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五十話 竜ヶ丘観光 一


 元アルバーン伯爵家、裏庭。ここには邪神復活の儀式をする穴がある。状況がよくわからないくらいに深く、光の届かない穴の奥。そこでは静かに復活の時を待つ影があった――


――――――――――――――――――――


 今日は久しぶりに登校する。竜ヶ丘には学校を休んで行ったし、その翌日は再生の日だったため休み。そこからもちょくちょく休んでしまい、ようやく元のように登校できるようになった。



 サークルメンバーにどら焼きを渡すつもりだ。竜ヶ丘の存在を知ってもらうこと、そして、魔族に対する悪い印象を持たれないようにすること、その二つが目標だ。レオンがいないので駄弁るなら今日しかない。


「美味しい……」

「ああ……美味いな……」


 語彙力のなくなった先輩二人に、口に含むなり固まってしまったルイ先生。咀嚼、してるか?



「これは……」

 あ、戻ってきた。



「曽祖母の味によく似ています」


「え……?」



 これはサージス国民は知らないはずじゃ……?



「国史について発表があるそうですね。亡くなった曽祖母は先住国民の子孫に当たる存在でした。このお菓子はフェリーチェ王が好きだった物で、竜ヶ丘とサージスの友好の象徴みたいな物だ、とよく聞かされてきたんです」



 ここにきてまさかの情報!? じゃあルイ先生なら先住国民について何か知ってるかも……!


「ああ、もう先住国民の子孫はいませんよ。端に追いやられた者同士、助け合って何とか生きていたそうですが……曽祖母が最後です」



 先住国民、絶滅か……。

「そう、でしたか……」


 全くわかっていなさそうな先輩達を置いてルイ先生と会話をしていると、食べ終わったらアリシア先輩が質問した。 



「その先住国民って何ですか?」

「まだお二人は知りませんでしたね。先住国民は、八百年前までサージスに住んでいた者達です。貴族文化の到来とともに、新たに入ってきた移民によって住んでいた場所を追いやられ、今日まで差別されてきた人間のことです。

 昔、魔族との交流があったという内容は国史でやるものですが、先生の中には、その時代を暗黒時代と呼ぶ人や、先住国民を野蛮人と称する人がいます。死んでも尚、差別されるなんて、ご先祖様は何をしたんでしょうね。言うほどのことでもなかったので今まで言ってませんでした。隠してはいませんよ。学生時代、周りから嫌がらせされてましたけど、ほとんどの理由はこの先住国民の子孫であることですね」



「えーー! 酷い! せんせー何も悪くないじゃん!」

「悪くないから差別と呼ばれるんですよ」


 抗議するアリシア先輩、言葉を失うセラフ先輩、もきゅもきゅと咀嚼するルイ先生。当事者が一番淡白だ。

 というか、カリウ先生がいなければ死んでたようなことされてたって過去に言ってたけど、それどう考えてもただの嫌がらせじゃないよな。絶対犯罪レベルのことされてたよな。



「美味しかったです。ありがとうございます、ハルくん。久しぶりに懐かしい味を思い出しました」

「大丈夫ですよ。あ、竜ヶ丘は昔、サージスからの観光客で賑わっていたそうですし、この前行きましたが、観光産業は完全に無くなったわけじゃありませんでしたよ。遊びに行けば食べられるかもしれません」



 俺の持つ領地でも許可が取れれば出したいと思う。


「ハルくんの領地からは近いですか?」

「領地はまだないですが、いずれは貿易もする予定なので直通ルートは整備します」


 休憩できるあの空間を作ったみたいに、魔物が入れない空間を作って牛車や馬車を効率よく通せる広い道と、領地に着くまでの宿や休憩所、入出国手続き所と案内所も設置しないと。領地を得ても、一般人が住めるようになるには、時間がかかりそうだな。



「領地ができたら教えてください。引っ越すので」

「え!? が、学園は!?」


「ハルくんなら誰でも転移を使えそうな魔法具を開発できそうなので、辞めないですよ」


 誰でも転移、か。避難所みたいに転移の魔法を魔鉱石に込めて設置したらできるようになるんだろうか。今日ちょっと実験してみるか。




 ということで、魔鉱石を取り出した。一応、既存の七属性に加えて、空間属性も記号がある。それを彫れば良いのだが……。が、魔法を使って彫ることができない。ずっと発動させていたら転移し続けてしまうことになる。チカチカ視界に映る俺、それはそれは迷惑だろう。



