うのに体は俺を攻撃する。うん、地獄だな。


「そういう事情があったんだ。本人の意思じゃなくて良かった」

「僕がハルさんを消すとか、考えられないです」


「だよね。だからびっくりした。でも、凄いねハル。相手は神なのに。どうやって勝ったの?」

「確かに相手は神、俺は神の下位互換。勝てる可能性は低かった。ただ、邪神は俺の最大の弱点を知らなかったから。勝てた理由は邪神の詰めの甘さかな」


「弱点……?」

「声ですよ、ヘルガさん。心当たりはあるでしょう?」


 俺がそう言うと、はっとしたヘルガさん。思い出したようだ。


「……? 声ってどういうこと?」

「俺はヘルガさんの声を耳元で聞くと、戦闘不能なるってこと。顔はヘルガさんだったけど声は別人のだったから、恨みが勝った」

「不幸中の幸いだね」



 苦笑するオブシディアン。

「で、この人形が元凶?」

「そう。フェリーチェの恋人らしいし、これで良いかなって思って」


「随分可愛いサイズ」


 そう言いながらフェリーチェ人形の髪を撫でる。結界のお陰でウィッグは取れないしボディーも黒ずんだりしない。遠慮なく弄くり回してくれて構わない。



「あ、近くでライゼン様達見なかった?」

 そうだ、俺達ライゼン様探してたんだよ。掃除してる間にすっかり忘れてた。


「こっちに来る前に見かけて、ハルなら城にいるよって声かけてきた。そろそろ来るんじゃないかな」




 ドドドドドドドド…………


「ハル君!」


 ライゼン様とは打ち合わせしたレベルで息ぴったりだし、俺の居場所は知ってるしでオブシディアンって怖い。



「ボクは初代時代からの隠れ専属護衛だから」

 こっわ。もう開き直ってるし。でもまあ、探す手間が省けて良かった。


「はい、ライゼン様。皆は無事ですか? 神獣を送り込んだのですが、まだ帰ってきていないので心配で」

 あの子らが簡単にやられるとは思えないが、万が一のこともある。もし二人がやられていたら王都だけでほぼ全滅があり得てくる。


「神獣様は……」

 ライゼン様の視線の先には、爆睡中の神獣達。ソウルにもたれかかるように、スピリットが寝ている。


「無事みたいですね」



 怪我がないか確かめてみると、どちらも神力が弱まっていることに気づいた。神の不在が影響しているのかもしれない。神力不足は睡眠で回復できるということは昔からの経験で知っているが、一応少しだけ譲渡しておこう。


 無限牢獄の寝室に寝かせ、報告に移った。邪神が暴走し、ヘルガさんが被害に遭ったことしか言えないのだが一応建物系の被害報告も。俺が見たところ、人的被害はゼロだったからそれも伝えた。



「人的被害がゼロ……?」

 どういうわけか、驚くオブシディアン。何かあったのだろうか。


「ボクが行ったところは、人的被害あったよ。特に貴族だったと思う。それと、邪神派だったかな……」

「騎士団にも死者は出た。だが、あの光に包まれた後、死者は全員蘇ったのだ。それは民間人にも同じことが言えた」


「ハルさんの力はヴィーネ様の神力と同じですから、邪神信仰派は助からなかった……とか?」

「その可能性は大いにありそうだな」


「調べましょうか」

「ああ、頼む」

「御意」



 影達が死者の身元について調べに退出。その間に俺達は邪神の処分について話し合うことにした。


「神の処遇って人間が決められるものなのか?」

「さあ……。でも、邪神は神界裁判で消えたって判断させてるから神でも難しいかも」


 確か昔そんな感じのこと言ってたよな。一度消えた存在をもう一度消すって難しい気がする。

 こんな時に俺にフェリーチェの記憶があればなぁ、って思うけど、無理だよなぁ……。



「理久」

「「……!」」


 あれ、俺今なんて?


「起きてるんでしょ、理久」


 え、本当に誰? もしかして、フェリーチェ!? 

