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六話 初めての料理


 今日はマリアと、友達のラッシュと一緒に近くの森に行く。特定の所有者を持たないため勝手に燃料を持って行ったり自生している果物を持って帰ったりできる。



 今回探しているのは家の台所用の乾いた薪といちご。果物は凄く高価で、とてもではないが買えたものではないがこの森にはイチゴが自生している。

 ただで甘味が楽しめるので旬の時期は毎週くらいの頻度で採りにきている。



「お兄ちゃん! いちごいっぱいだよ!」

「そうだね。多分俺達一番のりだ。いっぱい持って帰ろう」

「うん! ラッシュ! どっちが多くとれるか勝負ね!」

「よっしゃぁ! 俺が勝つからな!」


「あんま奥行っちゃ駄目だぞ」

「「わかってるって!」」


 ラッシュとマリアは手を繋いでイチゴの中に突っ込んでいった。



「じゃ、俺は薪拾いしますか」

 持ってきた籠の中にヒョイと木の枝を放り込む。今回から量を考えなくてよくなった。手足に強化魔法をかけて籠にも強化魔法をかければいくらでも運べる。



「マリアー! ラッシュー! 帰るぞー!」

「「はーい!」」


 拾うことに夢中になっているといつの間にか空はオレンジ色に染まっていた。もうすぐ営業終了の鐘が鳴る。



「お兄ちゃん! 私すっごいいっぱいとったよ! お家帰ったら皆で食べよ!」

「おー! 凄い量だな! 母さん達も喜ぶよ」

「ハル! 俺のもいっぱいだぞ!」

「二人共いっぱい採ったな」


「お兄ちゃんはなにとったの?」

「俺は薪だよ。料理用の」

「わあー! 凄い凄い! いっぱいだね!」



 マリアの身長と同じくらいに薪が積み上がっている。魔法の練習にもなるから便利。これからヘルガさんと貴族について勉強をすることも多くなるから今のうちに沢山薪を取っておきたい。



「お母さん! 私いっぱいいちご採ったの!」

「あら、凄いじゃない! 今日のデザートにしましょう!」

 マリアは家に着くなり母さんに抱きついた。父さんは俺と、俺の背中を見て苦笑した。


「ハルも随分沢山取ってきたな」

「強化属性一級なんて使わないと勿体ないでしょ?」

「ありがとう、助かるよ」



 俺は台所側の扉から出て共用スペースの薪置き場に置いた。俺の住んでいる家は比較的家賃が高い集合住宅なので、広い共用スペースがあるのだ。


 共用スペースには他にも井戸や使っていない家具などが置いてあり、そこにある物は入居者なら誰でも使用できることになっている。



 一世帯につきフロアは二つ。上下にある。俺達の場合は上側に寝室、下側にリビングとしている。ラッシュのところはラッシュが私兵を目指しているので上階部分はトレーニングスペースになっているそうだ。



「ああ、ハルちゃん」

「あ、おじさん」


 共用スペースに薪をドサっと置いたところでラッシュのお父さんと鉢合わせした。因みにおじさんは騎士だ。試験が難しく、厳しい王宮の騎士団に所属している。唯一の平民らしい。



「いつもありがとう。その薪、重かっただろう?」

「普通の人なら。俺は強化属性なんだから平気」


「一級だっけか?」

「一級。籠と自分にかけて帰ってきたんだ。いっぱいあるから自由に持って行って」

「ああ、ありがたく使わせてもらう。今日もラッシュの面倒見てくれたんだって? これ、お礼の品。料理にでも使ってくれや」


 渡された紙袋は少しずっしりしていた。

「ありがとう。家帰ったら開けてみるよ」


 そこでおじさんとは別れ、俺は家に入った。

「おかえりなさい。あら? その袋は?」

「おじさんに貰った。ラッシュのお父さん。料理に使ってくれって」



「ロイニー君だね。見せてもらえる?」

「うん」

 両手に収まるサイズの袋を受け取った父さんは中を開けて固まった。息、してるか?



「父さん、何が入ってたの?」

「あ、ああ……砂糖だよ」


「砂糖!?」

「甘いやつ!」


 父さんの言葉にいち早く反応したのは母さんだった。次いでマリア。

 次々に食べたい物をうっとりした表情で話す。



「でも……砂糖はあっても他の材料がないからなあ」

 俺が何があるか考えていると、急に神が話しかけてきた。


『ジャムは!? ジャム!』

『ジャム? って何? 神の食べ物?』

『違うわよぉ! 友達の、ラフィーナの世界にある食べ物よ!』


『友達いるんだ……』

『失礼ね! まあ良いわ。この国の主食ってパンでしょ? ジャムをパンに乗せると美味しいのよ!』



 でもこの国でジャムって言葉は聞いたことはない。だから当然作り方も知らない。


『作り方とかわかるのか?』

『バッチリよ! ジャムができたら私のところまで持ってきてね!』



 まあ、できたら持って行ってもいいけど……うちの在庫でできる?

