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四十四話 矢文


 ヘルガさんの誕生日会も終わり、数日、平穏な暮らしが再び戻ってきた――わけもなく、今度はオブシディアンに会いに行く任務が出てきた。


 しかも、学生をしながら。四月に入ったからあと四ヶ月くらいで卒業だけど、その四ヶ月が長い。両立できるかなあ。それに、報告書のためにまた検証もしないといけないし。



 そして、殺到する貴族達の相手も。


 ヘルガさんが四組である以上、俺は一組に行く気はない。そう主張し、四組に居座っているせいで、教室の前は常に守護者とお近付きになろうとする貴族達が群がっている。



 でも、大体こうやって来る奴は一度でも俺を馬鹿にしたことがある奴。相手にする気はない。

 こっちは忙しいんだ。オブシディアンに会いたいのに、竜ヶ丘の場所もまだわかってないんだから。


 地図もない、手紙にも特に正確な場所は書いてない、とにかくないないづくし。


 でも魔王ってことは、ラ・モールの森の近くに住んでるかもしれない。ラ・モールの森は結構実験で行くから奥の方まで入ってみようか。



「ヘルガさん、俺、今日ラ・モールの森に入ってきます。もしかしたらオブシディアンに出会えるかもしれません」

「実験のついでですよね」

「はい。確証もないですし」

「僕も一緒に行きます」


 ということで、久しぶりにラ・モールの森に入った。名目は一応、避難所の建設に関する検証。かなり深いところまで潜った。ここまでは初めて来るから何本か休憩所を建てて。



 地魔法で豆腐ハウスを作って、出入り口に魔鉱石を設置。ヘルガさんに入ってもらい、俺は豆腐ハウスに全力で攻撃を加える。

 で、今度は魔鉱石の設置されていない豆腐ハウスを攻撃する。



 するとどうなるか。魔鉱石の設置された避難所はそこまで硬くないのだが、無傷。それに比べてただの豆腐ハウスは跡形も残っていなかった。影も形もない。



「ヘルガさん、どうぞ」


 無線式連絡ツールでヘルガさんにメッセージを送ると、暫くしてヘルガさんが出てきた。これも外の音を通さない避難所に向けて、魔法研究所に開発してもらった物だ。

 これの実験も頼まれてたので。各避難所に設置すれば、外の様子を見に行って死ぬ、みたいなベタな失敗は起こらないと思う。こんな下らないことで死なれたくない。



 犠牲がゼロってことは多分ない。でも、予測できる死のリスクは潰しておきたい。




 この実験を通して分かったことは四つ。


 魔鉱石は守護者の攻撃を受け続けると、二週間ほどで劣化が始まってしまうこと。


 魔鉱石を設置された建物はどれだけ脆くても壊れないこと。


 無線式連絡ツールを使用すれば、外とのコミュニケーションが可能であること。


 内側から外側を見ることはできないが、扉を開けた人物に限り、外側から内側を見ることができる。



 大体この辺だ。


 この報告書をライゼン様と魔法研究所に提出する。無限鞄に入れてさあ帰ろう、と本来の目的をすっかり忘れていると、ヒュンッと何かが飛んできて、近くに生えていた木に刺さった。



「敵襲ですか?」

「と、とにかく確認してみましょう」


 刺さった物をよく見ると、紙が括り付けられた矢だった。もし毒矢だとしてもピアスがあるから大丈夫だとたかを括り、矢を抜き取る。



 紐で括られた紙を開くと、中身は地図だった。オブリガード家と、とある地点の間を赤い線が繋いでいる。線を辿ると、終着点には「竜ヶ丘」の文字が。




「親切……」

「ですねー」


 オブシディアンが描いたのかな、これ。だとしたら……俺達、見られてね? いや監視されてるよね。絶対見られてるよね!