 とにかく集中して彫るしかない。魔鉱石の破片が飛び散らないように、特注の防護メガネをかけて彫り進める。 








 あーでもないこーでもない、と何度も何度もやり直しをして、漸く完成したのは約二ヶ月後の六月頭だった。冬期休暇に入る。


「ルイ先生、冬期休暇の際、友人と竜ヶ丘に遊びに行くのですが、都合がつくなら一緒に行きませんか? 四月に誘われていて」

「僕が行っても良いんですか?」


「はい。温泉もあるので普段の疲れは癒えると思いますよ」

「ありがとうございます。カリウを誘っても?」

「カリウ先生! 是非!」



 こっちとしては大歓迎。竜ヶ丘としても観光地なのに観光客がいないと嘆いていた人達が喜んでくれると思う。


 じゃあ、メモしないと。えっと……。


 俺、ヘルガさん、レオン、シルヴィ、ヘンリー、シエル、ステラ、テリー、ラウル様、マリア、ラッシュ、カリウ先生、ルイ先生だな。女性二人、男性十一人の計十三人だな。よし、伝えに行こう。






「お兄ちゃん、人数決まったよ」

「ハル、久しぶり」


「ん、久しぶり。女性二人男性十一人の計十三人。二週間後にそっち行くよ」

「わかった。じゃあそういう風に話つけておくよ。あと、迎えはいる?」



「んー……俺が案内するから良いかな」

「おっけ。じゃあこの内容で伝えるね」


 オブシディアンの書いたメモを見ながら確認して、宿の場所も教えてもらった。

 で、その後は皆のところに行って、決まった予定を共有、学園から出ていた冬期休暇課題を終わらせた。因みにこれは、国史からだ。


 本当の国史が公表されたことを受けて、すぐにでも教科書を変えたいと思っているが、そう上手くはいかない。それなら教科書を個人個人で作ってこい、という課題だ。


 俺は既に作っていたので少し解説を付け足して、今度は一桁年齢の子供をターゲットに簡単な言葉を選んで書いてみた。自分の力で作っていたとはいえ、流石に丸写しはつまらないからな。



 旅行の前には大体面倒なものを終わらせたい。会議で採用された避難所用の魔鉱石も各領地分+αで用意し、クラスターにも備える。


 設置された箇所は既に国営含め十箇所以上。住民の理解を得られるように現地で説明会も開いた。その甲斐あってか、反発などはされていない。



 平民と一緒など……とほざく奴には無言の圧をかけておいた。平民と一緒に入って助かるか、見苦しく餌になるか、選べ。そういう圧だ。大体それで面倒なことは回避できる。


 そして迎えた当日。迎えは不要と言ったので、ラ・モールの森出口まで俺の転移で行く。

 門番はすぐに通してくれて、俺は先に泊まる予定の旅館まで皆を案内した。



「おかえりなさいませ」


 旅館に着いて第一声は、これだ。これが竜ヶ丘のおもてなしの仕方らしい。

「私、女将が皆様をお部屋に案内させていただきます」

「「よろしくお願いします」」



 部屋は、二人一部屋だった。女性二人はそのまま、大人組もそのまま、双子も。で、俺とヘルガさん、テリーとラッシュ、レオンとヘンリー、ラウル様だ。レオンの部屋だけは数の都合上、三人部屋になった。

 着替えなどの荷物を置いたらオブシディアンに会いに行く。



「行ってらっしゃいませ」


 女将さんはそう言って見送りまでしてくれた。こういうのってフェリーチェの教えなんだろうか。

 街の様相がサージスと違うからか、外に出ても皆喋るのを忘れてキョロキョロしている。王都に出てきたばかりの田舎者に見えなくもない。



「よく来たね、皆。待ってたよ。ボクがオブシディアン。来て早速だけど、観光する? それともちょっと休憩する? 観光するなら案内するし、休憩するならお茶とお菓子出すよ」

「じゃあ、ちょっと休憩してから行こうかな」



 皆があのお茶を受け入れてくれるかわからないけど、どら焼きは好評だったからそっちは受け入れてもらえるだろう。

 オブシディアンの屋敷敷地内にある大きい東屋に行くと、すぐにノエルさんが人数分のお茶とお菓子を出してくれた。


「美味っ」

「少し苦味のあるお茶が甘いどら焼きによく合いますね」

「何でこのお茶、サージスにないんだろ……」


 男性陣には好評だったようだが女性陣は……。無理して飲んでるっぽい。まあ二人とも甘いの好きだもんな。



「お口に合いませんでしたか? それでしたらこちらをどうぞ。緑茶とは違い、苦味のない麦茶でございます」

 紅茶は竜ヶ丘にないらしいので。


「これなら飲める! ありがとう!」

「私も、麦茶であれば飲めますわ。ありがとうございます」


 ほっ。これも飲めないとなると、二人はこの旅行がつまらなくなってしまう。

 女性陣の飲まなかった緑茶は男性陣が飲み干した。勿体無いからな。




 二十分くらい休憩し、オブシディアン案内で観光ルートを回ることになった。今回は人数が多いから人力車はなしで、徒歩で行く。


 一軒目は……服屋?

「皆にはこの街の住人になりきってもらうから。サージスから着てきた服はここで脱いでね」


 脱ぐ……?