『レモン汁があればいけるわ!』


「父さん、レモン汁があれば甘いものが作れるんだけど、ある?」

「ああ、レモン汁なら少しあるよ」

 父さんが小瓶に入ったレモン汁を渡してくれたので作り方も完成形もわからない、ジャムを作ることにした。



『じゃあ作り方教えて』

『わかったわ。えーっと……まずは下準備ね。今回はイチゴを採ってきたんでしょ? まずは水で洗って水気を取ったらヘタを切るみたい』



「マリア、お兄ちゃん甘いもの作ろうと思ってるんだけど、それには今日採ってきたいちごが必要なんだ。お兄ちゃんにくれるかな?」

「うん! あまいの食べたい!」

「ありがとう、美味しいの食べさせてあげるね」



 俺は素直にいちごを渡してくれたマリアの頭を撫で、台所に戻った。


『で、どうすれば良い? とりあえずヘタ下くらいまで切ったけど』

『じゃあ次は縦に切ってね。水分が出やすくなるみたいだから』


 いちごを縦に割った。ヘルガさんとかラッシュのところにも渡したいから少し多めに。

『そしたらボウルに砂糖とレモン汁を入れて。そう、そのくらいね。ヘラでいちごに砂糖が満遍なく行き渡るように』

『こんな感じで良いか?』


『ええ、そしたら温度が低くて光に当たりにくいところで一晩おいて、また明日作業ね』

『わかった』



「父さん、母さん、マリア、あとはこれを一晩おいてからもう一度作業だ。出来上がったら一緒に食べよう」

「ええ、そうね」

「まだこの状態じゃ何になるかわからないけど……まあ信じるよ」

「うん! 楽しみ!」



 俺はいちごと砂糖の入ったボウルを暗くて比較的温度が低い場所を選んで置いた。

 翌朝、いちごのボウルには水分が溜まっていた。いちごから出た果汁だ。



『これを果肉と水分に分けて、水分だけ水にかけてアクが出たら寄せてね。で、沸騰したらいちごを追加』



 俺は神が言うままにジャム作りの工程を踏んだ。いちごを煮詰める過程でアクが出続けるのでそれを除去、かき混ぜながら丁度良い濃度になるまで待つ。そしてとろみが付き、いちごに透明感が出てきたら火を止めて表面のアクを取り除く。そしたら出来上がりだ。



 瓶に入れて蓋に「いちごジャム」と記載、ラッシュの家用とヘルガさんに持って行く用、自宅用、予備、神用と、五つの瓶を用意した。



「母さん、できたよ。これをパンに乗せるんだ。俺はラッシュの所に届けてくる。父さんが帰ってきたら食べよう」

「最初はどうなるかと思ったけれど、甘い匂いね」

「美味しそう!」



 俺は瓶に詰めたいちごジャムを、昨日寝かせたところに入れた。冷たい貯蔵庫は貴族の家に行けばあるのだろうが生憎うちには無いので。



「それじゃあ、ラッシュのとこ行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

 綺麗に包んだ瓶を両手で持ち、ラッシュの家の扉を叩いた。



「はあい」

「バレッタおばさん、こんにちは。昨日おじさんから貰った砂糖でジャムというものを作ってみました。パンに乗せて食べると美味しいですよ。あまり長くは持たないと思うので早めに食べてくださいね」



「あら、ありがとう。ジャム? は聞いたことないけどイチゴと砂糖で作ってあるなら美味しいわよね。今日、ロイニーが帰って来たら三人で食べるわ」

「はい」



 服飾師のバレッタおばさんは週末は仕事が休みのことが多い。とはいえ家に仕事を持ち込むことがほとんどだ。平民向けの服飾店で働いてはいるものの、偶に男爵家などの下位貴族や商家に依頼されて作ることもあるからだ。



 バレッタおばさんは依頼主の身体的特徴と好みを把握し、それを貴族社会の流行に沿わせつつ新しいデザインを作ることが得意らしいから店の中でもトップクラスの高給取りだ。


 貴族は新しい物が好きだと教えてくれた。食べ物にしろ服装にしろ、奇抜であればあるほど良い、みたいな。



「母さん、朝食摂ったら教会に行ってくる。友達にお裾分けしたいんだ。その後はずっと一緒にいるから昼食はいらない」

「わかったわ」


 今日のメニューはバゲット二切れと野菜炒め、牛乳だ。葉物野菜は根菜類に比べて小銀貨一枚分高いから数日に一度くらいでしか食べられない。今日は豪華だ。王宮でした食事は早急に忘れよう。あれと比べたら世界中の食事全てが貧相になってしまう。



