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四十五話 お兄ちゃん


「ハルたんが来てくれた……! ノエル! 見て見て! あれがハルたんだよ! しかもあの革鞄使ってくれてるー!」



 キャーキャーとはしゃぐ人をよく見ると、“身体的特徴に関しては”魔王と似ている。が、魔王ってこんなんなのか? 何か子供っぽいというか。フェリーチェが言ってた変わってるってこういうやつか。それなら無害だわ。



「オブシディアン様。ハル様にフェリーチェ様の記憶はないので自重してください、とあれ程言ったではありませんか。正直気持ち悪いですよ。フェリーチェ様も、なぜ要らぬことを教えてしまったのでしょう……」


「うっ……痛いところを突くな……それに、フェリーチェたんは、大好きな人に使う呼び方って言ってた」

「でもフェリーチェ様には拒否されたらしいじゃないですか」



「あ。あの、ノエル様? 俺は特に気にしないので平気ですよ?」

「気を遣わせてしまって申し訳こざいません。普段はもう少し威厳があるのですが……」



 だからいいって。迷惑じゃないから。

 あ、忘れないうちにお菓子渡そう。


「人間の物で申し訳ないのですが、粗品です。よろしければ皆様で食べてください」

「え! 良いの!? ありがとう!」


「あ、それと……この革鞄、ありがとうございます。凄く使いやすくて何度も修理して使ってます」

「ぐっ……!」



 俺がそう言うと、胸を押さえて蹲ったオブシディアン。体調不良? 大丈夫かな。これから話し合いみたいなので長時間拘束しちゃう予定なんだけど。

 こういう時、身長があれば良いって思う。抱き抱えて歩けるから。


「あ、あの……大丈夫ですか?」

「なんとか……ハルたんが可愛すぎて、つい……」



 そういや、たんって何だろう。ちゃん、みたいなものなのかな。おじさんとバレッタおばさんは俺をハルちゃんって呼ぶけど、たん?


「オブシディアン様! ハル様が引いてます! 初手で嫌われたくなかったらさっさと案内して差し上げてください!」

「嫌われる!? やだ! 案内する」



 ノエル様……自由な主を持つの、大変そうだな。


「ん」

「……? えっと……?」

「逸れないように、手を繋ごう」

「……! そういうことですね。わかりました」


 ほとんど人の流れがないところでどうやって迷子になるのかわからないが、隠し部屋とか罠とかがあるなら避けて通らないといけない。そのためのだろう。


 オブシディアンの脈拍と呼吸が異常なくらい早いのは、言わないでおこう。




 歩いていて思った。初めての景色のはずなのに、凄く懐かしく感じて、落ち着く。フェリーチェの遺伝子的なやつだろうか。

 キョロキョロと見回す俺に、オブシディアンは丁寧に説明してくれた。脈拍は相変わらず早いが。



 まず、この屋敷は「寝殿造り」という建築様式らしい。フェリーチェの起こした図案の一つにあったものをそのまま採用したようだ。内装の構造は無視らしいが。

 フェリーチェのいた世界では貴族が住んでいた屋敷でもあると聞いた。


 引き戸を開けると草のような香りがした。床材の畳の材料が井草であるからだと教わった。落ち着く匂いだ。


 中には低いテーブルにクッション? かな。

「はい、ここ座って。これは座布団だから座るための物なんだよ。ほら、座って」

「は、はい」



 クッションじゃなかったか。どう座れば良いかわからないのでとりあえず正座。あ、凄い足が楽。屋敷に入る前に靴を脱いだから足痛くなるかなって思ったけど、この座布団のお陰で全然痛くない。すっごい快適。



「お茶お持ちしました」


 暫くすると、ここに来る前に一旦別れたノエル様がお茶と共に戻ってきた。目の前に置かれたのは緑色の飲み物と俺が作ったお菓子。神に聞いたところ、カステラというお菓子らしい。この飲み物に合うらしいのだが、大丈夫だろうか。



「これは緑茶っていうお茶だよ。サージスでも昔は飲まれてたんだけど今は紅茶になってるかな。国交断絶して何百年も経つからもうわかんないや。ちょっと苦いけど不味くはないよ」

