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五話 夕食会


 翌日、俺は昨日のことを報告しにヘルガさんの所に向かった。


「おはようございます、ヘルガさん」

「あ、ハルさん、おはようございます。今日は良い天気ですね」

「はい、洗濯物がよく乾きそうです」



 俺達は礼拝堂の掃除をささっと済ませて女神像の前に座った。ほんとは駄目だろうが信仰心はまだ微妙だから礼拝堂には誰も入ってこないし、指輪のせいかここにいると落ち着くからだ。




「え? 今なんて?」

「王家の今日の夕食に招待されました」

「パーティーでもないのに?」

「はい。招待状ももらっています」



「確かに王家の紋章ですね。ヘルガ・アルバーンとして伯爵家にいた時父が燃やした書類の中にこの紋章が入ったものがあったから覚えてます」


 父が燃やした!? 王様からの書類を!? やば……。


「しかもヘルガさん、これだけじゃないんです」

「どういうことですか? まだ何か?」

 招待状を再び受け取り声のトーンを落とす。


「王家が後ろ盾となって俺の王立学園入学をサポートすると言われたんです。王様と王妃様に。断ろうと思ったんですけど王家が駄目なら宰相の公爵家はどうだろうかって言われて……」

「公爵家……宰相……アイクランド家かな」

「はい……知っているのですか?」



 知っているのであればどんな人がいるのか教えてほしい。

「ええ、父が何かと攻撃しようと画作していましたから。アルバーン伯爵家は王家から見て敵対貴族と呼ばれています。ヴィーネ様の教えに反しているので。反対に、アイクランド公爵家は賛成派貴族の筆頭です。自分のことしか考えられなくてあまり深く考えて行動しない父はアイクランド公爵家が潰れてくれれば、と敵対貴族筆頭の公爵家と悪巧みすることが多かったですね。

 アイクランド公爵家は当主で宰相のイーサン様、夫人のキュリー様、そして次期当主のヘンリー様って構図です。イーサン様には弟君がいるので宰相であるイーサン様がタウンハウス、弟君一家がアイクランド領地にいるはずです」


「よく知っていますね」

「双子の弟が不真面目で家庭教師からの課題を代わりにやらされたりしましたから。情報は少し古くなりますが貴族関係のことでわからないことがあれば聞いて下さいね」


「ありがとうございます、ヘルガさんは学園には行かないのですか?」


 知っている人、しかも現平民が一緒だと精神的にに安心するからできれば着いてきてほしい。



「学園は十二歳以上から受験可能なのであと少しで受けられるようにはなりますが、僕は見習いで給金もないので金銭的に厳しいんです。ハルさんの助けになるなら行っても良いとは思っていますけど……」


「では国王様に話してみませんか? ヘルガさんと一緒に学園生活をしてみたいので」

 余程のことでない限りは大丈夫だと思う。

「ダメ元ですが……あれ、これって……」

 ヘルガさんが示したのは招待状の裏面に小さく書かれた文字。



「例の神官を連れてきてほしい」


 簡潔に、そして限定してヘルガさんを指名してきた。



「僕について話したんですか?」

「いいえ、神官とは言いましたがヘルガさん個人の名は一切出していません」

「まあ、仕方ないですね。一緒に行きましょう。一人より二人の方が心強いですもんね」


「……! 良いのですか?」

「はい、勿論ですよ。だって、僕とハルさんは友達ですから」



 神ぃ! 本職の神を上回る程の神!


「入学するなら貴族と対峙しても大丈夫なくらいの礼儀作法を勉強しなければ。ハルさんは基本的な勉強はできるようですしプラスで勉強するなら座り方やダンス、あとは主な貴族の名前などですね」

「よろしくお願いします」



 その後は入れて欲しそうに光る女神像を落ち着かせるために 三人で飽きる程話した。いつの間にかヘルガさんの指には俺のものと同じリングがついていた。



 ヘルガさんくらいの信仰心のある人にこれを授けると神力の回復効率が上がるそうだ。かと言って信仰心が高ければ誰にでも、というわけではないと。


 守護者の俺も凄いかもだけど、守護者でないにも関わらず神と会話できるヘルガさんも凄いと思う。そんなことを言うと「ハルさんと出会えたことが人生最大の幸福」だと言ってくれる。そんなこと言えば俺もヘルガさんに出会えて幸せだ。



 逆行前は会ってないけどどこにいたんだろう。まあ、大切なのは今だ。過去のヘルガさんは実家によって生け贄にされて死んでしまった可能性があるけれど、ここにはちゃんと生きてるヘルガさんがいる。俺はその幸せを噛み締めた。


「ハル様」

 昼の鐘が鳴り、二人で軽食を摂っているとき。それは突然やってきた。

「メア。こんな早くにどうしたの? 約束の時間は夕食時だよね?」


「はい、ですが湯浴みやお召し替えの時間を加味してこの時間に参りました。一度ご実家の方にお迎えに行きましたが教会とのことでしたので」

「あ、ごめん」

「いえ、それでハル様。そちらの方は?」


 そう言ったメアは俺の隣のヘルガさんにチラリと視線を移した。

「初めまして、女神像が光った時にハルさんといたという神官見習いのヘルガと申します」

「ヘルガ様ですね。今から王宮に向かいますが予定などは問題ありませんか?」


「はい」

「ではこちらへどうぞ」



 俺とヘルガさんはメアの言われるがままに馬車に乗り込んだ。


 今後の予定としては、王宮の客間に案内されて部屋内にある風呂で全身磨き上げられる。そして予め用意してあった服に着替える。暫く部屋で待機してから王宮の食堂で食べるという手順だ。



