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四十六話 歴史書の相違


 観光にはさっき説明された人力車を使うことにした。待機場所で待ってると、気付いた人の一人が来てくれる。



「オブシディアン様、お客様ですか?」

「ボクの弟」


 ではないです。ただお兄ちゃん呼びをしているだけで。心の中では名前呼びです。

 とは言わないでおいた。



「この子、どう見ても人の子ですけど……まさか、誘拐してないでしょうね」

「誘拐はしない。覗き見はできる」

「犯罪です。その子にビンタされても知りませんよ」

「それはそれで」



 あまりの変態ぶりに鳥肌がたったようで、腕さする竜人の男性。


「オブシディアン様には気をつけてくださいね。あの方は、初代守護者のフェリーチェ様に変なことを吹き込まれて以降、あんな風になってしまったのです」

「正体がわかってるので大丈夫ですよ」



 オブシディアンを見て、俺を見て、再び腕をさする男性。でも流石に仕事だからか、オブシディアン乗車拒否にはならなかった。


「わぁ……!」

 思ってた以上に目線が高くなって、凄く景色が良い。深く座って、渡された膝掛けを掛けた。



 ゆっくり進みながら彼は解説してくれた。彼の名前はネス、元々はサージスと他国を繋ぐ連絡役で、今は観光案内役を務めているらしい。

 見た目は四十代くらいに見えたのだが、実際は建国当時からいるので千二百歳以上だった。本人も年重ねすぎてよくわからないらしい。



「昔はサージスからの観光客も多かったんですけどねぇ。国交断絶になってから、観光客はゼロ。人力車はただの移動手段になっていました。ですから、本来の目的とは違ったかもしれませんが、この地に観光としても来ていただけて嬉しいです。竜ヶ丘はたくさん楽しいことがあるので、本日は都度紹介しながら進みますね」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 まず、人力車が向かったのはお菓子がたくさん置いてあるお店。ここで何か貰って巡っていくらしい。



「お兄ちゃん、ここのお店値札がない」

「ああ、うちは貿易に使ってたお金以外は流通してないんだ。サージスみたいに給料って概念もないよ。お店って言ってるけど実際は契約っていうより譲渡っていう方が近いかな」


 さっきまでの状態とはうって変わり、落ち着いた口調になったオブシディアン。もしかしたら、初対面で見せられたあっちではなく、この知的な兄ちゃんみたいなのが素なのかも。



「材料費は回収できるの?」

「材料費はボク負担だから平気。魔族は食事を半年摂らなくてもピンピンしてるような種族だし、その負担もそこまでじゃないんだ」


 魔族って凄いな。それって食事の時間を魔法具開発に充てられるってことだろ? 俺も欲しいその能力。




「あ、聞きたいことあって」

「うん、良いよ」

「竜ヶ丘の一次産業ってどんな感じ? 料理のレシピ本を出したいんだけどサージスは物価が高いから平民じゃ手が出しにくいんだ」

「うーん……」


 オブシディアンは少し考え込む素振りを見せた。指で地図みたいのを描いてるから思い出してるのだろう。


「農業は、暖かい地域で栽培されるサトウキビから寒い地域で栽培される小麦まで沢山あるよ。あとは和食には必須のお米もうちで栽培できる。酪農も鶏、牛、山羊とか有名どころがいるね。林業も盛んで、紙は安定して大量生産できてるし、サージスの反対側に海があるから漁業も盛んなんだ」


「時給自足ができるんだね」

「国交断絶されてから結構な打撃は受けたよ。ここでは魔鉱石が採れないから輸入に頼り切ってたんだ。そのせいで魔鉱石を動力源としたものは動かなくなってる」




 魔鉱石か……。魔石で代用できるなら輸出ができるかな。俺としては竜ヶ丘の作物は手に入れておきたいから貿易ってことで。


「お兄ちゃんは、魔石って知ってる?」

「いや、知らない。それは何?」


「魔鉱石の代わりになる石で、魔物を倒すと落とすんだ。俺は魔石を使った商品を開発したいと思ってるし、それについてはもういくつか動いてる」



 トイレと擬似心臓、レオンの擬似治癒師とかが代表例。


「それならうちでも作れるかもしれない。温泉は源泉から掘ってるから良いとしても、一般家庭のお風呂とトイレは魔鉱石がなくて使えなくなってるから、代替品があるのは助かる」


「俺の領地の雇用にも繋がるし、事業として進めたいんだ。だから、開発が安定してきたら、輸出って形をとっても良いかな?」

「こっちからは何を出せば良い?」



「まずは紙類かな。平民にはあれ高すぎて買えないんだ。あとは、フェリーチェから日本建築? っていうのを復活させてほしいって言われてるから、もし可能なら技術支援もしてほしい。勿論、衣食住は用意する」


 紙は一枚で俺の住んでた集合住宅の家賃と同じくらいしたからな。流石に無理がある。でも、竜ヶ丘では技術があるから安定して生産できてる。


「技術支援は六年前からするつもりだったから大丈夫。紙も用途に合わせて加工までこっちでしちゃうよ。本とかポスター、事務用途。それぞれ紙質とかサイズとかが違ってくるから後で現物見て決めてほしい」