「和也……」


 突然喋り、動き始めた人形に皆びっくりしている。無理矢理追い出したとしても俺の発言はノイズにしかならない。もう、後は任せて身を委ねよう。


「何であんな大事にしちゃったかなぁ。しかも神様引き摺り下ろすとか、罰当たりだろ?」

「だ、だって……あんなのいなくたって良いじゃん。それに、他にどうすれば良いか、わかんなかったんだもん」


「それに関しては、死んだ俺も悪かったよ。迂闊だった。一人にしてごめんな。寂しかったよな」

「っ……」



 人形が涙を流すのって、結構神秘的に映るんだな。事情知らなかったら怖いかもだけど、千二百年間探し続けた恋人に再会できたっていう前提条件があると。


「えっと……今の王様って誰?」

「私にございます」

「理久を、消さないであげてほしい。俺がいる限りは理久も大人しくしていられるから。それに、元凶は全部、俺だから」

「一ついいですか?」



 ヘルガさんがライゼン様の前に割り込んで手を挙げた。


「あ、ああ」

「邪神を生かしておくのに条件がほしいです。邪神信仰の被害者のためにも」


「何を望む?」

「神力の放棄です。これさえなければ僕でも返り討ちにできます」


「理久」

「わかった。捨てる。こんなのもう要らない。俺には和也以外なにも要らない」



 おお……重めね。

 邪神の神力が俺に流れ込んでくる。結構相性良いんだ、神力だと。それともフェリーチェのおかげかな。


「他には?」

「ハルさんの無限牢獄にいてください。絶対に単独で出さないでください」

「わかった。それは俺に任せるわ。何か依代があれば俺が無限牢獄で見張れるけど……。俺に代わる」



 あ、戻ってきた。人形を持ってこいってことね。六十センチドールってあとこれしかないけどウィッグ変えれば良いか。ちょっとおめかしタイム。


 赤ちゃんサイズの邪神を思い出しながらウィッグとドールアイを選ぶ。服はフェリーチェと同じで良いか。お揃いだとツイン感出るだろうし。


 戻るとまた体を奪われた。

「わっ、和也に似てる。かぁいい……」


 「いただきます」という謎の挨拶と共にフェリーチェが邪神風ドールに入っていった。何なんだ。いただきますって。



「俺の部屋に飾ってきます」


 一言告げてまた無限牢獄へ。この二人用の部屋も作りたい。あっちで寝たくなった時、カップルに見られながら寝るとか絶対熟睡できない。手が空いたらやろう。


「お待たせしました。カップル処理無事終了しました」

「二人は?」


「とりあえず鳥籠出して入れました。案外楽しそうでしたよ」

 牢屋の中でも籠に入れられるなんて、神になってしまったばっかりに。まあ、死人が邪神派以外誰もいないならありがたい。



 生け贄を出すような過激な家の処分をどうしようかって思ってたから手間が省けた。

 貴族が減った分の代替役はきっとライゼン様達国のトップが何とかしてくれる。多分。


 頼まれたら穴を作ることはできるけど、それを埋めるのは頼まれてもどうもできん。

 男爵位を売って治めさせるくらいしか思い浮かばない。滅茶苦茶頑張れば侯爵家になれる……可能性はちょっとだけある気がする。ほんのちょっとだけ。


「今後についてはまた改めて貴族を集めて話をしよう。問題は復興だな」



 それなんだよなぁ。高そうな建物も、物によっては修理とかじゃ済まないし、脆い家は見事なまでにペシャンコだったし。


 俺のところは技術者がいるし、もし皆があの状況を見て戦意喪失したとしても俺は豆腐で良いなら作れる。でも、他の地域はそう簡単にはいかないんだよな。


「竜ヶ丘は食料支援できるよ。うちは魔物には襲われないから作物無事。三代穀物全部網羅してるから尽きるってことにはならないと思う。あ、三代穀物っていうのは、トウモロコシ、米、小麦のことね。服も輸出するよ。手工業のところもあるけど、大量輸出用に魔石を動力にする機械工業も再会できたから」


「良いのでしょうか。そこまでしていただけるようなことを私達はしてきませんでした」

「昔のサージスを知っている子達はまだ多いし、フェリーチェが竜ヶ丘を作ってくれたお陰でボクらはまともな生活できてるから。千二百年越しだけど、恩返し」


 要約すると、今の王族は関係ない。昔に築いた信頼関係だ。って感じか。


「心から感謝申し上げます」

「いいよいいよ。じゃあ、被害状況に応じて最低限の支援は継続して行うね」


 国同士の契約は成立。俺はどうしよう。まずは港を再建しないと。魚介類は国内で消費量が一番多いのはうちだから、食料確保として大事。



 家は完成するまでは避難所かな。学校も優先して再建だ。リラックスするための大衆浴場も必要だな。避難所にあるとはいえ、外の空気を吸うのも大切だから。

 精神の不調は身体の不調に繋がる。最高のパフォーマンスを発揮させるためにも仮設置は早めにしよう。


 優先順位が一番低いのはカントリーハウス。これは土下座してでも後回しにさせる。タウンハウスの状態を確認しないとまだわからないけど、最悪無限牢獄に住めば良いし。



 よし、前向きにまた頑張ろう。

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