「やっぱり顔が良いと着物でも似合うねぇ」



 女性陣は明るい色に花柄の可愛らしい着物を着ていた。着物とは、フェリーチェの住んでいた国の伝統的な民族衣装らしい。あっちでは場所によってはこういった服を着て観光できる。それを再現したようだ。



 俺達男組は紺や茶色、ワインレッドなどの落ち着いた色の着物だ。遠目で見るとわかりにくい部分があるが、同系色でストライプが入っていたり、逆にわかりやすく波紋だったり植物の模様が入っていたり、とこちらもお洒落だ。


 俺の身長さえ高ければ……。圧倒的子供感……。


「フェリーチェ曰く、こういうのは低身長かつ凹凸の少ない人の方が似合うらしいよ」


 小声でオブシディアンがフォローを入れてくるが、全然良くない。一人だけ頭一個半分くらい低いのがなんか嫌だ。



「これ、肌触りが良くて凄く着やすいです」

「ああ、初めて着るタイプの服だが、肌に密着しないから暑苦しくもない」


「それは良かった。旅館に用意してある部屋着もそのタイプだから気に入ってくれて嬉しいよ」



 眩しい笑顔を浮かべるオブシディアン。一部はあまりの眩しさに目をしぱしぱと瞬かせていた。


 落としにきてるな。オブシディアンとライゼン様の会談の時に国交再会を望んでいたらしいし、国の中枢になる予定の人物が大量にいるから、できるだけ柔らかい印象を与えているのか。



「うちは、サージスの初代国王が自分の世界のを再現した建物が多いから、歴史的な伝説みたいのはないけど、真新しいものが多いから楽しめると思うよ。ジャンルとしては、体験系と建物巡りがあるけどどっちが良い?」


「体験?」

「その着物もそうだし、ハルは乗ったけど人力車、あとは切子とか陶芸もある。人力車は二人一組だから別行動になるけど、引く奴が案内してくれるから自分の行きたいとことかすぐ行ける」



「俺は体験の方がしたいです」

「私も!」

「僕もです」


 全員が体験の方を希望したので、ここからは人力車で行動することになった。俺達が観光をしている間、オブシディアンが昼食場所を見繕ってくれるそうだ。


 十三人なので、一度乗った俺はソウルで移動する。

 俺とヘルガさん、ラッシュは一緒に行動するから、まずは行き先を話し合う。



「ハル様、お昼まで時間もあまりありませんし、短時間で満足感を得られるものとしてはガラス体験があります。その日のうちに持ち帰れますので昔、人気だったそうです」


「じゃあ、まずはそこに行きたいです。ヘルガさん達は?」

「僕も気になります」

「俺も」

「じゃあ決まりですね。出発します」



 商店街の更に奥、職人街の一角にある小さな工房に入ると、職人と思わしき人達がにこやかに出迎えてくれた。


「体験希望っちゅうのはあんた達かい?」

「はい、よろしくお願いします」



 そうして、ガラス体験が始まった。ここではサンドブラストという方法でグラスに模様を削るものを体験する。一時間半くらいでできるそうだからお昼時に丁度よく終わるって感じかな。


 いくつかデザインを用意してくれていたが、俺は自分で描くことにした。俺らしさが欲しかったので、ソウルを彫る。少し細かいが、お絵描きは得意分野だ。



 因みにヘルガさんとラッシュはデザイン集から選んでた。ヘルガさん、何でもできそうな顔してるけどイラストは逆画伯だったもんな。



「それは神獣様かい?」

「はい。俺が六歳の時からずっと一緒にいてくれているんです」

「そうかそうか。ワシが知ってる神獣様とは随分と毛色が違うのぉ」


 そう、懐かしむように言う職人さんは、フェリーチェが建国した当時、十二歳だったらしい。いや、長生きさん! 少なくとも千二百十二歳以上ではあるようだ。



「フェリーチェ様には蛇の神獣様がおった。気さくな方で、ワシらともよく話したものだ……」



 当時のフェリーチェの様子をガラスで表現したというものを見せてもらったのだが、教科書のフェリーチェ以上の美化され具合だった。本当にこんな人が実在したのか、と疑うレベルで。



「お前さんのも作って良いかの」

「少し恥ずかしいですが、大丈夫です」


 自分の姿が後世に残る形で表現されるのは思っていたよりも恥ずかしい。でも、この人が作りたいと思ってくれているなら俺に断る選択肢はない。



 描き終わった俺は研磨剤を吹き付けてソウルを彫り始めた。他の二人も職人さんに教わりながら少しずつ進めている。最初はガラスに何かを吹き付けるというのが怖くて、おっかなびっくり彫っていたが、十分くらいで慣れた。


 そうなると、できていく過程を見るのが楽しくなる。線画の部分はまだ見えないけど結構良い感じになったんじゃないかな。



 約一時間半後、本当に出来上がった。我ながら上手くできたと思う。ソウルのたまに出る威厳っぽいのが立ち方で表現できた。


「ハルー。できたか? ……て、凄! これってソウルだろ!」

「ああ、自分で描いたんだ」

「相変わらず上手……」


「持ち帰り用に梱包しちゃるから」



 ありがたいその申し出に甘え、俺達は工房を後にした。次はお昼ご飯だ。

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