 着る物としては、襟の辺りまでフリルが付いた白いシャツ、水色のコート、黒いスラックスだ。因みに全て新品で、前回着た物は一つもない。王族の財力、怖い。


 王族は青いコートだ。青は王族の色で、他の貴族は社交の際に青を纏ってはいけないことになっているそうだ。そして金色は必ず纏うことになっている。この国の国花は麦。収穫時期になると黄金色に輝くため豊穣を願って貴族はどこかに刺繍などで入れる。俺の着ているコートにも、ところどころ金で刺繍が施されている。

 全身鏡に映る俺は普段の二割増しくらい格好良く見える。



「ありがとう、メア。自分で言うのも何だけど、凄く格好良く見えるよ。ヘルガさんはどうなったんだろう」

「お気に召したようで良かったです。ヘルガ様には弟のエステルが付いております。あの子は私よりも手先が器用ですので心配はありません」


 俺もヘルガさんもそれなりに髪が長いのでアレンジし放題だ。俺は散髪に行けるほどのお金が無いのでメアがカットから調整、アレンジをしてくれた。


 ウルフカットという狼の尻尾に似たような髪型になった。襟足を少し巻いてワックスで上側をふわっとさせて固定、今の俺はとても平民とは思えない。伯爵家や子爵家の子供に見える。



 平民の俺がこうなのだから純粋な貴族であるヘルガさんはどうなるのかわからない。

 メアに時計を一時的に貸してもらい、今の時間と夕食の時間を計算すると移動時間込みであと三十分くらいありそうだ。





 二十分後、結局落ち着かず、俺は食堂に向かうことにした。途中でヘルガさんにも出会った。ヘルガさんもソワソワしてしまって落ち着かなかったため、早めに部屋を出たそうだ。



 ヘルガさんは淡い金髪を、グリッターを混ぜた翡翠色の髪留めで結んでいた。髪留めの上は俺と同じように緩いパーマをかけてふわっとさせていて、ドレスを着ていたら女の子と間違えてしまいそうだ。



「ふふっ、どうですか? 似合っていますか?」

「はい……凄く、綺麗です……」

「ありがとうございます、ハルさんもとても似合っていますよ」


 結婚どころか恋仲でもない俺達がまるで新婚夫婦のような会話をしているところを生暖かい目で見守るメアとエステルさん。

 暫く地獄の沈黙が続き、痺れを切らしたメアがその場を進行してくれた。ありがたい。



「ハル様、ヘルガ様をお連れしました」

 入室許可と共に謁見の間ほどではないが重そうな扉が開いた。時間が来るまでヘルガさんとひたすら扉の前で練習した立ち方、歩き方、食器の使い方はまだ覚えている。緊張して飛んだりしてない。



 俺達が入室したのを確認した王族の面々が唖然としている。昨日の俺と立ち方が違いすぎて驚いているのか、ヘルガさんに驚いているのか。ヘルガさんの正体がバレなきゃ良いけど。



「国王陛下、王妃殿下、王子殿下、王女殿下、このような会にお招きいただきありがとうございます」


 最後に優雅な微笑みと礼を添えて堂々と言った。ヘルガさんと練習した成果が一つ出た。全員の名前を出したのは招待状を渡した人とサインをした人が違い、誰に向けて言うか分からなかったからだ。とにかく全員分呼べば良いや、的なことで。



 ずっと国王様、王子様、のように様を付けて呼んでいたが陛下、殿下の方が好ましいそうだ。


「丁寧にありがとう、今夜は正式なものではないから最低限のマナー以外は気にしなくて良い。二人は平民で、学ぶ機会もなかっただろう」

「陛下のお心遣いに感謝いたします」


 ヘルガさんがキリッとした顔で頭を下げた。

 夕食会は思っていたより緊張することはなかった。本来ならあるような厳格な規則、例えば目線や会話の流れなどが平民ということで免除されたのも大きいと思う。



 最低限のマナーはあるがそれも汁物は音を立てて飲まない、とか酒場でされるような一気飲みは駄目、あとは口に物を入れたまま喋らないとか普段から当たり前のようにしていることだから意識しなくてもできる。

 俺達の食器の使い方や座り方に初めは驚いた四人だったが一品目を食べ終わる頃には何事も無かったかのように優雅に食事をしていた。



 王侯貴族になれば平民が普段は食べられないような甘味や肉、果物が食事に出てくるが、細かい規則があるのは息が詰まりそうだ。

 俺が守護者だと分かれば否応無しに普通の平民じゃいられなくなる。規則塗れの貴族界に入らないように、不特定多数にバレない努力もしよう。




 食事が終わる頃にはもう就寝の鐘は鳴っていた。思いの外会話が弾み、当初の予定より夕食が長引いてしまった。


 食事中に全員の名前も聞いた。


 国王陛下がライゼン様、火属性準一級。

 王妃殿下がセリア様、水属性二級。

 王女殿下がシルヴィ様、火属性準一級。

 そして、王子殿下がレオン様、再生・治癒属性一級。

 

 流石、王族というだけあって皆適正のランクが高い。



 それにしても、凄い設備だった。俺の家にはランタンの明かりしか無いが王宮ではどれだけ外が暗くなっても室内は明るいままだった。



 光属性の魔鉱石で灯りを作っているらしい。ライトという魔法を使えば魔鉱石が無くても明るくなるそうだ。

 光属性なら俺でも使えるはずだからメアが退室してから自分でもやってみた。



「ライト」

 指先が明るく光った。少し弱めに魔力を放出したので部屋の外まで漏れる光は起こらなかったが、調節できていなければ多分扉の下や窓の外にまで光が漏れていただろう。

 危ない。注意しないと。ヘルガさん以外は俺が強化属性だと思ってるんだから。




 翌朝、部屋で朝食を摂った俺達は帰宅した。俺は家に、ヘルガさんは教会に。

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