「い、いただきます……」


 少し怖いが、チビチビと口をつけてみた。

「……!」



 美味しい……! 確かにちょっと苦いけど紅茶より好きかも。カステラにも手をつけるが、合う。とても合う。一見相性悪そうなのに。



 ただ……この味は受け入れてもらえないだろうな。サージスの人達は甘いのが好きだから。ほろ苦だとしても苦いものは苦いんだって言いそう。


「美味しい?」

「はい。少し苦味がありますが、それが凄く美味しいです」

「だよね。ボクも大好き」



 食べながらフェリーチェについて少しだけ教えてもらった。


 この、竜ヶ丘という国もフェリーチェが作ったものらしい。もともとは野晒しで、衛生環境も話にならないようなところで住んでたらしい。住んでたっていうか、そこにいるしかない、みたいな温度感だったんだと。



 それに気付いたフェリーチェが生活環境を整えて、オブシディアンを王に据えて文化を根付かせた。五十年ちょっとでよく二国も作れたよな。


 サージスは貴族が入ってきた影響でもともとあった文化は廃れていったが、ここは王が変わってないのと、その王がフェリーチェラブだったから途絶えさせないような対策を行なってきたらしい。



 子供達に継承させるための体験型学習をする職人を支援したり、学校の授業で伝統文化について学んだり。


 王になった魔族はその年齢から不老不死になるらしい。当時二十七歳だったオブシディアンは千二百年以上経ってもその時のまま。本人曰く。

 不老不死だから、ここまで伝統が続いてるのかもしれない。



 王が変われば考え方が変わる。次の代がしょうもない奴だったら、それ以降復活させたくてもさせられないといったものも出てくるだろう。


 そういう意味では不老不死の王って良いな。仲良い人を見送り続ける苦痛に耐えられるメンタルならだけど。



 フェリーチェについての話を聞いたらその流れで設計図を見せてもらった。凄く丁寧に保管されていて、破損のはの字もない。


 設計図には、建物だとこの屋敷のような寝殿造りの説明の他に、数寄屋造りと呼ばれる民家、蔵造りと呼ばれる店舗、学校や病院などの説明が書いてあった。


 建物以外だと馬車の牛バージョンみたいなのもあった。牛車らしい。まんまだった。昔のサージスや竜ヶ丘には馬よりも牛の方が多かったことからこういったことになったみたい。

 でも今のサージスには牛より馬の方が多いから馬車が主流にはなるかな。



「これ、何ですか?」

 ペラペラとめくっていると、気になるものが出てきた。馬車に似てるけど、馬車よりずっと小さくて、壁がない。


「これは人力車っていうものなんだよ。移動手段として使うことがほとんどかな。牛車とか馬車とかと違って大体二人乗りで、光を遮るための幌がこの部分。人力車はら引く人と会話しながら観光ができるところとか、カップル受けが良いところとかが魅力かな」



 確かにそうだな。馬車と違って量を多めに用意しないといけない分、大量の雇用を生み出せる。



「ハルたんはどこに領地を持つつもり?」

「俺は雪が降る地域が良いです。温泉街とかも作ってみたくて」

「良いね! 温泉街! フェリーチェたんも温泉大好きだったんだよ。竜ヶ丘にもあるから日が沈んだら二人で入りに行こう。実際に温泉入ってみると、絶対参考になると思うよ」



 フェリーチェとの思い出を楽しそうに語るオブシディアン。この人は、長い間、友達がいない空白の時間を一人で過ごしていたんだろうな。実際には誰かが必ず付き添ってるはずだ。でも、心の中はわからない。


 ここまでフェリーチェを好いてくれている人だから、悲しい思いをしてきたんだろう。俺が代わりになれるかはわからないけど、継いだからには代わりになってやる。



「はい、本物の温泉には入ったことがないので凄く楽しみです」

「……ハルたんはボクに敬語、いつまで使うの? 慣れるまで、とか待てない。今すぐ取って」


 さっきとは打って変わって、不満気な表情。この人は俺に何て言われたいんだろう。




「……お兄ちゃん。俺、お兄ちゃんと一緒に温泉入りたい」


 どうだ? 可愛い“らしい”俺の顔を最大限活かして堕としにかかったが。あれ、固まってる。大丈夫かな。おーい、大丈夫ですかー?




「ぶはっ……あまりの可愛さに息ができなかった」

 あ、息してなかったのね。喜んでるってことで良いんだろうかこれは。


「これからずっとお兄ちゃん呼び希望で」

「じゃあハルたん呼び禁止。兄は弟にそんな呼び方しないと思う。たん呼びとか、フェリーチェと同じ。フェリーチェはお兄ちゃんの弟じゃないからたん呼びして良い。でも俺はだめ」



 一瞬絶望した顔をしたオブシディアン改めお兄ちゃんは区別しろと言った俺の言葉でぱあぁぁっと笑顔になった。わかりやすいな。


 一通り説明してもらった俺は、まずはオブシディアン案内で観光をすることにした。

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