「オブシディアン様、それでしたら図書館に寄りましょうか? あそこなら全種類ありますよね」


「だね。じゃあ次は図書館に行こう」

 そうして、図書館に連れてきてもらった。


「この図書館には図鑑、娯楽小説、参考書、歴史書なんかがあるよ。一番人気なのは建国当時の歴史だね。竜ヶ丘でフェリーチェたんの人気はすごかったんだから。今も当時の魔族はいるし、人気は衰えてない。フェリーチェたんの生まれ変わりが来るってなって、その日は祭りが開かれたくらいで」


「でも、記憶ない」

「存在自体が尊いものとして扱われてたから記憶があるないはあんま関係ないよ」



 屋敷の前で襲われましたが。あれも魔族なりの一種の愛情表現だったんだろうか。だとしたら不器用すぎないか。


 俺が丸腰じゃなかったから良かったものの、守護者としての力を満足に使えなかったらお互い無事じゃ済まなかったかもしれない。



 中途半端に怪我してってなって地獄絵図が広がることは容易に想像できる。


 まあ良いか。結果的に全員が無傷で済んだんだし、俺の実力を見せる良いキッカケにもなった。人を選ぶ歓迎会だけど俺には通用するからよし。 



 両方からの強い勧めもあり、建国当時の歴史書を読むことにした。竜ヶ丘と、サージスの。


 内容としては、主な政治的背景とそれがあった年なんか。あとは当時の地図や風景も載っていた。医療機関や学校の建設具合、出生率、就学率、平均寿命も事細かく記載されている。


 どのページを見てもフェリーチェがどんな風に関わったのか、それによってどう良くなったのか、フェリーチェへの賛辞が書いてあって、相当な人気だったことが伺える。



 フェリーチェが死んでからの歴史もしっかり載っていた。街の真ん中にはフェリーチェの像が建てられていて、竜ヶ丘の名前の由来でもある小高い丘の上にはフェリーチェの墓があるそうだ。街を一望出来るらしい。


 フェリーチェの作った仕組みとオブシディアンの人望のお陰で過去に争いが起きたこともない。

 サージスは貴族が入ってくる時に一悶着二悶着くらいあっただろうし、諸外国もゼロではないはず。ラ・モールの森が隣接してること以外は世界一平和な国だと思う。



 街中にゴミが落ちてないのも、人が倒れていないのも、サージスじゃ考えられない。そして、どの道にも必ず灯りがあることも。


 サージスは王都は貴族街みたいなものだから、清掃が入っているが、少し郊外に行ったところや裏路地は治安が悪い。いつも何らかの要因で誰かが倒れているし、暗いし臭いしゴミまみれ。良いところを探す方が難しい国だ。



 でも、ここでは粗探しができないくらい綺麗だ。こういうところは参考にしたい。


 続いて、サージスの国史。俺達が習ったのは過去の文献と語り継がれてきた先人の言葉によって成り立ったものだ。建国から今までをずっと見てきた魔族が書いたサージスの歴史を知りたい。


 期待に胸を膨らませてページを捲った俺は、とある記述に、言葉が出なくなった。 


 

『サージス国建国から四百年。サージス姓虐殺事件発生。同年、貴族文化が流入。新しい血筋の王族の統治が始まり、国王九代分の歴史が消失。これにより先住人口の約八割が短期間のうちに死亡し、伝統文化は途絶える。翌年、竜ヶ丘との国交断絶。魔族を悪とする習慣が広まる』




 それは、国史では習わなかったことだった。カリウ先生みたいな多言語に精通する人でも、多分このことは知らない。



 それに、ショックだった。レオンが虐殺事件を起こした人間の子孫だなんて。俺の友達のほとんどが貴族だ。皆の祖先がサージスを悪い方へと変えた。俺も、多分侵略者の子孫の一人だ。


 人口の約八割が死亡。虐殺の対象にされたか、医療機関にかかれずに病死したか、新たな病原菌に対応できなかったか。どれをとっても最悪だ。


 現状、今の王族は知っているんだろうか。この過去を。文字だけで見てもかなり酷いことがわかる。

 一悶着二悶着どころじゃない。



「あー……。見つけちゃった? 最初にここは駄目って言っておいた方が良かったね」

 オブシディアンが少し気不味そうに声をかけてきた。



「これ、本当なの……?」

「残念だけど、本当。サージスにいた魔族の子達も逃げきれなくて、ボクの友達や、フェリーチェの直属護衛だった子も、全部含めて四割は犠牲になった。ハルが知らなかったのも無理ないよ。どうせ後から来た貴族達が歴史書を書くんだから。今の王族も、多分あの事件は知らないと思う」



 オブシディアンが“たん”付けをしなかった。やはり、こっちが素のようだ。


「詳しく教えてもらうことって……」

「良いよ。でも、その後の観光楽しめないかも」

「観光はいつでもできる。また来れば良い」

「温泉はまた今度になるね。早いけど屋敷に戻るよ」

「お屋敷までですね。わかりました」



 ここまでで、両国の歴史書に間違いがあることがよくわかった。俺にできるのは正しい歴史を持ち帰ることだけ。

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