「し、親切……ですかね……?」

「ストーカー……とも言えそうですね」


 正直逃げたいのだが、これほどの手腕を持つ奴から逃げるのは不可能だろう。



「じゃあ……この革鞄って……」

「まさか、ストーカーからの、贈り物……?」


 こっわ! 怖すぎるんだけど! 俺、六年以上ストーカーからのプレゼント背負ってたの!?


 あれ? でも逆に考えてみたら、俺嫌われてないってことだよな? 嫌いな奴にプレゼントなんて渡さないからな。



「明日、学校を欠席して会いに行ってきます」

「わかりました。じゃあ僕の方からエリーラ先生に伝えておきますね」

「ありがとうございます」





 翌日、俺はソウルを連れて、手紙が投げ込まれた地点まで行った。ここから地図を見ながら竜ヶ丘を目指す。竜ヶ丘はラ・モールの森を抜けたところにあるらしい。


 丁度良いので魔物狩りもする。あ、手土産持ってきたよな? 無限鞄の中は……あるわ。手土産の定番はお菓子らしいから一応お菓子作ってきたけど、魔族って人間の物食べれるんだろうか。だんだん不安になってきた。



 でも行かないと何も始まらないんだ。もし食べられないって分かったらソウルに食べて貰えば良い。


 地図を見ながら進むと、途中で分かれ道にぶつかった。片方は、気持ち悪くなるくらい酷い瘴気が漂っている。恐らく、濃い魔素湖が集中している。SSランクの魔物はああいった場所に出現するんだろうな。



 身の危険を感じたので瘴気が薄い方に進むことにした。地図にはどちらに進めば良いか描いてないけど、明記されてないってことは、どっちに行っても良いってことだろう。


 比較的安全そうな道を選んで数時間ソウルに乗って移動すると、森の出口が見えてきた。ソウルってめっちゃ早いな。地図上ではもっさもさに木が生い茂ってるのに一日もかからないなんて。神獣って凄い。




 出ると、早速舗装された道路が出迎えてくれた。木製矢印看板には色々と場所が書いてある。真っ直ぐ行けば竜ヶ丘のお屋敷、左は商店街、右は住宅らしい。


 サージスではこういう場合、迎えの馬車が来るのだが、ここでは城まで辿り着くこと自体が試験みたいなものなんだろう。ソウルから降りて、ここからは歩いていく。


 街の入り口には門があり、門番が警備をしていた。地図を見せると、簡単に入れた。こういうのって入国審査とかないのかな。

 オブシディアンが描いたんなら門番はオブシディアンの文字を知ってるってことか。



 街には色々な姿の住民がいた。人間のように見えても、羽や尻尾が生えていたり。ただ、暴れたりしている光景は見られず、魔物と違って理性的な種族であることが見てとれた。何やら俺を見てコソコソ話しているような気がするけどきっと気のせいだな。



 誰かに話しかけられることもなく、アッサリ着いてしまった。竜ヶ丘の屋敷。と、思ったらいつの間にか囲まれていた。これも試験だろうか。



「ソウル、手出し無用ね」

「了解した」


 ソウルが俺の鞄に入ったことを確認して、ガーターベルトに刺していた短刀を出した。相手が刀だからっていうのと、ここでトルネードかますのは流石にマズイから。



 短刀に氷魔法を纏わせる。こうすることで刃が触れた場所が凍結し、相手を殺さずに戦闘不能にすることができる。相手は皆高身長。姿勢を低くしてナイフを構えた。



 最初に突っ込んできたのは体の一部が鱗で覆われてる人。すんでのところで躱し、脛に触れた。その瞬間、バキバキと地面が凍り、彼の足を拘束した。


 よし、あと八人。


 足ばかり狙うとバレやすくなるので腕や胸なども狙った。



「あれ、終わっちゃった。こんなもんなのかな」

 倒れた人は両腕を塞がれてバランスが取れなくてコケた人達だから大丈夫。怪我人はゼロ。

 短刀をベルトに戻してソウルを出す。






 よし、行こ――

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