「ごちそうさまでした」


 きちんと手を合わせて食器を洗う。この食器もそろそろ劣化してきた。木製なのだが、ささくれが目立つようになった。


「リペア」


 小声で皿に再生魔法をかけた。

 ささくれは、幻だったかのように消え去った。視線をずらすと錆が目立つようになったフライパンが置いてあった。縮んだヘラや傷付いたまな板も。


「リペア」

 一瞬で治ったことに満足して俺は教会に向かった。



「ヘルガさん、こんにちは」

「あ、ハルさん。こんにちは。どうしました?」

「昨日妹と友達と一緒にイチゴ狩りに言ったのでお裾分けしたくて。あとは礼拝堂にお供え物として持ってきました」

「そうでしたか。わざわざありがとうございます」



 二人で礼拝堂までの道を行く。他の神官にはほぼ会わない。

 王家はヴィーネ神支持を明らかにしたが、今の神官のほとんどはもともと信仰心が全く無い人が多いから教会に併設された治療院や孤児院の方に人を割くのだ。ヘルガさん一人いれば良いか状態。



「神ー。持ってきたよ。どこ置けば良い?」

『祭壇にお願い。そしたら勝手にこっちにくるから』


「りょーかい。ヘルガさん、神も食べたいみたいですし三人で食べませんか?」

「良いですね、ヴィーネ様とお食事ができるなんて、嬉しいです」

 俺は瓶とスプーン、そして来る途中で買ってきたパンを出した。お陰でお小遣いはすっからかんだ。まあ別に良いけど。

「いちご……ですよね?」

「はい、神がどうしてもと言うので作りました。ジャムという食べ物で、パンに塗って食べるそうですよ。パンも買ってきたのでせっかくですし塗ってみませんか?」

「はい、聞いたことのない食材ですが……ヴィーネ様自ら希望されたものなので食べてみたいです」

「決まりですね」



 祭壇に瓶とパンを置いて、ヘルガさんにもパンに塗って渡す。

 パンを鼻の近くに持っていくと凄く甘い匂いがし、思わず喉がゴクリと鳴った。

 ヘルガさんも同じことをしている。意を決して口に放り込むと口内がいちごの酸味と砂糖の甘みでいっぱいになった。半分に切ったいちごをそのまま入れているので食感もプチプチしていてその口当たりもクセになる。



 砂糖を買うだけの財力があれば比較的簡単に作れるので売り出したら人気になりそうだ。



「ハルさん、これ凄く美味しいです。今まで食べた果物の中で一番美味しい……!」

「良かったです。これを沢山作ったら売れますかね……?」


「売れると思いますが砂糖を使っているのでしょう? 材料費はかなりの額になりそうですよ」

「ですよね。今回ので一つ、果物を使ったレシピを思いつきましたがそれも、なかなかにお金がかかることになります」


『レシピ!? なになに! 何の!?』

 神が興奮気味に食いついた。


「サンドイッチだよ。野菜とかお肉を挟んだ物は沢山あるけど果物を挟んだものは見たことないなぁって思って。パンに塗っただけでこれだけ美味しくなるんだから果物ごとゴロっと挟んだらもっと美味しくなるんじゃないかと思う」



『フルーツサンドね! ラフィーナが自慢してくるから羨ましかったのよ! レシピ本はあっても自分の世界にないものは神界では作れないし、ハルが代わりに作って! フルーツサンドのレシピもあるわよ! 貴方ジャムのレシピもメモしてあるんでしょ?』



「まあ。一応また作ることがあった時のために木の板にメモしてあるけど」

『じゃあそれみたいにレシピメモしてこの世界にレシピ本とかも作ってよ!』


「そんな無茶な……。庶民じゃ紙は買えないよ。一枚で大銀貨一枚使うんだから。それを大量になんて……」

『えー! それじゃあいつまで経ってもこの世界の料理が発達しないじゃない! つべこべ言わずに作りなさい! それが売れたら貴方のためにもなるのよ!』



 売る、か。まあ成功すればもしかしたらって感じかな。


「ハルさん、新しくレシピを考えたり本を作る時には僕もお手伝いさせてください。いちごジャムが凄く美味しくて……もしかしたら他の果物でもできるようになるかもしれませんし、まずは権力がある上の人に認めてもらいましょう!」



 その言葉を聞いてある一人の人物が思い浮かんだがすぐに頭の隅に追いやった。王に協力を仰ぐなど論外だ。ただでさえ家族とラッシュ達に護衛を付けてもらっているんだ。これ以上はやりすぎだ。


「実は明日、陛下に呼ばれているんですよ。僕とハルさんが。ハルさんが部屋に戻ってから僕だけで陛下と話した時があって、その時に」

「ま、またあそこに行くんですか、俺」


「そうです。チャンスですよ。名目は、王子殿下と王女殿下お二人とのお茶会です。毎回服を貸してもらっているのだからと持って行ってみませんか? 毒味の関係で王族の方が食べられないとなってもエステルやメアさんであれば受け取ってくれるかもしれません」


「それくらいなら……わかりました。予備用の瓶があるので袋に包んでおきます」


 明日に不安を抱えつつ、営業終了の金と共に帰宅した。



 いちごジャムは家族皆に好評だった。マリアが寝た後、また王宮に呼び出されたと報告したら両親共に遠い目をしていた。


 もう理解できない、そう言っているかのよう。その気持ち、わかる。

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